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異能×屍 -終末における俺の異能の有用性について‐  作者: ペリ一
競合の章

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41/51

第1話

 

 なんという事もない日常をただただ貪っていた。


 死んだように生きるな、等と言った手前、少しのバツの悪さを感じ始めていた頃。


 その人物はやってきた。


「俺は行かなくちゃならないんだ。それが俺の使命なんだ」


「まぁ待ちなさいよ。なんでそれが貴女の使命だって思ってるの?話が見えてこないわ」


「……ある種の、天啓を受けたんだ。言っても信じては貰えないだろうが……」


 そこまで言うとその女性は居心地が悪そうに身体を揺すった。



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 時は数時間前まで遡る。



「とりあえず俺は幽体を飛ばして柚子に報告すっから。あのゾンビは頼んだぞ」


 そう言うと執斗の身体からフワ、と半透明なモノが出たかと思うとそれなりの速度で拠点としている住居の方向へ飛んでいった。


「……俺に丸投げか。まぁ……ゾンビ一体くらいなら何とかなるか」


 一方の青葉はカロリー消費による肉体強化を始め、倒れ込んでいる人物の方へと駆け出していた。


「オラ!こっちだ!」


 手始めにその辺に落ちていたゴミをゾンビに向け投げる。


 すると、そのゴミはジュワッと音を立てたかと思うと融解した。


「……嘘だろ」


 青葉は結界に肩をぶつけつつも倒れていた人物を抱き抱えゾンビから逃走を試みる。


「ちょ、待て!逃げるんなら集合場所を……!」


「とりあえずこの結界沿いに逃げる!……それに赤嶺さんなら一瞬で追い付いてくれるだろ!」


「分かった!……あ、あとその異能ゾンビは……!」


 執斗が何かを言っていたが距離が開いてしまい聞き損ねる。


「融解……クソ、そこまで発熱量の高い異能なんてあったか……?」


 せいぜいが発火止まりだった筈だが……


 そんな事を考えつつもあの異能ゾンビから必死に逃げる。


 幸い、移動速度の強化は無いのかあっさりと距離が開いた。


「新種の異能……?それとも執斗みたいに異能検査を逃れた?……でもあんなに直接的な異能が隠せる筈が無いし……」


 そんな事をぶつぶつと呟く青葉の頭上を、ボォッと音を立てながら何かが飛んでいった。


 慌てて確認する青葉。そこには__


「炎……!?発火プロキネシスの能力まで持ってんのか!?」


 どちらにせよ人を抱き抱えた状態で勝てる相手では無い、という事を再確認しつつ更に距離を取るべく駆け出す。


「青葉ぁ!」


「赤嶺さん!?速っ!?」


 いつの間にか隣は来て並走している少女に対し軽い畏怖の念を覚える青葉。


「大丈夫!?……そう、あのゾンビね」


「……気を付けてくれ。どうも妙な異能を持ってる。とりあえず高温に関する何かを操ってるみたいなんだが……」


「発動する前に滅多斬りにすればいいのよ」


 ジャラッ!と音を立てて大剣を双剣へと変化した赤嶺さんが異能ゾンビの方へと駆けていった。


「赤嶺さーーん!?あ、あの一応炎飛ばしたり物溶かしたり……」


 そう叫ぶ俺に返答とばかりに返って来たのは、天高く舞うゾンビの首であった。



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ーーーーーーーーーーーー


 天啓、等とよく分からない事を言い出したその女性を不審感丸出しで見つめる赤嶺を宥めながら必死に自分の記憶を掘り出す。


「……もしかして、壁だとか、妙な場所に字が書かれていたりしたか?」


「あ、ああ……確かにそうだが、何故それを?」


「じゃあ決まりだな。あんた、天啓プロフェットの異能に目覚めたんだよ」


 プロフェット……日本語で言うとすれば預言者、といったところか。


 この異能は集落の呪術師等が稀に発現する希少な異能である。



 この異能に目覚めたモノは、自分にしか見えない字を様々な状況や場所で見るようになる。


 そしてその書かれている文字は大抵、未来の予知であったり、世界の危機に関する事であったりする。

 まるで神からの言葉を預かったかのようなその異能は、天啓……或いはプロフェット…預言者と名付けられた。


「天啓……確かに、そうかもしれない」


「あんたのその天啓、一体何が書かれてた?教えてくれ」


「……異能研究学園へ行け。それがお前の使命だ。……それだけ、だ」


 ふむ。


 ……そうか。



「護衛が必要なんじゃ無いか?」


「青葉?もしかして付いて行くなんて言うつもりなの?」


「……天啓の異能が嘘を付く事は無い。読み違えて、人間側が間違える事はあっても、だ」


「私達、北野からわざわざ逃げてここまで来たのに……」


「死んだように生きるな……赤嶺さんが言った事だよね」


 俺の言葉に何か考えさせられる物があったのか、黙り込む赤嶺。


 すると、交代とばかりに柚子が口を開いた。


「君、ここに来て天啓を受けたかい?」


「……い、いや?」


「嘘が下手だね。何か新しい言葉を預かったんだろ。聞かせてくれるかい?」


 一応は任意の形を取っているが、殆ど命令に近い物である事は誰の目から見ても明らかであった。


「……君達を連れて行くように、と。腕に文字が」


「ふぅん。……そうか……執斗、君はどうする?」


「……柚子こそどうするつもりなんだよ」


「僕は……行くよ。天から与えられた使命なら行くしか無い」


 柚子はやれやれ、と言った体であったが眼光は鋭く、何か強い意志を奥に秘めているように思えた。


「そうか……お前ら2人は?」


「俺は行くさ。死んだように生きるなって彼女に言われたばっかりだからな」


「青葉が行くなら私も勿論ついていくわ」


 全くもって頼もしい限りである。


「……そうかよ」


 執斗は吐き捨てるようにそう言うとその女性を睨みつけた。


「俺は行かねぇ。明らかに危険だろ……命が幾つあったって足りやしねぇ」


「執斗。これは天命だよ。僕達は行くべきだ……それに赤嶺さんが言うように、死んだように生きていても……」


「うるせぇな!」


 執斗の怒鳴り声に思わず場が静まり返る。


「……死んだように生きる事の何が悪い。だいたい何だよ、死んだようにって。お前ら死んだ事あんのか?……無いだろうが」


 誰からも返答はない。


「俺は死にたくない……死にたくないんだよ。ただ貪るように生きて何が悪い。ただ生きる為に生きる事の何が悪いんだ!……いいか、人生は物語じゃねぇんだよ!使命なんて、役割なんて……そんな物を貫いた後にある幸せなんて……そんな都合の良いモンなんて存在しねぇ!思い込みだ!……生にしがみつく俺はお前らの目から浅ましく見えるんだろうが、俺は生きたいんだ……そんな危険な場所には絶対に行かない」


「それがお主の答えか?」


 唐突に、耳慣れない声……いや耳慣れぬ言葉が響く。


 見ると、何かに憑かれたような様子でその女性が執斗を見つめていた。


「……ああ。そうだ。俺は生きる……この欲求は誰にも邪魔させやしない。何があっても生き残ると決めたんだ」


「……もう一度だけ、問うてやる。よくよく考えて答えよ……ここが分岐点・・・じゃ。それがお主の答え、か?」


「何度言われようが答えは変わらない。お前達を引き止めるつもりは無ぇからさっさと行けよ」


「執斗。待て。考え直してくれ」


 慌てて柚子が執斗を止める。


「……柚子」


「僕と一緒に行こう、執斗。大丈夫だ。赤嶺さんだって居る……頼むから、一緒に行ってくれ」


「……赤嶺さんだって無敵じゃねぇだろ。赤嶺さんがその辺の普通の女子高生と同じように何も出来ずに殺されるような化け物染みた異能者だって居る。だいたい俺は異能研究学園なんてあからさまな危険に飛び込める程、馬鹿じゃない」


「執斗……」


「お主の答えは把握した。ではもう行くとしようか」


 スッと女性が立ち上がりここを出て行こうとする。


 その姿には、有無を言わさぬ何かがあった。


「ちょ、待っ……執斗!頼む!来てくれ!……君は……色々とどうしようも無い奴ではあったが、僕はそんな君を……家族のように、兄のように思っていた!頼む!君と一緒に行きたいんだ!執斗!」


「……そんなに大切に思うならここに残ればいいだろ」


「……そういう……訳には……」


「だいたいその女の妄言だって可能性も考えないのかよ。どちらにせよついて行くなんて有り得ないな。少なくとも俺は絶対に行かない」


 執斗はそう言い切ると、こちらに背を向け自室の方へと歩き出す。


「執斗……!理解してくれ、僕は……」


「理解は出来ないがお前の意志は尊重するさ。行ってこいよ。ただ俺は絶対に行かない。……それだけだ」


 執斗が自室のドアをバタン!と乱暴に閉じた後、ガチャリというロックのかかる音がした。


「行くぞ」


「ええ。……柚子ちゃん、アイツはアイツで何かあるみたいだし放っておいて行きましょ」


「……」


 呆然としたまま、引き摺られるように家を出る柚子。


 その視線は最後まで執斗の部屋へと向いていた。


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