第4話
「……やっとか」
俺はその後、奇跡的にも戦闘を行う事は無かった。
今は、最寄りのスーパーに来ている。
「…バリケードの跡……?」
店の入り口には、侵入を拒むように、机や椅子が並べられていた……形跡があった。
この様子だと、どうも外から扉ごと吹飛ばされたらしい。
「……爆撃系の異能者の戦闘に巻き込まれた?」
この吹き飛び方はどうも爆撃系の異能としか思えない。
……ただ、明らかにこれは扉だけを狙ってやっている。
「仲間割れ……か?」
プロサバイバーさんに報告したら何かわかるかもな。
そう思い、何枚か写真を撮った。
「……さて、お邪魔します……っと」
そして、いよいよ俺は店内へと足を踏み入れた。
……いつもは愛想よく「いらっしゃいませ」と言ってくれる接客のおばちゃんは、もういない。
当たり前だ。
だが、俺の心はどうしようもなく沈んでいく。
……さっさと缶詰とか確保して帰ろう……
その時の俺は知るよしも無かった事だが……
掲示板では、こんなやり取りがなされていた。
384:名無しのサバイバーさん
やばいやばい超やばい
385:名無しのサバイバーさん
どうした
386:プロサバイバーさん
どうしました?
387:名無しのサバイバーさん
どうしたもこうしたも無い。
やばいゾンビ見つけた。
388:名無しのサバイバーさん
どうせ美人ゾンビとかだろ。
御託はいいから写真うpはよ
389:名無しのサバイバーさん
動画なら撮ってある
>>388
お前ふざけんな違うわアホ
【動画データ】
390:名無しのサバイバーさん
>>389
お前こんなCG作ってる暇があったら……
……する事ないな。まぁ釣りで暇を潰したい気持ちはわかる。
391:プロサバイバーさん
>>389
……いや。盲点だったかもしれない
392:名無しのサバイバーさん
>>389
ゾンビwwwがwww火をwwwwww放つとかwww
は?
392:プロサバイバーさん
384さんはもしかして、学園の近くに住んでいたりしないかい?
393:動画の人ですさん
>>392
はい、そうです。
394:名無しのサバイバーさん
>>392-393
あっ……(察し)
395:名無しのサバイバーさん
超光合成さんがヤバイ!!!
396:名無しのサバイバーさん
ちょっと待てよ。
じゃあ学園は異能持ちのゾンビがわんさかいるって事?
超光合成さん死亡確定じゃん。
397:プロサバイバーさん
……って事は、あの時ニュースでヘリを撃ち落としたのは異能持ちゾンビ……?
まずいな、コレは……流石に予想外だった。
超光合成さんは何としても止めるべきだったよ。
398:名無しのサバイバーさん
超光合成さぁーん!!!
掲示板見ろおおおぉ!!!!
399:名無しのサバイバーさん
もうアウトだろ……
多分死んでるぜ、あいつ。
400:プロサバイバーさん
いやでも、超光合成さんにだって異能はある。
武器も優秀な物が揃ってるし……
1対1で戦うように指示はしてるから何とかなるかもしれない。
……ちょうどそんな、書き込みがされた時だった。
俺は、1人……いや一匹のゾンビと遭遇した。
「……あ、あいつクラスメイトの……確か爆撃系の異能持ちだったな……自滅してゾンビになってたのか」
入り口に陣取られてるせいで出られん。
……一応知っている顔なんだよな。
………いやいや…殺してやるのが一番の優しさなんだ。
そう思わなければ。
「ヴガ……ァア……」
さて……保険の肉体強化をかけて……
一気に行くッ!!
「ヴァ?」
気が付かれた……でもこのまま……ッ!!
その時だった。
そのゾンビの掌から、1つの煙のような物が射出された。
劣等感からか、異能の種類を人一倍勉強し、詳しかった俺は……それが何かを瞬時に理解し、煙から離れるため、思い切り横に跳躍した。
その数秒後。
ドンッ!!!
という唸るような爆撃音が店に響いた。
「はぁ、はぁ……異能!?」
あの異能は確か、爆撃系でも一番ポピュラーな爆弾射出だ。
その異能自体は驚くような物ではない。
ただ、問題なのはそれを使用したのがゾンビである、という事。
「ガァ!!」
ゾンビは更に俺へ追撃を放ってきた。
すかさず横に跳躍。
直後、爆音が響く。
……まずいな。何とかしてコイツを倒さなければ。
爆撃系異能者との戦闘は、インファイトに持ち込むのが定石だ。
何故なら、爆撃は自分よりある程度離れた場所でやらなければ自分も巻き込まれてしまうからだ。
そのため、近付かれ過ぎると爆撃系の異能はまるで役に立たなくなる。
ならば肉体強化系である俺の勝機はかなりあると言っていい。
……その異能者が人間ならば。
ゾンビが怪我を恐れる?なんの冗談だそれは。
どちらにしろ致命傷を食らう可能性が高い。
だが、早々に解決しなくては爆音でゾンビが集まる。
「……自爆、狙うか……!」
回収した食料を鷲掴みにし貪り、カロリーを補給する。
今爆撃を避けれているのは、かなり距離があるのと、使用しているゾンビの知能が低いからだ。
近付けば近付く程、回避の難度は増すと思っていい。
それも自爆を狙える程近くとなるとちょっとやそっとの肉体強化じゃ厳しい。
カロリー消費MAXでいくしかない。
「……ふッ!!」
短く息を吐く。
気合い入れろ。殺るか殺られるか。
二つに一つだ!!
ドンッ!!!
危なげなく回避。
残り距離、約50メートル。
ドガン!!
爆風に吹かれ、髪がハラリと舞ったが、怪我はなし。
残り距離、約40メートル。
「ヴァグァガアアア!!」
なかなか当たらない事に業を煮やしたのか、爆撃を放ちつつ自ら近づいてきた。
一気に距離が20メートル程にまで縮まる。
ドゴォン!!!
「……ッ!!」
今のはギリギリだった。
だがあともう少し距離を詰める必要が……!!
残り5メートル……全力で横に跳べぇええええ!!!!
「うおおああああああああ!!!!!」
ドォーンッ!!!
あまりの爆風に体が吹飛ばされる。
ドンッ、ゴロゴロ……
「いってぇ!!」
背中から着地しちまった……
「……はっ!あ、あのゾンビは!?」
慌てて煙に包まれる店内を確認する。
……ってか、店内?
あ、爆撃と爆風で店突き抜けて来たのか俺。
「なら倒していようといまいと関係ねぇ……帰宅しねぇと」
俺はフル強化をキープしたまま、全力で走り始めた。
「はぁ……はぁ……ッ!キツい……!途中で何処かに隠れて一晩過ごすか……?」
出来れば屋上があって日光浴が可能な場所で。