閑話休題 平穏を望む者
かなり遅れてしまいました。
申し訳ないです……
その感覚を取り戻したのは、いつだったか。
……そうだ、元・同族の死体を見た時だった。
その時、自分が何であったかは思い出せない。
壊れたマンホールの隙間から覗き見ていたネズミのような気もするし、死体にたかっているハエだったような気もする。
……まぁ、そこはどうでも良い。
とにかく、人以外の何かとして人の死体を見ていた。
……その、死体を見た瞬間、自分の身体は泡立ち、形を変化させていった。
まずは、腕。
次に、脚。
その次は、腰。
じわじわと人間の感覚を取り戻すと共に、過去の忌まわしい記憶が蘇ってきた。
それは
実験体……所謂モルモットとして非道な仕打ち、実験を受けた記憶。
稀有な異能者というだけで、人権の全てを剥奪され、液状の謎の物体を栄養源として血管に打ち込まれ、身体を裂かれる日々。
その地獄のような研究施設で呼ばれていた名は……確か……
「おい、No.16、人体掌握……実験の時間だ」
……あぁ、確かそうだ。
僕の異能は人体掌握……
自分の身体の機能を意のままに操る能力。
……今思えば、何という皮肉だろうか。
他人に全ての権利を掌握されていた自分の能力が、人体掌握?
……ははは。
そして、いつしか僕は。
壊れた。
気が付けば僕は下水道に居た。
その時は……そこら辺にいたネズミにでも擬態した……ような気がする。
そして暫くは、下水道で他の生物にまた擬態したりしながら、日々を過ごした。
だが、僕は再び人間に戻った。
ならばやる事は一つ。
復讐だ。
異能者を……虐げ続けたあの愚か者共に鉄槌を食らわせてやる。
そう意気込み、僕は最近の世界情勢、異能者に関する政治について聞き込みや捨てられた新聞から必死に勉強した。
そして辿りついた、一つの事実。
過去に起きた、異能者の大暴動や、思想家の反発により異能者の立場が見直され。
今現在ではもう、虐げられている異能者など居ない。
……勿論、それだけで信用する程馬鹿ではない。
隠れて未だに行われている非道な実験があるはずだ。
それを調査するには……
「……異能学園……」
なるほど。まずは此処に在籍し、高い地位に着く事が出来れば、一般人では知り得ない情報も手に入る……
……だが、その為には戸籍が必要だった。
……今でも頭がどうかしている行動だったと思うが……
僕は、1人の女性に
「僕を産んで欲しい」
……そう、頼んだ。
勿論、あらゆる脅しを駆使して。
自らを胎児に変化させた僕は、買収した医師に頼み、その女性の腹の中に入った。
……そして僕は順調に……予定通りに成長……するフリをし、産まれる瞬間を待った。
意識を明確に持ったまま出産するというのはなかなかに奇妙な体験だった。
僕が産まれた時、女性は何故か泣いていた。
……憎悪の篭った目で見られてもおかしくなかったというのに。
……そこから俺は異能検査に引っかかり、無事、異能学園へと入学を果たした。
「……君の異能は?」
この質問には非常に困った。
なので僕は無難に。
「……肉体再生です」
と答えた。
異能を見せて欲しい、と言われ僕は指を食いちぎり、再生してみせた。
僕のその様子を見て、その面接官は。
「……いつも、そんな事をしていたのかい?」
と尋ねた。
変に否定すると悪い、とでも思ったのか僕は
「えぇ、まぁ」
そんな言葉を返した。
……このせいだろうか。
一部で、この僕の異様な再生能力は、自らを傷つけ続けたからだ、と妙な噂がたったのは。
……そうこうしている内に、僕の異能の名前が決まった。
不死身。それが僕の異能の新しい名前だった。
そこからは人生で初の学校、という物を経験した。
僕は高い地位に着くためにも必死に勉学に励み、コネ作りにも奔走した。
……そして、気が付けば生徒会長になっていた。
……とても
とても、楽しかった。
充実した日々だった。
僕が、焦がれていた日々が、平穏が、そこにはあった。
異能者を用いた戦争が続いている国もあったが、異能者は戦争には不可欠な存在であり、非道な仕打ちを受けている者がいる、という情報は入って来ない。
……このまま、この日々が、続いて欲しかった。
でも、それは叶わなかった。
世界は、一瞬にして……変わった。
屍の闊歩する世界へ。
「……崩壊因子」
こんな大規模な災害だ。
おそらく、因子数値の高い異能者が何らかの関与をしているはずだ。
……崩壊因子。
異能をある程度学んだ者が辿り着くであろう、異能の一つの可能性。
それは、異能の制御ミスや、暴走による世界の崩壊。
それらが起こる確率の数値は崩壊因子と呼ばれ、異能毎にその因子数値が決められている。
例えば、青葉の超光合成の因子数値は6。
一般的な異能の因子数値が0〜2であるから、通常の異能よりは少し高めな数値である事がわかる。
一方、不死身の崩壊因子は。
30である。
かなり高い方である、と言っていいだろう。
だが上には上、というものがある。
異能の中には因子数値が10万を超える物もある。
おそらく、その異能者は米軍の異能精鋭隊が抑えにかかっているはずだ。
米軍には確か因子数値の上位者ランキング等の情報を持っていたはずだ。
各国のそういった因子数値の高い異能者を捕縛してまわっている可能性も高い。
……だが、まぁ。
「捕縛なんて生温いな……」
殺す。
この平穏な世界を壊した、異能者を。
「……許す訳にはいかない」
自分が人間を辞めてもなお、焦がれ続けた夢を、破壊された。
……もしその異能者が目の前に現れるような事があれば……
僕は……
「生徒会長ー!殲滅完了しました!」
「……ッ!……ああ、そうか。ありがとう。ご苦労様」
……危ない、危ない。
今は、この子達を1人でも多く生き残らせる事に集中しなくては……
「……あの、生徒会長」
「ん?何だい?」
「……少し、体調が悪いのですか?顔色が……」
「あはは、いやいや、少し考え込んでいただけだよ。体調は悪くない、むしろ良い方さ」
……浮かない顔をしつつも頷く生徒を見ながら北野は、これからの生存プランを練り始めていた。




