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異能×屍 -終末における俺の異能の有用性について‐  作者: ペリ一
開花の章

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第6話

「……いったい何の錠剤だったの?」


「いや全く……異能関連っぽかったですけど……うおおお!!?」


 杉崎が唐突に叫び声をあげ触手をしまい込んだ。


「え!?何!?……きゃああああ!!!」


 思わず悲鳴をあげ青葉から遠ざかる一条。



 それもそのはず。


 青葉が唐突に痙攣し始めたのだ。


「おいどうした……はぁ!?本当にどうしたよオイ!?」


 2人の声に思わず振り向いた大橋がそんな困惑の混じった叫び声をあげる。



「お、おい!!青葉!!!生きてるのか!?返事しろよ!!」



 だがその言葉に青葉が返答できるはずも無く、更に痙攣は……――




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 全身を虫が這い回るような不快な感覚を覚えつつも、俺……青葉 茂 は真っ暗な空間でまどろみに甘えていた。


 先程から意識も段々とぼんやりしてきている。


 このまま緩やかに死ねるのなら、それも良い。


「もう……どうでも良いんだ」


 だが、何かに繋ぎとめられたかのように意識の混濁が食い止められ続けている。


「……何でだ……俺が……俺は生きてたところで……」


 思い起こせば、無様な敗北だった。


 まさか知性もろくに持っていない屍相手に作戦負けするとは。



「座学優秀者が聞いて呆れる……」


 ……あぁ、俺は……




 その時だった。



 俺にとっては親しみ深い……例の不快感、嫌悪感が身体中で暴れまわり始めた。


 下から叩き上げられるようにして俺の意識はハッキリとしていき……




「……っあぁ!!?」




 ……そんな、無様な声をあげながら、俺は目覚めた。




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「……っあぁ!!?」


 そんな、少し情けない声が後ろから聞こえ、慌てて振り向く。


「青葉!!」


「目覚めたんならさっさと扉開けに行くぞ!!誰か背負え!!」



 赤嶺はその言葉を聞くなり青葉を持ち上げ、右肩に担ぎ上げた。


「ちょ、赤嶺さん!?」


 周りから困惑したような声が聞こえてくるが、関係ない。


 さっさと扉を開けなければ、前線組での犠牲者が増えてしまう。


 青葉を背負ったまま駆け出した赤嶺は、少し後ろを向き……


「……早く!!!」


 そう、叫んだ。


 赤嶺の一声で周りの生徒も慌てて駆け出す。


「邪魔しないで!」


「近寄るな腐れ野郎共ォ!!」


 犠牲者が奇跡的にゼロで済んだお陰か、生徒達の士気は高い。


 その勢いそのままに、赤嶺達は関係者入口、と書かれた扉をぶち破った。




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「……う、あ……」


 ようやく口がマトモに動くようになってきたか。


 ……さて、状況を分析するとしよう。



 ……まず、俺は今赤嶺さんに担がれて、この門の開閉装置?的なやつの前に居る。


 杉崎が例の赤細い触手みたいなので回線を繋ぎ直したりなんやらしてるらしい。


 そして奥の方のドアからは戦闘音。


 入ってきたゾンビ相手に防衛戦を繰り広げているんだろう。



 ……しっかし、あの状態から無理矢理、蘇生するとは……一条も、杉崎も、滅茶苦茶な事をするもんだ。


「……赤嶺」


「……ッ!……起きたのね」


「……ああ。すまん……降ろしてもらっていいか」


「……」


 無言のままゴロン、と部屋の床に置かれる俺。


 ……情ねぇ絵面だな。


「……っあぁ……」


 一度、心臓が停止した身だからか、伸びをしただけで身体中からバキボキとえげつない音が鳴っている。


 ……さて。


「こっちが出口……で良いんだよな?」


「……そうだけど」


「……こっち側にゾンビがいないか、不安じゃないか?……どうせやる事無いし俺が見てきても良いが」


 ……俺がそう言うと、赤嶺達はキョロキョロと互いに目を見合わせた。


「……そうね……じゃあ私も行くわ」


 ……赤嶺さん……


「……あ、いやー、俺1人の方が逃げる時も都合良いし……というか護衛が1人くらい居ないと駄目だろ」


「……そう」


 俺の言葉に納得したのか、引き下がる赤嶺。


 俺は内心、ホッとしながら周りの面々を見回す。


「……じゃあ、ちょっと行ってくるぞ?」


「……おう」


「……わかったわ」



 ……その返答を聞くと、俺はズキズキと痛む良心を押し殺しながら、出口へと続く廊下の扉を開けた。




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「……アイツは、使えない奴は真っ先に切り捨てるタイプの奴だ」


 俺の異能は、便利だ。


 俺個人が生き抜く分には、という条件付きだが。



 ……そう、俺の異能は……他者に何の利益ももたらさない。


 そんなんじゃ、駄目だ。


 まるで役に立たない。立てない。


「……やっと、廊下も終わりか……」


 恐る恐る後ろを振り返るも、まだ誰も来ていない。


 ……何を躊躇う必要がある。


 お前はこの団体に属していた所で、リスクはあれどリターンなど無いはず。


 ならば……



 ……ならば、今ここで逃走する事がベスト……!



「逃げるんだ……俺は……逃げて……」


 1人、静かで……それなりに救われた生活を送るんだ……



 罪悪感、緊張感、焦燥感、絶望感、開放感


 あらゆる感情の波に揺られながら、俺は。




 扉を開けた。






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「……青葉は」


「……どんどん遠ざかってますね……もう探知外です」


 杉崎がこちらに目もくれず返答する。


 ……そうか、やっぱり逃げたか。


「……どうすんのー?」


 体育座りで膝の上に頬を乗せたまま一条が問いかけてきた。


「……私があの話をしちゃったのがいけないのよ」


 あの話……それは、北野が生徒達をあえて死兵にし、ゾンビにけしかけたという話。


 それは、北野が他人を捨て駒として扱う事に何の抵抗も無い、という事の表れであった。



 ……となれば、ただでさえ用途に欠ける異能者であった青葉があんなミスをやらかせば、最有力の捨て駒候補となるであろう事は想像に難くない。


 ……となれば、逃走するというのはある意味で正しい判断であった。



 敏い青葉であれば、話を聞いただけでそこまで想像できるだろう。


 だが私は、聞こえていないと思い、ここに来るまでの道中にその話をしてしまった。


 恐らく、その時には既に意識はかなり回復していたのだろう。



「……私なら守ってやれるのに……」



 思わずポツリと呟いた言葉。



 それに対し返ってきたのは、一条と杉崎の苦笑のみであった。

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