表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能×屍 -終末における俺の異能の有用性について‐  作者: ペリ一
偽花の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/51

第2話

人によっては結構主人公にイライラしてしまうかも


一応、注意で。

 今日も、雨だった。


 俺は何度目かもわからぬその言葉を日記に書き殴った後、昼食の缶詰を開封した。


「……はぐ、むぐ……」


 どうも先日から飯が食べにくい。


 こうやって日光浴ではなく普通の食事に切り替えてからは、歯も磨いているはずだ。


 ならば口内の異常というのは考えづらい。


 そんな事を考えていたせいか、ポトリとスプーンを床に落としてしまう。


「……う?」


 その時、初めて。


 自分の手がずっと震えていた事に気付いた。


「……まるで禁断症状だな」


 さしずめ日光中毒といった所か。


 思えば、太陽は俺の唯一信頼のおける物だった。


 毎日変わらず俺に姿を見せ。


 俺に栄養補給、そして包み込むような温かさを与えてくれた。


 裏切ることも無い。


 関係性が崩壊する事もない。


「依存、か」


 震える手でスプーンを無理やり掴んだ俺は、ヤケを起こしたように、缶詰の中身を貪った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー


 次の日の朝。


 カーテンを開くも、やはり太陽は俺に姿を見せてはくれなかった。


「……そういえば、もう梅雨、か……」


 擦れた声で呟く。


 日光が浴びれないとなると、食事を摂らなくてはならない。


 洗面台に行き、歯ブラシに歯磨き粉をつけ、口に突っ込む。


 そのまま歯ブラシを口に突っ込みつつ、朝食の缶詰を探しに物が散乱したリビングへと向かった。


「……むぐ」


 そろそろ頃合いか、そう判断し再び洗面台に戻り、水と共に口内の歯磨き粉を吐き出す。


 その後、二、三度程、口の中の歯磨き粉の名残を吐き捨てる。


 そして満足気な表情で再びリビングへ向かった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 ーーーーーーーーーーーー



「……飯が無い」


 ここ数日、俺は日光を浴びれない事にヤケを起こし、暴食に走っていたようだ。


 あれだけあった備蓄が全てなくなっていたのだ。


「……食料庫があったな」


 歓談室が出来てから、俺は殆ど下に降りていない。


 あの部屋を作った少女本人に冷たい言葉を浴びせた事への後ろめたさや、あの青年への不信感等が原因だ。


「……行くか」


 だがこんな事態となってしまっては仕方がない。

 食料庫に行くしかないだろう。


 確かに、自分で調達してくるという方法もある。

 だが、この雨に打たれ風邪でも引こうものなら、地獄を見る事となるだろう。

 今、この場に、医者はいない。

 病気になる事だけは絶対に避けなくてはいけないのだ。




「……」


 自然な流れで武器の類いを装備する自分に呆れを感じつつも、俺は部屋を出た。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー



「……!……?」


 歓談室から何やら話し声がする。


 ゾンビが寄ってきたらどう責任を取るつもりなのだろうか。


 そんな事を考え、顔を顰めつつ、食料庫へと入る。


 暗い室内をずんずんと進み、食料の置いてあるリビングへ入る。


 そして、俺の目にうつったのは……




「……これだけ?」


 缶詰一つ。


 そう、たった一つである。


「おいおい嘘だろ」


 ……皆も同じ発想で、外に出ずこの食料庫の備蓄を減らしていったのだろうか。



 隣の歓談室から聞こえてくる声が、俺を嘲笑う声のように感じた。



「……クソが」


 俺は今、日光を浴びれないんだぞ!!


「普通、俺に譲るだろうが!!!」


 怒りに任せ缶詰をバールで叩き割る。


 そのまま机を蹴飛ばし、ドアを蹴り開け、部屋を出る。




 そして怒気を纏ったまま、階段を昇っていた俺の背中に、声をかけた者がいた。



「ちょ、ちょっと!」


 その声に聞き覚えのあった俺は、ぬるりと振り返った。


「……何だ」


「いったいどうしたんですか……と、とりあえず落ち着いて……」


 例の青年である。


 俺が隣の食料庫で暴れ、その音に気が付きすっ飛んできたのだろう。


「……食料……食料がなんであんなに少なくなってるんだ」


 俺はそんな答えの分かり切った質問を青年にぶつける。


「この雨ですし、外に出るのは危険ですから……」


「そんな事は分かってる。だけどな、俺はお前らと違って…………ッ!?」


 そこまで言ったあたりで、俺は自身の怒りの理不尽さにようやく気が付いた。


 俺はお前らと違って、何だ。


 普通の人は超光合成なんて使えない。

 当たり前だ。


 俺以外の人間は、栄養補給の為、生きるために毎日命懸けで、必死で……食料を集めていたんだ。


 俺は違う。


 娯楽だった。遊びだった。


 俺は未だに、世界が崩壊する前の日常の残りカスにしがみつき、現実から目を背けていた。


 その気になれば、一日中屋上で寝ているだけで良いというのに。


「何が、人間として生きる、だ……」


 自分の醜さに反吐が出そうな思いだ。


「ど、どうしたんですか?」


 限界だった。


 俺はその場から逃げるようにして階段を駆け上り、自分の部屋へと戻った。



 ガチャリ。


 ドアがロックされた事を確認した俺は一目散に洗面台へ向かい……


「お、ぉぉえ……」


 嘔吐した。


「……はぁっ……はぁっ……」


 洗面台の淵を掴みながら、何度も何度も。


 それこそ、吐く物がなくなるまで。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー


「…………」


 気が付けば、俺は洗面台に縋り付くようにして眠っていた。


「……いてぇ」


 そんなめちゃくちゃな体勢で寝たせいか、体の節々が痛む。


 パキポキと関節を鳴らしながら立ち上がり、ふと、鏡の中の自分と目が合う。


「はは、ひっでぇ顔……」


 乾いた笑いが漏れる。


 そこには目元が真っ赤に腫れ、自嘲気な笑みを浮かべる男がいた。


「……本当に救いようがねぇな、俺は……」


 救いようがない。


 俺がそう言ったのは、何もこの顔だけではない。


 こんな事になっても、未だに生き足掻く意志がある事に対しても、救いようがないと言ったのだ。


 レインコート代わりになりそうな、なるべく水を弾きそうな素材で出来ている上着を見繕い、羽織る。


「……ああ……最低だよ、最低だ……」


 だけど。

 生きる意志がある限り、足掻く。



 そして俺は、普段より大きめのバッグを背負い、ドアノブに手をかけ。


「罪悪感抱くくらいなら最初っからするなっての」


 再び自嘲気に笑い、部屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ