第1話
今日ものどかだなぁ。
晴天の空を見上げ、俺はそう思った。
晴れている、というのは良い事だ。
俺はそういう能力だからな。
……下から聞こえてくる呻き声を意識の外に追いやり、俺は日光浴を続けた。
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国立異能研究学園
いのけん、だとか言った略称で呼ばれるこの学園は外から隔離されている。
名前から察せられる通り、時折現れる……(近年では頻度が増したが)異能力者を研究……もとい、教育するための場所だ。
異能の発現は幼少期から思春期にかけてが多く、成人後に発現する者はほとんどいない。
そのため、一般的な授業も行われる、故に学園という名がついている。
俺は年に2度程行われる異能検知に引っかかり、数週間に渡る調査の末、異能が何かがわかり晴れてこの学園に入学する事となった。
……そう、数週間、である。
何故、そんなにも時間がかかったのか。
それは俺の異能がわかりにくかったからである。
……この俺、青葉茂の異能……それは……!
ゴツン!!
「何をボソボソと呟いている……そこまで私の授業は熟睡しやすいか……ほう、そうかそうか」
……これはまずい。
周りのクラスメイト達も、俺の方を見てクスクスと笑っている。
「えっと、いやぁ……これはですね……修行……そう!修行なんですよ!異能の!」
「あぁそうか。熱心な奴だな。放課後に特別メニューのご褒美をくれてやる。喜べ」
よ、容赦ないですね……
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「……はぁ」
ようやく昼休みだ。
俺はいつものぼっちランチスペース(俺命名、校舎内の物置前までの階段の踊り場)に腰を下ろし、バックから飯を取り出す。
朝にコンビニで買ったパンの包装を破り、中身に食らいつく。
「ん?」
……なんだ、鏡かよ。
こうして見ると、やはり俺はパッとしない。
ボサっとした髪。やる気の無さそうな目。
身長はそこそこだが、平均よりゃ上程度。
……はぁ。
心の中ですら溜息をつかねばならんとは。
そんな事を考えながらパンを咀嚼していると、階段を上がってくる足音、そして話し声が聞こえてきた。
「おい、聞いたかよ、あの話」
「どの話だよ」
「ばっかお前、ニュースとか掲示板で話題じゃん!」
「あぁ……例の狂人?」
「それそれ!また出たらしいぜ!」
「マジかよ怖いな」
「掲示板によるとさ……ゾンビじゃねぇかって」
「……んー、だとしてもさ。俺ら異能力者で制圧出来そうだし、そもそも隔離されてるココには来ないっしょ」
……狂人?
……そういえば朝の報道番組でそんな事を言っていた気もする。
俺は朝の報道番組は、時間把握のためにつけているという面がでかいため、内容はあまりちゃんと聞いていない事が多い。
……しっかし、掲示板ね。
俺はポケットからスマホを取り出し、暇な時巡回している掲示板にアクセスした。
「【緊急】終末で生き残るには【人類ピンチ】……なんだこりゃ下らねぇ」
だがこういう類の下らない物が大好物な俺はスレッドを読み漁っていく。
ここの掲示板の住民曰く、狂人はゾンビで確定らしい。
そして大量の、生き残るために必要な物品がスレ住民達によって書き並べられていた。
ほうほう。マチェットは銃刀法に引っかからないのか。
俺はすぐに『マチェット 購入』で検索をかけてみる。
なるほど。……となると手入れ用の砥石とかもいるか。
お、バール。これは欠かせないだろ。
俺は昼休みの間中、ずっとそうやって物品をネットで漁り続けていた。
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「気を付けて帰れよー」
さて、待望の放課後である。
特別メニュー?土下座して免除にして貰いましたけど?
次の授業じゃ流石に寝ないようにしないとな。
別に受けても良かったが、俺はこの後サバイバル用品の購入という大切な使命がある。
こういう時は流れに乗っかって全力で楽しまないとなー。祭りじゃ祭りじゃー。
「あ、茂君」
ん?
「そんなに急いで……何か用事があるの?」
そう思ったんなら話しかけないでいただきたいですね。
「……ちょっと買い物手伝って欲しかったんだけどさ……駄目かな?」
そんな図々しい事を言ってきたのは俺に妙に絡んでくる女子、赤嶺美智。
最初は、俺に惚れてるんじゃね!?という勘違いをしたものだが、赤嶺のコレは違う。
同情、あと俺をダシに他の男子を撒いたりだとか。
そういう気持ちが絡んでいる。
「ごめん、急ぎの用だから」
という訳で、祭りより優先する価値など無い。
お断りします。
「あ、うん……ごめんね」
マジでそう思うならもうやめてくんねぇかなぁ。
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ふー、買った買ったぁ。
写真取って「俺準備万端だわwwwお前らもはやくしろよwww」とかそういうスレでも立ててやろうか。
ちなみに今、俺は学園の中でも、校下街と呼ばれる場所の隅っこにあるしょぼいマンションの一室にいる。
そう。このしょぼくれマンションの一室こそ俺の家。マイホーム。
校下街について少し説明をしよう。
この学園は、校舎や研究施設の並ぶ中心部。
そしてその周りを囲むように存在する街。
そしてそれを囲む壁。
といった構成になっている。
校下街は、その街の事を城下町風に言い換えたものだ。
てか天下の異能研究学園になんでこんなしょぼいマンションあるんですかね。
いや、これのお陰で俺は学生寮に住まなくて良いわけだし感謝してるんだけどさ。
ちなみにこのマンションは6階建てで、各階に三部屋ずつ部屋が存在している。
そして内装はどこも統一されている。
玄関。真っ直ぐ行けばリビング&キッチン
てかリビングで寝るから寝室でもある。
そしてトイレと風呂は玄関からリビングまでの廊下の右手にある扉からいける。
シンプルでいいですね!
……まぁ、俺1人だしそんなもんで充分だ。
ちなみにリビングはそこそこ広い。
……それはさておき。
掲示板の流れどうなってるかなー。
「【朗報】人類、終了のお知らせ…………ふふっ、なんだそのAA」
そうやってベッド寝転がりながら掲示板を見ていると。
「【速報】いのけん、遂に感染者の侵入を許す……!?マジでッ!?」
思わず身を乗り出しスレッドを凝視する。
1:名無しの屍さん
ニュースでもまだやってないんだが。
知り合いが門前で揉めてるのを見て、聞き耳を立てた所。
「侵入させてしまった」って単語を聞いたんだと。
2:名無しの屍さん
マジかよ学園終わったなwwwwwwwww
3:名無しの屍さん
いや異能力者なら余裕で殲滅だと思うんですけど
4:名無しの屍さん
ソースが弱すぎ。誰か他に学園関係者いないのー?
「……んー、これは釣りかな……」
5:名無しの屍さん
てか狂人=ゾンビってほぼ確じゃん?なんで異能力者動かさない訳?
さっさ殲滅しろよ。
6:名無しの屍さん
>>5
無責任な事言ってんじゃねぇぞ。
まだ人権問題とか色々あるんだよ。
7:名無しの屍さん
>>5
お前身内がゾンビになっても同じ事言えんの?
8:名無しの屍さん
>>6-7
お?なんだこいつら?
学園関係者か?
9:名無しの屍さん
>>8
くっさ
「……んー」
つまらん流れだな。
もうちょい情報が欲しいもんだが……
……もういいや、買い物もして今日は疲れた。
寝るとしますか。
そうやって俺は、そのままベッドの上で意識を手放した。