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自作小説倶楽部 第9冊/2014年下半期(第49-54集)  作者: 自作小説倶楽部
第54集(2014年12月)/「イルミネーション」&「珊瑚礁」
49/49

05 E.Grey 著  珊瑚礁 『公設秘書・少佐、黒澤商事事件5』

   //事件概要//


 長野県月ノ輪村役場職員・三輪明菜は、休暇をとって東京の婚約者宅に遊びにきていた。婚約者は佐伯佑。「少佐」と仇名される切れ者の公設秘書だ。明菜が二人の時間を楽しんでいると、彼が仕えている代議士・島村センセイから電話がきた。

 内容は、センセイが懇意にしている黒澤社長が、ビジネスのため渡米している最中に、社長室の金庫が破られたというものだった。なにか弱みがあるらしく、極力警察に踏み込ませたくないから、内部捜査をやった上で、犯人を捕らえて突き出したいところ。それには佐伯の頭脳が必要だというのだ。

 二人は窃盗事件の現場である黒澤商事にむかう。

    09

.

 応接用リビングテーブルには、透明なテーブルクロスがかけてあり、間に珊瑚礁の写真が挟んであった。

 佐伯は、空にした珈琲カップを卓上に置き窓際に歩いていき、窓を開けた。

 上と下をみてから、また、窓を閉めた。

 それから、

「やっぱりエアコンはいい。冷房が効いた部屋で飲む夏場のホットコーヒーほど美味いものはない」

 とうそぶいた。

 佐伯の目線とかけて秘書の小泉志保ととく。

 その心は、――巨乳巨乳。

 とまではいかなかった。褒めてつかわす。

 小泉志保、なに、アピールしているの!

.

    10

.

 佐伯がいった。

「たぶんトリックは単純でこういうことだ。火災ベルを鳴らし、ランチタイムでも会社に残った連中がそっちに注意をむけるようにする。すると、社長室に空白が生じる。その隙に、金庫に爆薬を仕掛け扉を爆破。書類をそこの窓から落とす。クッションのきいたバックだ。それを下の駐車場にいた色男な江口仁志が拾って、何食わぬ顔で喫茶店に歩き出す」

 佐伯が窓辺にもたれかかり、シガレットケースを懐中から取り出し、一本口にくわえて火をつけた。

「志保さん、しかしそこで貴女は重大なミスを犯した」

「え、ミス?」

「共犯者である女性秘書が金庫を開けて、部屋からでてきたところを、追いかけまわす熱烈ファンの男性社員にのぞきみられた。しつこくデートを申し込んで詰め寄るのだが興味のない男。男性社員の目に何気なくファイルのタイトルが入った。……貴女はその場では何食わぬ顔をいていたのだが、弱みがあった。男性職員はいつものようにデートを申し込む。ふつうなら断られるところが、すんなり通ってしまったことに驚く。男性職員は彼女の犯罪を確信した」

 なるほど、マッチョ酒巻は、秘書の小泉志保を庇うため、あえて自分が罪を被るような行動をとるわけだ。

 ――というわけで、真犯人は色男の江口仁志。共犯者が小泉志保。

 二人は黒澤社長が帰ってくると、これまでの功績と温情から、懲戒免職という形ではなく依願退職という形で解雇した。

 問題の警察にみられたらヤバい賄賂関係の書類の件だけれども、これは、島村センセイと黒澤社長のお二方が危惧しているより、あっさりと佐伯が解決した。

 佐伯は、江口に、

「警察に突き出す代わりに、書類を渡した報道機関と担当者を教えてくれ」

 と、いったところ、あっさりと江口は吐いた。

 週刊『東京倶楽部』編集部の中居だ。

 そこに佐伯は電話してこういってやったわけだ。

「不法侵入・窃盗・器物破損……ああ、そういえば、ちょっとしたパニックになって職員の何人かが階段から転落して大怪我を負った。こりゃまずいよね。天下の『東京倶楽部』が犯罪だなんてね。何人クビが飛ぶだろう。おたくの雑誌社も危ないんじゃないですか」

 バックが戻ってきたのはいうまでもない。

.

    11

.

 今夜、佐伯のマンションに泊まって、明日、長野の田舎に帰る。

 明後日からは通常勤務だ。

 その前に、やっておかなければならない大仕事がある。

「ねえ、祐さん。ヒマワリの絵を贈ったでしょ。意味知ってる?」

「あなただけを見つめますとか熱愛とかだったな」

 ポーカーフェイス野郎。知っていたのか~。

 その晩、警視庁にいる佐伯のお友達・真田警部から電話がかかってきた。

『佐伯さ~ん、面白い事件があったんだって? 教えてくれないっかなあ~』

 と、猫撫で声できいてきたのだが、適当にあしらって受話器を置いた。

 毎度のこと旅費は高くつく、そのぶんの代償だ。今夜は佐伯にたっぷり汗を流してもらうとしよう。

END


   //登場人物//


【主要登場人物】

●佐伯祐さえき・ゆう……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。

●三輪明菜みわ・あきな……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。

●真田幸村警部……七三分けの髪型で四角い顔をした、大柄な男。東京都警視庁のキャリア組。三輪明菜の住む村月ノ輪村に駐在する、長野県警・真田巡査の甥。その気になれば自力で解決できる事件でも佐伯利用して捜査費用を浮かせようとする。

●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。


【事件関係者】

●黒沢社長(社主)……依頼人。島村代議士が親しくしている学生時代の後輩。

●江口仁志えぐち・ひとし……渉外課の係長。コロンを効かせた長身の美男で、デキル男の評判がある。

●酒巻健司さかまき・けんじ……さえない感じをした総務課所属の若い社員。タラコ唇。筋肉質。

●小泉志保こいずみ・しほ……一見してお水系な美人秘書。

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