04 らてぃあ 著 イルミネーション 『惑星の夢』
「助かりました。遠くからキラキラと人工の光が見えたので降りて来たのに何も見つからないし、行けども行けども岩と砂しかなくて途方にくれていたんです」
旅人は焚き火の光に目を細めて言った。炎は少し熱すぎたが砂漠の中の小さな光 は彼の心を昂揚させた。
「昔はもっともっと明るかったよ」
老人は呟くように言った。乾いた声が闇に霧散する。フードで半ば覆われた顔に幾筋もの皺が浮かび上がる。
この人はいくつくらいの歳だろう。旅人は無邪気に考えた。百歳?まさか二百?
旅人は自分の無学に突き当たった。人間の寿命がどのくらい伸びるのか知らないから考えても仕方ない。医学も生物も、全く無い。ここまで来るのに頼ったのはコンピューターが制御する計器だ。自身で地形を見る知識があればこんなに迷わなかったに違いない。それに、自分は今ちゃんと話せているだろうか?無知で変な男だと思われているのではないか?
岩のように寡黙な老人の態度は彼をますます不安にさせた。
暫し沈黙。旅人が耐えかねて口を開く。
「ところで人が住んでいる場所へはどうやって行けばいいんですか?」
「どこにも誰もいない。みんな居なくなった」
「そんな馬鹿な。じゃあ、おじいさんはどうやって生きているんです?」
「最初も私しか存在しなかった。たくさん生まれて増えた。生き物で一杯になり、闇を恐れた人間が作る光が満ちた。しかし、ある時、人間の過ちで大気に放射能が満ち、全てが消えてしまった。その時、もう一度生み出すには私は歳を取り過ぎていた」
老人の表情は見えなかった。しかし深い悲しみが感じられた。
「災害があったのですか?でも、僕が見た光は何だったのでしょう」
「夢さ。私の。空を飛ぶ鳥たち、風に揺れる草花、流れる水に泳ぐ魚たち、そして世界を光で満たそうとした騒がしい人間たちの夢を見ていた」
老人の声が遠のく。全てが闇に包まれ、そして旅人は目を開けた。
見えたのは地上用車のコントロールパネル、そして灰色の空と砂漠だった。どうやら昨夜この惑星上を走り回っているうちに疲れて寝てしまったらしい。迂闊さに寒気を感じる。
データを再度確認してこの惑星上に生物がいないと結論付けた。
「夢」か。
宇宙船に戻った旅人は四本の腕を伸ばして筋肉をほぐしながら考えた。
広い宇宙では自分と違う次元の生命体の存在を感じることも珍しく無い。あの老人はこの惑星の化身のようなものだったのだろう。
夢見る惑星か。
幼いころに見た故郷が頭をよぎる。が、頭から振り落とす。感傷に浸っている暇はない。生物が生存可能な惑星を見つけることが自分の仕事だ。コンピューターは動いているし、細胞サンプルもある。
三個の目を閉じて旅人は未来に思いを馳せた。
了




