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自作小説倶楽部 第9冊/2014年下半期(第49-54集)  作者: 自作小説倶楽部
第54集(2014年12月)/「イルミネーション」&「珊瑚礁」
47/49

03 柳橋美湖 著  イルミネーション 『北ノ町の物語』

【あらすじ】

 東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしていたOL・鈴木クロエは、奔放な母親を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、母親の遺言を読んでみると、実はお爺様がいることを知る。思い切って、手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきた。そしてゴールデンウィークに、その人が住んでいる北ノ町にある瀟洒な洋館を訪ねたのだった。

 お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくその町はちょっと不思議な世界で、ゆくたびに催される一風変わったイベントがクロエを戸惑わせる。

 最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上の魅力をもった瀬名さんと、イケメンでピアノの上手な小さなIT会社を経営する従兄・浩さんの二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ……。そんなオムニバス・シリーズ。


    08 イルミネーション

.

 ランプで灯された小部屋だった。

 怪しげな男たちが埃だらけのテーブルを囲んで悪巧みをしていた。

「計画は順調か? ド田舎のこの町なら、われらが拠点を築いても、公安には気づかれまい」

「そ、それが……」

「なに? 失敗したのか?」

「管長、町長や議員たちに袖の下をつかませたのですが、もう一歩のところで横槍が入ってしまったんです」

 白髪の男が顎に指をあて、しばらく考え込んでいると、妙案を思いついたようだ。

「――あの男をつかう」

「あの男ですか?」

「あの男だ」

「なるほど」

 怪しげな男たちは、顔を見合わせ、クツクツと笑った。

.     * * *

 ご機嫌いかがですか、皆さん。

 鈴木クロエです。

 年末年始に有給休暇をちょっと加え、お爺様のお家でクリマス会をするんですよ。とっても楽しみ。いつもの夜行列車に乗っています。もう朝だからまもなく駅に到着。そしたら、従兄の浩さんや、顧問弁護士の瀬名さん、ときどきお手伝いにきてくださる、ご近所の小母様を加えてモミの木の飾りつけをして、それから、みんなで夕食にする予定です。

 あ、海がみえてきました。

 北ノ町。

 雪景色になっている。

 それじゃ、ここで、降りますね。

 長い休暇だから、今日もってきたトランクはぎゅうぎゅうで、重たいです。小さな駅の改札をやっとこさすり抜けて、広場にでたときのことです。

 タクシー乗り場にいた、見知らぬ、背の高い小父様が、私に声をかけてきました。なんだか私を知っているみたいで、しげしげと、こっちをみた後、小声で忠告するようにこうおっしゃったのです。

「鈴木御殿にはゆくなよ。十分したら、上り列車がくる。それに乗るんだ。いいな」

「え?」

 そういと、小父様は待たせていた別の車に乗って、いずこともなく行ってしまいました。

 いったい、なにがなにやら、このときの私には分かりませんでした……。

.     * * *

 私を駅までお出迎えして下さるのは、浩さんか瀬名さんのどちらか。今日は瀬名さんでした。今日は私が帰省してきたので、瀬名さんも法律事務所のお仕事をお休みにしちゃったんだそうです。――え、それって、大丈夫なんですか?

 除雪車が行き交う街路を抜けて、坂道を登り、丘の頂にたどりつくと、そびえている二階建ての牧師館、そこを改装したのがお爺様のお屋敷。二重構造になった玄関をあければ暖炉とピアノがあるホールになっていて、モミの木が立っているはずです。

 しかしです。

 庭先には、パトカーやワゴンといった警察関係の車両や救急車がいて、私たちが中へ入ろうとすると、入れ違いに刑事さんがでてゆきます。その後ろから、消防士さんたちが、布で覆われた誰かを担架に乗せて、素早く救急車に乗せると、そのまま走り去ってしまいました。

 制服警官の皆さんが、五、六名で、玄関先をビニールシートで覆い始めています。

 唖然として玄関先にいる、私と瀬名さんの前に、ときどきお世話にきてくださる近所の小母様と従兄の浩さんがやってきて、

「お爺様が何者かに撃たれた。小母様が厨房で料理をなさっていて、僕が暖炉の薪を裏の小屋にでていた。お爺様がモミの木の飾りつけをしている最中だった。賊が玄関から踏み込んできて、いきなりお爺様を拳銃で撃って、そのまま逃走したらしい」

 捜査員の話によると、お爺様は危険な状態とのこと。

 瀬名さんは、

「残酷なようだが大事なことだ。弁護士という立場上、自分は、必要に応じて先生の万が一のときがあれば即座に処理をしなくてはならい。先生が搬送された診療所に行く。……君たちはお身内だ。屋敷の留守は小母様にお任せして一緒に行こう」

 とおっしゃいます。

 それで私たち三人は、診療所に行こうと、瀬名さんの乗用車に乗りこもうとしたときのことです。

「先生を銃で撃ったあの人、もしや……」

「え、小母さん、みたの?」

「はっきりとじゃないけど、先生に珈琲をお出ししようとしてホールをのぞいたとき……」

 すると、年配の刑事さんが話に割り込んできて、

「詳しくきかせてもらいたいですな」

 とおっしゃっていました。

 お話は気になりましたが、ともかく、急いでいましたので、私たちは瀬名さんの車に乗りました。

.     * * *

 若いというほどではないけれど中年というほどの年でもない瀬名さんが運転するリムージン。助手席に私より少しだけ年上でノッポな浩さん。そして後部席に私が座りました。

 診療所に行くまでの間にこんな話がありました。

「浩君、さっき、小母様がいいかけたこと、訊いているだろ……」

「え、あの……」

「顔見知りか?」

「う……」

 浩さんは話すのが辛い様子。

 診療所・手術室前の長椅子に私たちが座っていると、お爺様の容体をみにきた刑事さんが、小母様の証言を教えて下さいました。

「どうもお爺様を撃った犯人というのは、私が子供のときに母と別れた後、行方知れずになっていた父だったというのです。しかも父は、何か大きな借金を抱え込んでいて、母と別れてからもお金を無心にきたことがあり、最近は断られていたというのです」

「え、父が?」

 私は卒倒しそう。

 刑事さんが続けます。

「クロエさん、本日中に、お父上を重要参考人として全国に指名手配することにします」

 私は目まいがして、刑事さんが、それから先、何をおっしゃったのだか、よく理解できなくなってしまいました。

.     * * *

 お爺様の手術は夜更けまでに終わり、とりあえず、私たちはお爺様の屋敷に戻りました。

 人の丈より少し高いモミの木には、イルミネーションが、途中まで施されていました。

 床にはお爺様が撃たれたときの血がまだ飛び散っています。被害にあったとき、お爺様が試しに豆電球を配線しかけていた様子で、まだ、それらが点滅しています。

 診療所に詰めていたとき、捜査にやってきた刑事さんの話によると、父が母と別れた理由というのは、新興宗教団体に関わったからだそうで、莫大な借金というのもそこに貢がせたからだといいます。

 ――宗教法人メビウス。

 それってもしかして、先月・十一月、浩さんを誘拐した事件に関わった一味?

 すると教団は父をつかって、お爺様にたかろうとしていたんじゃない。こないだ、お爺様にやっつけられた仲間が、何かの目的と報復のために、お爺様を拳銃で撃った……。

 気を落ち着かせるためだと思います、浩さんが、山下達郎の『クリスマス・イブ』をピアノで奏で始めました。

 瀬名さんは、小母様が入れて下さった珈琲を口にしています。

 私は何気なく、床にしゃがみ込んで、お爺様の飛び散った血を指で触ってみたのです。 それから、イルミネーションをみつめました。

 ほんとうは絶え間なく点滅を繰り返しているはずのイルミネーションが、途中までしか配していないため、ほんの一瞬だけ真っ暗になる瞬間があることに気づいたのです。そのときに、父かもしれない犯人がお爺様を拳銃で撃った。

 もしかして。

.     * * *

 子供のときの母はおてんばで、瀬名さんの手をひいて、よく「そこ」へ遊びにでかけたそうです。町はずれにある鉱山跡。いまも給水塔や事務所、火薬庫といった建物があります。教団が関わっているとしたら、先月、浩さんの誘拐事件のときにつかった、灯台は使わないはず。消去法で怪しいのは鉱山跡しかない。……ということで、私たちは、やってきました。

 坑道入り口に放置されたトロッコ。

 レール横にある煉瓦造りの事務所。

 私たちはできるだけ静かに近寄っていきます。

 すると、中から声がしてきました。

「管長、こいつが鈴木の爺に撃ったところを確かに目撃しました。三発。即死ではありませんでしたが助からないはずです」

「そうかでかした」

「彫刻家・鈴木三郎は、鈴木財閥一門だ。寺崎明、娘をたらしこんで、せっせ、と教団に貢いでくれてありがとね。その上、われらの実態を知り過ぎた奴の暗殺までやり遂げた。君はもう用済み。口封じ。死体は誰もみつけられない坑道の奥深くに隠しておくことにするよ」

 そこで、な、なんと。

「外道が!」

 瀬名さんや私と一緒に、外で話を訊いていた浩さんが、逆上してドアを蹴破って、突入してしまったのです。

 ああ、相手は後六人。拳銃ももっているっていうのに、丸腰で殴り込みだなんて。

 そこへです。

.     

 シャンシャンシャンシャン。

 シャンシャンシャンシャン。

.

 うっそ。ジングルベルを鳴らしたトナカイのソリ。赤い服と帽子のサンタさん。

 ――いや違う。お爺様でした!

「鈴木家にとって教団は宿敵だ。この儂がぶっ潰す!」

 拳銃をもった教徒たちが発砲するのですが、お爺様には当たりません。

「至近距離でもなければそう簡単にあたるもんじゃない」

 サンタの格好をしたお爺様が、軽やかに雪上を駆け抜け、ジャンプしたかと思うと、手にした短い二本の木刀で、居並ぶ信者たちを突破。後方に回り込むまでに相手の拳銃をすべて叩き落とし、次の瞬間にはミゾオチに一撃を喰らわせて、悪党たちの膝を土につけたのでした。

「はっ速い」

 なんだか、サンタさんっていうより、『風の谷のナウシカ』にでてくる大陸一の兵法者・ユパ様みたいでした。

 ほどなく、パトカーやワゴンといった警察車両が押し寄せてきて、お爺様が一網打尽にした邪教信者たちに手錠をかけ始めました。

 それから。

.     * * *

 私たちはクリスマスパーティーをやり直しました。

 みんなで暖炉の前に置いたソファに座って、シャンパンを開け、鶏の照り焼きとか、ケーキとかを食べました。

 父は教団に潜りこんだ公安委員会特命捜査官で、事情はお爺様もご存じだった様子。

 えっ?

 私や瀬名さんが、なぜお爺様が撃たれたのが偽装だったのが分かったかですか?

 ――だって、床の血というのがインクの匂いがしましたし、飾りかけのイミテーションの点灯は半端で、本来はAグループとBグループの豆電球が交互に点滅するはずなのに片方しか点かないわけですよね。

 そこに、一瞬ですが、闇ができます。

 お爺様と共謀していた父は、イルミネーションが消えている瞬間を狙って、弾道をそらし、お爺様に発射。お爺様は内ポケットに隠し持っていた赤インクの袋を拳で叩いて破裂させ、鮮血が飛び散ったように偽装したというわけです。

 敵を騙すためには、まず味方から。

 小母様には事情が知らされていたようですが、瀬名さん、浩さん、そして私・クロエ。……三人ともすっかりお爺様と父に騙されていたというわけです。

 母との離婚後、二十年間にわたって音信不通にしていた父。私の知らないところで、そんな父・寺崎明と密かに接点を持っていたお爺様。

 酷いっ!

 二人をとっちめたお話はまた次回、お正月明けにでも。

 では皆さん、御機嫌よう。

 

     END

【登場人物】

●鈴木クロエ/東京在住・土木会社の事務員でアパート暮らしをしている。

●鈴木三郎/お爺様。地方財閥一門で高名な彫刻家。北ノ町にある洋館で暮らしている。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住んでいる。

●瀬名玲雄/鈴木家顧問弁護士。

●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。

●クロエの母/故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。

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