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自作小説倶楽部 第9冊/2014年下半期(第49-54集)  作者: 自作小説倶楽部
第53集(2014年11月)/「霜」&「ホットドリンク」
41/49

05 E.Grey 著  ホットドリンク 『公設秘書・少佐、黒澤商事事件4』

   //事件概要//


 長野県月ノ輪村役場職員・三輪明菜は、休暇をとって東京の婚約者宅に遊びにきていた。婚約者は佐伯佑。「少佐」と仇名される切れ者の公設秘書だ。明菜が二人の時間を楽しんでいると、彼が仕えている代議士・島村センセイから電話がきた。

 内容は、センセイが懇意にしている黒澤社長が、ビジネスのため渡米している最中に、社長室の金庫が破られたというものだった。なにか弱みがあるらしく、極力警察に踏み込ませたくないから、内部捜査をやった上で、犯人を捕らえて突き出したいところ。それには佐伯の頭脳が必要だというのだ。

 二人は窃盗事件の現場である黒澤商事にむかう。

    07

.

 男の子が、「オッパイ」というと可愛い。

 オヤジが同じことをいうと卑猥だ。

 だが、佐伯を私の胸に抱えて、そういわせたら、どうだろう。

 ――いや、そんなことはどうでもいい。目の前の現実をなんとかしなくては。

「小泉志保、その可愛くない、卑猥な、オッパイを、私の佐伯からどかしなさい!」

 厚化粧の秘書が佐伯の胸に頬ずりしながら不敵な笑みを浮かべている。

「まあまあ、減るもんじゃあるまいし」

「減るもんじゃない? 乳牛のようなその乳房は鬱陶しい。いっそカロリー・七〇パーセント・オフにしたほうが美乳になるから減らしたほうがよくってよ!」

 秘書・小泉志保が、なによお。ムキーッ、て顔になった。

 い、いけない。私としたことが、はしたなく、取り乱してしまった。

 長身の佐伯は、両腕で秘書を一度宙に持ち上げるやシャンと背筋を伸ばした格好で、着地させた。

「個人的には、心名残だが、このへんにしておいて、本題に戻ろう」

 黒スーツの佐伯が襟元を正しながら、

「――ネクタイを整えるように、もう一度整理する。……社長が渡米した隙を突くように、金庫が壊され書類が奪われた。中身がどういう内容か、依頼主である社長は教えてくれないがだいたいは想像がつく。不正献金というか賄賂というか、そういうものに関係する書類。たぶん、学生時代に先輩後輩の仲だったこちらの社長さんと、うちのセンセイとの癒着ぶりを思わせる内容と考えられる。……犯人は金庫の扉を少量の爆薬で爆破。書類を奪った。犯人はその書類によってどんな利益を受けるのか、なぜあの日に奪ったのか、ほかの日ではならなかったのか」

 引き離された小泉志保が、いやらしくニヤついた表情を真顔に戻して、

「なんだか、哲学者さんみたですね」

 といった。

 そこで私はここみよがしに、

「犯人像をイメージする捜査テクニックで、プロファイリングっていうんですよ」

 と教えてやった。 

 「余計なことをいいやがって」という感じの横目で私を睨んだ佐伯が咳払いしてから話を続けた。

「もう一度確認しますが、金庫が爆破されたとき、社長室への出入りが可能だった人物は、黒沢社長、江口仁志、酒巻健司、そして小泉志保の四人ということでしたね。……そのとき四人はそれぞれどういう行動をしていたか、考えてみましょう」

 そこに、粘着系厚化粧・小泉志保ではないところの、ふつう系秘書なお嬢さんがいれたてのコーヒーを持ってきた。

 猛暑の夏だ。

 一応クーラーは効いているものの、どちらかといえば、アイスコーヒーのほうがありがたい。

 私は率直に、「恐縮ですが氷下さい」とお嬢さんにいった。

「す、すみません」

 慌てて皆のコーヒーを下げようとするところを、佐伯は制して、

「コーヒーには体温を下げる効果がある。砂漠の民も熱いコーヒーを好んで飲むそうだ」

 といって、そのまま、グイッとカップを乾した。

 お嬢さんの頬がポッと赤くなった。

 ――私はまた一人、自分でライバルをつくってしまった。

.

    08 

.

 社長が、島村センセイにやった、たぶん賄賂。――それに関する資料をどうやって、記者に渡したか。記者に渡ってしまっているのなら、もう手遅れで、どうにもならないことだ。しかし、それなら仲間のブンヤなり、嗅ぎつけた警官なりが、もう少し黒澤商事本社周辺をうろついていてもいいはずだ。

 しかしそうでないということは、まだ、資料は相手に渡っていない、と考えるべきだろう。

 佐伯がたてた仮説は、色男な江口仁志が金庫を爆破。資料を小泉志保に渡す。酒巻は非常口かなんかで社屋外に走り抜け、喫茶店エベレストで食事をする。……そう遠くはない。全速で駆け抜け、店に入り食事を頼む。

 私は佐伯が持っているカップをみて、ツッコミを入れた。

「しかし炎天下を全速力で駆け抜けたら、近いところにある店だとはいえ、汗だくになると思う。祐さんみたいに、夏だっていうのに、熱いコーヒーを飲んで汗一つかかない人ってそうはいないと思うわ」

 佐伯は、ほお、と声をあげた。

「それもそうだ」

 ――これってもしかして、オトボケ?

   (つづく)

   //登場人物//


【主要登場人物】

佐伯祐さえき・ゆう……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。

三輪明菜みわ・あきな……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。

●真田幸村警部……七三分けの髪型で四角い顔をした、大柄な男。東京都警視庁のキャリア組。三輪明菜の住む村月ノ輪村に駐在する、長野県警・真田巡査の甥。その気になれば自力で解決できる事件でも佐伯利用して捜査費用を浮かせようとする。

●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。


【事件関係者】

●黒沢社長(社主)……依頼人。島村代議士が親しくしている学生時代の後輩。

江口仁志えぐち・ひとし……渉外課の係長。コロンを効かせた長身の美男で、デキル男の評判がある。

酒巻健司さかまき・けんじ……さえない感じをした総務課所属の若い社員。タラコ唇。筋肉質。

小泉志保こいずみ・しほ……一見してお水系な美人秘書。


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