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自作小説倶楽部 第9冊/2014年下半期(第49-54集)  作者: 自作小説倶楽部
第53集(2014年11月)/「霜」&「ホットドリンク」
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01 ぼうぼう 著  ホットドリンク 『温感超能力者』

   温感超能力者


 私の前にはココアの入ったカップが置かれていた。カップに付いてる温度計は六十度。飲む前から、生ぬるいそれが美味しいわけがないのは判っていた。しかし、目の前の飲料メーカーの担当者は祈るような気持ちでそのココアを私に差し出した。私は一口それを飲むと、すぐに伝え始めた。

「六十度では、温度がぬるすぎて、ココアのざらつきが舌に残ります。もっと温度を上げると味わいが違ってくるはずです」

担当者は瞬時にココアの温度を上げることで増加するコストと、消費者に対する商品リスクに考えが及んだようで、うーんとうなった。

「人気のメーカーのココアとの違いは温度です、それが味に影響を与えているんですよ。美味しさを追求する製品を作りたいなら温度を上げなくてなりません」

「しかし、やけどのリスクが生じますよね」

「はい、でも美味しさの観点からいえば、ぬるいからまづいんです」


 私が温度を感じ取ることが出来る特殊能力の持ち主であることが知られるようになったのは、ネット配信の番組に自分のことを投稿してからだ。私の温感という特殊能力は最初インチキと疑われ、その後科学的見地から考察番組が何度も配信された。

 人が普通持ってない能力を持ってる私は「超能力者」とよばれるに至った。


 生まれた時から当たり前だと思っていた感覚を他人が持ってないことだと気づいてからは、「おかしな人間」といわれるのを恐れて、できるだけ気づかれないように生きてきた。それを公にしようと思ったのは、職場の室温があまりに高すぎてつらかったからだ。

 他人にとっては室温が高かろうと低かろうと、感覚としてはわからない。だから温度計で数値化してそれを判断するわけだが、一度や二度の変化はまったく気づかないのだ。無論、感覚はなくても体調に変化は起きるので、温度計を監視して夏場の暑さや冬場の寒さを調整はしているわけで、温度監視計はどこにでもごく一般的に設置してある機械であった。とはいえ、温感を持つ私には温度監視計の指示するタイミングがあまりにも大雑把で、つらすぎたのだ。


 それを言ったところで、私の温感を信じるほど職場がお人よしでもなかったから、私は職場をやめて「温感を持つ人間」であることを公表し、この能力で生計をたてることにしたのだ。

 好奇と猜疑の視線が落ち着いた頃、私は温感についての本を出版した。反響は私の予想以上で、本はヒットし、その後驚くほどたくさんのメーカーや医療機関や研究施設から様々な話が舞い込んできた。


 その中の一つの飲料メーカーから呼ばれて、私はココアについての感想を述べたーというわけだ。温感がなくても味覚はどの人にもある感覚で、味覚に温度が影響するという、私にとってはごく当たり前の感覚が、こうして仕事になってしまうのだ。

 帰宅すると私はやかんのお湯をしゅんしゅんになるまで沸かして、温度計付きのマグカップに入れたココアにお湯をそそいだ。白く湯気をたてたココアの入ったマグカップの温度計は九十度を示し、「やけど注意」の赤いランプが点滅している。私以外の人はこの温度のマグカップを熱いとも思わないし、こんな温度のココアでも平気で飲めてしまうのだ、そして当然だがやけどしてしまう。

私は熱いマグカップを慎重に持つと熱々のココアを少しづつ飲みすすめる。からだが温まる感覚が広がった。この幸せな感覚を誰とも共有できないのが寂しいと小さくため息をつくと口からふわっと白い息が一瞬広がった。


(おわり)


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