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自作小説倶楽部 第9冊/2014年下半期(第49-54集)  作者: 自作小説倶楽部
第52集(2014年10月)/「ススキ」&「裂ける」
35/49

06 らてぃあ 著  すすき 『狐火』

「狐火が燃えているよ」

 驚いて振り向くと白い狐の面を被った少年が立っていた。

「なんだ、幸太か。おどかすなよ」

 表情は見えないが不揃いな毬栗頭や色褪せたシャツは覚えがある。怒ってみせたが幼なじみの姿に安堵を感じた。眼を焼くような眩しい夕陽を受けたススキの原っぱで方向感覚を失い、ずっと立ち尽くしていた。何か悪い夢を見ていたような気がする。

「遊ぼうよ」

 狐面の少年が言う。悪ふざけが好きで悪戯を考えついた時の楽しげな声だ。

「隠れんぼ、鬼ごっこ、缶けり、花いちもんめ、川で魚釣り」

「幸太と二人じゃ人数が足りないよ。釣りは爺ちゃんの竿を流して叱られた」

「竿ならここにあるよ」と、釣竿が目の前に突き出される。「それに、みんなあっちに居る」

 風に乗って声が聞こえた。こちらの心まで浮き立つような子供たちの楽しげな笑い声。

「さあ、そんなもの捨ててしまいなよ」幸太がカバンを奪い取り、放り投げる。

「そんなもの脱いでしまえ」

 言われるまま「私」はジャンバー、セーター、シャツ、ズボン、パンツ、禿頭、古びた肉体を脱ぎ捨てる。

 魂が羽根が生えたかのように軽くなった。

 走り出そうとして地面に落ちた写真がかさりと音を立てた。見なくてもわかる。右端が斜めに折れて破れた部分をセロテープで貼った汚れて色褪せた娘と妻の写真。

 引き返して拾う。

「ごめん、幸太。これは捨てられない」

「仕方ないね。じゃあお帰り」

「どこへ? 自分で家族を捨てたのに」

 こみ上げて来た涙をこらえる。

「泣けばいいよ。君は精一杯がんばった。君は本当に優しい人間だってみんなわかってくれる」

 ススキの原っぱは闇に包まれ行った。そして、ぱっと小さな炎が灯った。


「県境の廃村で住所不定無職のA川F男が自殺」

「獏田さん、多分これが続きですよ」

 若い刑事が切れた綴り紐を抜いて報告書の束を渡す。

「そうだね。薬を吐き出して未遂か。身元引受人が二十五歳の実の娘と離婚した妻」

「二十年も前に失踪した男を家族がよく引き取ってくれましたね。それに人けの無い場所で発見されるなんて案外強運の持ち主なのかもしれませんね」

 埃を払いながら今日は黒いスーツを脱いでいる刑事はページをめくった。

「発見者によると暗闇の中、狐火が燃えていたそうだ。正体を突き止めようと歩いているうちに倒れている男の身体に躓いたと」

「狐火ぃ? あの村跡行ったことあるけど、妖怪変化が出るような場所じゃないですよ」

「わかってないな。異界は現世と平行して存在するんだよ」

「何ですって? 」

「さてちょっと一服、」

「駄目です。十分前に戻って来たばかりでしょう」

「なあ、浅井君。ここにある古い調書をこの先必要とする事があると思うか? 」

「資料箱をぶちまけた言い訳にはなりませんね」

 埃と紙の山の中で二人の刑事は深い溜め息をついた。

              了

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