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自作小説倶楽部 第9冊/2014年下半期(第49-54集)  作者: 自作小説倶楽部
第51集(2014年9月)/「薔薇」&「手紙」
22/49

04 奄美剣星 著  薔薇 『神待ち少女の恋』

 家出娘は、友人のところやゲームセンターのようなところで雨露をしのぐのだが、そんなに長くいられるものでもなく、ゆくところもないため駅前で、彼女たちのいうところの「神」を待つことになる。あるいはインターネット掲示板に書きこんで呼び寄せる場合も多い。一夜の宿と食事を得るだけのために身体を捧げる存在はプロの街娼たちよりもはるかに格安だ。もちろん十八歳未満の少女の場合、相手となる男性は法律上犯罪となる。社会問題ともなって久しくなる。だが、掲示板をのぞくと、そんな少女たちの一覧表である「神待ちサイト」はいまだに名前が埋め尽くされたままだ。

 そういう娘の一人に、篠崎リオという娘がいた。肩まで髪を伸ばした、身体の線の細い子だった。私服だが、みるからに十五、六にみえる。駅の階段に腰かけてスマホをいじったり、立ち上がって、改札から街のほうを、ふらふら、歩いたりしていた。

 そして、そのうちに小雨になった。

 深夜でゲーセンは店じまい。ホテルはもちろん、朝までやっているインターネットカフェやファミリーレストランで夜露をしのぐこともできない。地下鉄の入り口も浮浪者対策ため、シャッターを閉じてしまった。

 リオは仕方なく、店の軒先に背をもたれて立っていた。

 たまに男たちが自分のほうを一瞥するのだが、不審そうな顔をするだけで、声をかけてくるそぶりはなかった。

 空腹と凍えが絶頂になったとき、傘が頭上に掲げられた。

「君、ゆくところがないのかい? 夕ご飯は食べた?」

 あまり若くはないが、中年というほどのこともない、長身の男性だった。スーツ姿なのでサラリーマンのようにみえる。

 彼が、「よかったら、飯、おごるよ」といったので、リオは同じ傘に入った。

 神待ち少女にやる食事などハンバーガーセットでも与えりゃ上等で、そのままホテルないし自分の部屋に連れてゆけばやらせてくれる、とネットに書いてある。リオもそうされることを覚悟はしていた。

 しかし連れてゆかれたのは、ファミリーレストランで、「好きなものを好きなだけ食べていい」といわれた。注文したのは、サンドイッチ、ステーキ、ソフトドリンク、スイーツ……。けっこう食べた。

 男性は泉崎瞬と名乗ったがそれ以上語らなかった。

 リオは話をきいてもらいたかった、どうして家を出る羽目になったのかを。

 ……少女は父親と母親の三人暮らしをしていたのだが、父親が愛人を囲っていたことが発覚。愛人が身籠っていたこともあり、母親と離婚した。ふつうなら母親に引き取られるべきところだが、その人は精神に異常があったため、父親が引き取ることになった。

 若い継母は、最初こそ優しかったものの、自分の子供を産むと、つれない態度をとるようになった。父親に訴えるのだが継母の肩ばかりもつ。リオは家に居られなくなり、ついに、飛びだしたというわけだ。

 市営駐車場に停めてあるスーツ男性の車に乗せられ、リオが連れてゆかれたところは一軒家だった。当然のことながら、玄関の表札には背の高い男性が名乗る姓・泉崎の文字が掲げられている。

 しかし瞬がブザーを鳴らすと、玄関にでてきたのは、老夫婦だった。 

「えっ?」

 少女は目を丸くした。

「ああ、親父とお袋だ。携帯で事情を話しておいたから、厄介ごとが片付くまでここで泊めてもらえ」

 ――そういうことだったの……。

 泉崎は警察署少年課の私服警官だったのだ。

 少女の置かれた境遇……たしかに家庭に問題がある。両親からの虐待もあったようだし、ここは、しかるべき施設に委ねるべきだ。という専門機関の判断があった。

 ……ならばと、泉崎巡査部長の両親はその子が気に入ったので養子にしたいと申しでた。

 しばらくして。

 泉崎のアパートのチャイムが鳴った。

「お義兄ちゃんのとこに泊まっていい?」

「親父やお袋と合わないのか?」

「お泊りもいいかなって、『兄妹』なんだから……」

「リオ、おまえな、現職警官の俺が強制ワイセツ罪で逮捕されるところをみたいのか?」

「お義父さんとお義母さん、『リオは十六歳になったし、応援するから、そのままお義兄ちゃんのお嫁さんになってやれば』っていってるわ」

「おいおい」

 ……しかし年長の義兄・瞬には秘密があった。癌に侵されていたのだ。余命はあと半年。

 瞬が臨終を迎えようとしたとき、家族みんなで看取った。

 老夫婦は、リオが息子を男性として愛していることを知っているので、十分ほど席を外し、二人の時間をつくってやった。

「ねえ、瞬お義兄ちゃん。キスしていい?」

「ああ、いいよ」

「お義兄ちゃん、実は私、男の子なの。女装子ってやつ」

「知ってる」

「それでもいい?」

「ああ、いいよ」

「リオがどんな存在であれリオのことが好きなんだ」

 個室のベッドに仰向けで寝かされた瞬。その唇に、涙をこぼしながらリオはそっと唇を重ねたのだった。

          *

 休み時間、シオサイ高校の教室である。

 あいも変わらず、例の生徒たちが、教壇のところで妄想劇をやっていた。

 観劇していた生徒たちの大半が女子だった。そのなかの前席にいたのがコメンテーターの二人だ。

 三つ編みに髪を束ねた丸眼鏡・学年トップのチエコこと芳野彩、その横にいるのが化学担当の美人教師・麻胡先生だ。

 皆、衝撃の結末に目を丸くしていた。

「薔薇なモードのラストシーン。……この展開って、すご過ぎ」

 妄想劇・配役は次の通りである。

 篠崎リオ役は夢見る少年・田村恋太郎、泉崎瞬巡査部長役はノッポな恋太郎の悪友・川上愛矢、瞬の父親役は黒縁眼鏡の委員長。そして瞬の母親役はショートカットが似合う副委員長の西田加奈。

 恋太郎に交われば薔薇色に染まる。恋太郎妄想劇団には、ついに、副委員長まで加わってしまった。

     了


※登場人物一覧をあとがきに添付しました。

【登場人物】


《妄想劇配役》

♢篠崎リオ(田村恋太郎)……家出少女

♢泉崎瞬(川上愛矢)……少年課の警察官・巡査部長

♢泉崎巡査部長の父(黒縁眼鏡の委員長)

♢泉崎巡査部長の母(西田加奈)


《恋太郎妄想劇団員とコメンテーター》

田村恋太郎たむら・れんたろう……地方都市シオサイ市在住の高校生。妄想劇団座長

川上愛矢かわかみ・よしや……恋太郎の悪友。妄想劇団員1

♢黒縁眼鏡の委員長……妄想劇団員2

♢西田加奈……キュートな副委員長。妄想劇団員3

塩野麻胡しおの・まあこ……美人化学教師。コメンテーター1

♢芳野彩……通称チエコ。学年トップ。コメンテーター2

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