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02 ピコ 著 手紙 『千春へ』
手紙
『残暑凌ぎ難き候 ゐかがお過ごしでせうか。
新太郎は 元気にしておりますか。
私は 南方の暑さに負けじと 日々鍛錬 日々精進の連続にあります。
本土とは違ひ すこおるという雨が大地を覆い
夕暮れの頃ともなると 少しだけ涼が取れるのです。
亜細亜は 湿つていますから 大陸に居たころに比べれば
蒸し暑ひような気候です。
この手紙が貴女の元に届く頃には
鈴虫も鳴き始めてゐるでせう。
りんりんと鳴く声を もう一度聞きたゐものです。
千春。
美しゐ名です。
私は貴女と共に人生を送れたことを幸せに思つていますよ。
新太郎を 立派な男児に育てて下さい。
お父さんは お前を愛していると
毎日聞かせてやつて下さい。
明日は晴れそうです。
彼の青空に 貴女の面影を映しませう。
そうすれは少しは 望みを持てそうです。
姑は 厳しくはありませんか。
世話をしてくれて 本当にありがたう。
感謝してゐます。
私がもしも帰らなかつたら
新しゐ男性を見つけて 幸せにおなりなさい。
最後に 愛しています。千春。
戦地より』




