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自作小説倶楽部 第9冊/2014年下半期(第49-54集)  作者: 自作小説倶楽部
第51集(2014年9月)/「薔薇」&「手紙」
19/49

01 BEN クー 著 薔薇 『人選ミス』

   人選ミス

.

「お母さん、“バラ”って聞いて何か思いつく事ある?」

 夕飯を食べながら“バラ”と言うテーマに悩んでいた僕は、苦し紛れに母に尋ねた。

 そもそも我が家では、バラどころか花全般と縁のない生活をしており、過去にもらった花束も、『花瓶がない』と言う事で使い切ったウェットティッシュの空ケースに水を入れて飾ったほどである。しかも僕が、『さすがに“100枚入りウェットティッシュ(製造国 中国)”の表示は外そうよ』と言ったら、『気が付かなかった。おお、見栄えが良くなったわ』と褒めたほどで、さすがは実家の墓に自生のひまわりを供える母らしいと言えば“らしい”のだが、尋ねたそばから、『テーマを聞く相手を間違えた』と、僕は即座に思った。

「バラ?う~ん、私は“ベルバラ”しか浮かばないわね。子供の頃に流行ったし。そう言えば、ゆかちゃんも前にそんな格好してたね。そうそうこれこれ。これは何度見ても笑えるわ。あはははっ!」

 母は、笑いながら携帯の待ち受け画面を僕に見せた。そこには母の友達である“ゆかちゃん”こと中瀬のオバさんがブルボン王朝の女性貴族の格好をして写っていた。

 頭の3倍はある縦長の茶金髪のカツラを被り、『顔の半分がクチビルか』と思えるほど真っ赤な口紅を幅広く塗り、首から下は『上半身と下半身が膨らみすぎ』に見えるモコモコした白い女性貴族衣装を着て、おまけに満面の笑顔でVサインしているのである。

 オバさんの本職は出版社の編集長だが、本業の他に番組のコメンテイターもしており、数年前に番組企画でこのベルバラ風貴族の格好をさせられたのだった。

母いわく、『ウケ狙い半分、本人の希望半分』らしいのだが、とにかくインパクトが強すぎて絶対に笑ってしまう写メなのだ。

 僕は、『ぶっといニンジンの刺さった鏡餅みたいだな』と思いながら、つられて大笑いするのを我慢した。

 そう、我慢しなければならない。なぜなら、オバさんは僕が生まれる前から母の友達であり、母が“戦友”と呼んでいる人である。ウチに来た時には、必ず“ゆかりお母さん”と呼ばねばならず、母も、『ゆかちゃんの言う事は絶対に聞きなさい』と言うほど信頼し切っている人なのだ。

 たしかにオバさんは優しくて面白い人なので僕ら兄弟も好きなのだが、一つだけ困った癖があった。酔っ払うと“男性化”するのである。

 もしも大笑いした事が後で知れたら、今度ウチに来た時がやっかいになる。

『何じゃお前、私の格好を見て大笑いしたらしいのぉ。第2の母を笑うとは何事か』と、酔った勢いそのままに寝かされずに酒の席に付き合わされる事になる。これは、酒が飲めない僕には普通のお説教を聞くより辛い事だった。

 僕は、笑いを堪えるためCS放送のアニメで見たベルバラを思い出すと、「でも、これってベルバラの主役の格好じゃないね」と言って話を逸らそうとした。

すると、「ゆかちゃんがオスカルとかアンドレの格好しても似合わないでしょ。それこそ男みたいになっちゃうし。あっ、想像しちゃった。あはははっ!」と言って母はまた笑った。

 たしかに、丸顔でぽっちゃり体形のオバさんが主役たちの衣装を着ても似合わないだろう。でも、僕は男みたいとは思わなかった。ただ、上半身が青で下半身が白い衣装を着たオバさんの姿に、“オバさんの顔したSDガンダム”を想像してしまい、思わず『プッ』と笑ってしまった。

「あっ、笑ったね。明日、ゆかちゃんに言っとこう」と、母が大笑いしながら言うと、「わっ、勘弁して。また夜中までパシリにされちゃうから」と、僕は平謝りするしかなかった。

 やはり、聞く相手を間違えたようである。

     -おしまい-

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