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自作小説倶楽部 第9冊/2014年下半期(第49-54集)  作者: 自作小説倶楽部
第50集(2014年8月)/「ひまわり」&「道」
17/49

08 むぅ 著  ひまわり 『アヤカシ』4

 そこをヤヤと河童は、狼の涙、と呼んだ。

 狼の涙では、思いの強さで 世界が決まるのだという。しかし、普段は誰も相手のイメージを支配する必要もないので、お互いがそれぞれの世界の中でいることができた。

「なぁ、河童」

 リューは、ひまわり畑が永遠と続く、湖のほとりで河童に膝枕をしてもらいながら呟く。呟くといっても それはこの世界の会話法で声に出さずに心で思うだけなのであるが……。

「なぁ~に、リューちゃん」

 最近 河童は人間界で交渉にスムーズだという理由で「おねぇ言葉を」使っている。

 四人の子持ちだという河童は、どこか掴み所がなく、それでも、ヤヤほど距離を感じないのは この喋り方のせいなのかも知れない。

 本当はヤヤ以上にヤバイ奴 なのかも と思うことも時々あった。

 店から資金回収に失敗したナンバー3が突然消えた夜、「どうしたのか」と聞いたとき

「あら、家の子たち食べ盛りでしょ」

 ケケケっと笑った河童の目の色が一瞬真っ赤になった時は、周りの誰もが大笑いした。

 だがリューだけは、冷房、効きすぎてませんか、な気分になり、思わず自分の肩を抱いてしまった。

「どうしたの リューちゃん お腹でも空いた?」にっこり、と河童が覗き込む。

「あ、いや」リューは慌てて体を起こす

「やっだ~、まだ膝枕していたかったのに」

「どうして、ここを狼の涙 と呼んでるのかな、と思ってね」

「スルーですか? 膝枕をしていたい欲情はスルーですか!!」

 うるうるとしたまん丸な乙女の目は多分、河童のイメージが入り込んでのことだろう、とリューは思いながら、面倒くさそうに河童の膝に頭を乗せた。

 河童は満足そうにリューの髪を撫でながら、「それはね」と遠い昔の、始まりの世界 の話を始めた。

.

 神々はゲームが好きで、ゲームのルールはとてもシンプルなものだった。

 ゲームを始めたものが勝ち、受けた者が負ける。

 そのターゲットとなるものは大抵が地上界のエルフだった。エルフの中には多くの天上界の神々より人気が有り、力のあるものも多かったが、元来穏やかに暮らすことを望む少数神族の彼らは決して進んでその神々に弓を引く事はなかった。

 ある日、地上界・狼神の住む森に、天上界から女神が降臨して現れた。

 女神は狼神の王に恋をし、度々、湖のほとりで水浴びをするようになった。

 王にはその時龍神の恋人がいたが、女神は龍神の住むその湖で水浴びをするのだった。

 狼神は女神に、「どうか、この湖で水浴びをするのをやめてほしい」と頼んだ。

 だが女神は、「狼神が私の想いを叶えてくれたらやめてもいい」と言うだけで、一向に耳を貸そうとしない。

 恋人の龍神は、天上界の女神が水浴びをすることで、姿を見せなくなった狼神への恋しさから、

「汚らわしい女神に湖の水一滴たりとも触れさせたくはない」

 と女神を湖に引きずり込んで溺れさせようと思うようにさえなっていた。

 その思いは、天上界の神々のもとへも聞こえることとなり、問題の女神が龍神へゲームを持ちかけてきた。

「狼神は、月が変わるまでお前のもとへ姿を見せ無かったら私の勝ち、お前はこの森を去り東の沼へ移るがいい」

 龍神が言い返した。

「もし、王が現れたなら、女神よ、二度とこの森へ足を踏み込まないと約束してくれるか?」

 こうしてゲームが始まったのだが、ゲームに慣れた神の子は、狼神には別のゲームを持ちかけていた。

「月が変わるまで湖へ姿を見せなくても、ふたりの思いが強いことを証明して見せて」と。

 やがて 月が変わりゲームに終わりの時が来た。

 狼神は喜びに胸を熱くして湖へ走った……が、既にそこには龍神の姿がなく、木々たちがざわざわとゲームのことを教えてくれた。

 怒りに狂った狼神は、女神を鋭い爪で引き裂き、決してその枝から逃れられないとされる木霊へと吊るし上げた。

 その夜、狼神の森は一瞬にして枯れはててしまい、悲しみと自分の愚かさを嘆いた王が、自分の首を神へ捧ることで森を元へ戻してもらうこととなった。

 その時の涙の一滴がこの世界を作り上げたのだという。

.

 ――だから、この世界では、声を発することが、自らの破壊となるのだと、河童はリューに説明した……が、その間も、河童は彼のイメージの中で流れ出る食材たちを、むしゃむしゃと食べては、時々、「リューも赤牛さん、食べる?」と聞いてきた。

 河童の話が終わって暫く、龍神と狼神の哀れな話のことを考えていたリューの目の前に、突然、空からヤヤが降ってきた。

 その姿は、傷だらけで、両腕は肉が削がれ、着ていた服も引き裂かれ全裸に近いものだった。


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