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自作小説倶楽部 第9冊/2014年下半期(第49-54集)  作者: 自作小説倶楽部
第50集(2014年8月)/「ひまわり」&「道」
16/49

07 らてぃあ 著  ひまわり 『ひまわりお化け』

 「ヒマワリ畑にお化けがいた」と、小さなあたしは母に言ったそうです。様子がおかしかったので母は随分心配したそうですが、あたしはまったく覚えていませんでした。でも、ヒマワリが咲く頃にヒマワリたちが風に揺れて葉と葉が擦れ合う音は何かを言っているような気がして落ち着かなくなりました。だから通学路にあるヒマワリ畑の側を通らないで、あの日も通学路じゃなくて畑を見下ろす堤防の上を歩いていました。

 日輪田先生のこと? 怖かったです。あの日だけじゃなくて最初から、だってあの人が〈お化け〉だったんですもの。中学校の全校集会で初めて日輪田先生を見た時、驚いて声も出ませんでした。ヒマワリが茎と葉をくねくねさせて 壇に上がって、白い歯を見せて、にぃっ、と笑ったんです。もっとおかしなことは誰も「正体」に気か付かないことでした。みんなには若い男の先生に見えるらしく、女生徒たちの評価は上々でした。何人か友達に本当のことを言おうとしたのですが、その度に耳の奥でヒマワリたちがざわざわいうようになりました。

 なんて言っていたか? その時は思い出せなかったのですが、あの日、日輪田先生に会ってから思い出しました。

 日輪田先生があたしを待ち伏せしていたんです。


「おぅい、立花」

少女が顔を上げると相手はすぐ側まで来ていた。夕方とはいえ一日真夏の太陽に炙られていたアスファルトは、しつこく熱を放っていた。人気は無く世界から二人だけ取り残されたようだった。

「立花、何だって通学路を通らないんだ?」

 恐怖で答えられない少女に構わす、若い教師は白い歯を見せて笑い、言葉を続ける。

「ところで、お前は俺のことをヒマワリがどうとか言っているそうだな。どういう意味だ?」

「……」

「何か言えよ」

伸ばされた腕を少女が避ける。男の目に憎悪が宿る。男の手が少女を突き飛ばした。

「お、お前だな。やっぱり、お前だ。意味深に人の顔をじろじろ睨み付けて、覚えているんだな。話すつもりだろう。殺してやる!」

畑に転げ落ちた少女はヒマワリの間に這い込んだ。

 ざわざわ、ざわざわざわ。

 少女の耳に男の叫びが蘇る。

 見たな!殺してやる!誰かに言ったら、殺してやる。必ず見つけ出すぞ!

 少女は這って根元を通り抜けようとしたが身体がつかえてヒマワリが大きく揺れる。

 あの時は通り抜けられたのに。

 土と緑の匂いが封じられた記憶を揺さぶる。

「あ、あたし、しゃべって無い。助けて、助けて」

 背後に迫った男の気配が不意に乱れた。

「うわ?!お、お前は?!百合子、た、助けて、許してくれ!」

 振り向いた少女が見たものは男の肩に後ろからしがみつく青白い女の姿だった。

.

「可哀想っすねぇ。あの娘」

 事情聴取を終えた刑事二人の片方がつぶやいた。

「そうでもないですよ」

 夏だというのに年中黒スーツの相方が言った。

「どこにでも居そうな男性教師が殺人者で自分がそのターゲットになったと思うより、〈お化け〉に襲われたと思う方がましだよ。お化けは退治されたしね」

「獏田さん、やっぱり日輪田雅則が青山百合子殺害犯ですか?」

「そうだよ。日輪田と交際していた被害者が行方不明になったのが8年前、立花若葉が〈お化け〉に遭ったのも8年前。恐らく日輪田が死体を埋めている現場を目撃し、辛くも逃れたが恐怖のあまり日輪田を〈お化け〉と思い込んだ。教師として赴任して来た日輪田は立花若葉があの時の目撃者だと気が付いて彼女の口を塞ごうとした。という推測が出来る」

「じゃ、被疑者死亡ね」

「しかし、日輪田の死亡の理由は薮の中」

「うわー」

 若い刑事は頭をかかえた。


 真夏の夕暮れのヒマワリ畑で首の骨が折られた直後の男性教師の死体と8年前に行方不明になった女の白骨死体が発見された。

 不可解な状況に加え捜査関係者が一様に口を噤んだのは、白骨死体が男の首に「がっしり」しがみついていたためである。

               了

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