Astral07
風呂から上がったあと、自室に戻って悶々と考えていたんだが……
「なぜ俺は凛花にキスされたんだ?」
俺は確かに異性として凛花に好意を持っているが、凛花は兄として俺を慕ってくれていると俺は認識している。その認識が間違っていたのだろうか?
つまり、凛花も異性として俺に好意を持っているのか?
いや、それはないだろう。
優柔不断だし、何事にも真剣に取り組まないし、だらけてるし、学生ニートみたいなもんだし……どう考えても好きになってもらえるところが俺にはない。
「ん~……兄妹間の愛情表現か……?」
いやそれにしてもちょっとやりすぎなような……だが普段の日常からみればそうでもないような……
あ~やっぱ真剣に頭使うとすぐ疲れるな。
「や~めた」
家族やクラスメイトから俗に言う鈍感と呼ばれる俺が考えたところで、わかりもしないことだろう。色恋のことなんてさっぱりわからん。
要はそいつとの子供を作りたいかどうかだろう?そこまで考えなきゃいかん必要性がわからん。
トントン。
「いいぞ~」
「ありゃ、起きてたの?夜這いしようと思ってたのに~」
おいこら。
「ま、いっか。今日は一緒に寝よう、お兄ちゃん!」
「だが断る!」
確かに俺はこいつに好意を持ってはいるが、それとこれとは話が別。俺が此処で簡単に許可してしまうと、こいつは誰にでもそうやって接してしまう可能性がある。
何せお兄ちゃんっ子だしな。
「しかし私はそれを断る!」
なんて意味わからんことを言われたが、そこで引き下がると押しに弱い存在になってしまうため、まだ反論を続ける。
「さらにそれを俺は断る!」
「それじゃぁ一生決着つかないじゃん。それに一緒にお風呂にまで入っておいて、一緒に寝るのがダメなんて、基準おかしいよ~」
こ、こいつっ……!
痛いとこついてきやがるな……
「あぁ……もうわかったよ……」
押しに弱い?知ったことか。
俺が許可すると同時に凛花は走ってベットにダイブ。何故か俺を巻き込みながら。
そうなると必然的に凛花が俺に覆いかぶさる形になるわけで、その柔らかい肢体が俺に押し付けられる。
やばい、本当にやばいぞ。
凛花に遠まわしと言えど俺は気持ちを伝えた。そのせいでこの状況がいつも以上に意識させられる。
「可愛いなぁ~もう。背も高いし美人で運動もできるし、頭も切れて完璧なのに可愛い。なんだこの愛されキャラは!ちくしょ~!」
最後らへんの意味がわからんっ!ってか頬ずりやめろ、頭撫でるな、人の顔を自分の胸に押し込むな!
「これは私の愛玩動物だねっ!」
いや、キリッとした顔でそんなこと言われても俺はごまかされんぞ。
「バカいえ、お前こそ俺の愛玩動物だ」
今思ったが愛玩動物って何げにひどくないか?
とまあそんな事を考えながら凛花の頭をなでなでしてやる。
すると凛花はふにゃぁとした顔になっていき、俺を愛玩するのをやめた。どうだ、妹が兄の慈愛に勝てるわけがないんだよ。
暫くなでていると、スースーとリズムのいい寝息が聞こえてきた。
どうやら眠ってしまったようだ。そんなに頭を撫でられるのが気持ちよかったのか、凄くにやけた顔で寝ている。
まあそれでも可愛いと思ってしまうのはこいつが美人だからだろうか、それとも惚れた弱みなのだろうか。
どうであれ、俺は凛花から離れられそうにないな。
もちろん、凛花に好きな人ができるまでの期限付きではあるんだが。
取り敢えず兄妹とは言え思春期の男女、一緒に寝るのは衛生上よろしくない、と思う。一応俺の部屋にはソファーと言うベットよりももしかしたら寝心地がいいかもしれないものがあるため、今夜はそちらで寝ることにする。
「ん~」
立とうとすると、凛花がうめき声を上げた。翌々見てみると腰のあたりをホールドされている。
「ったく……」
俺は苦笑しながら、今夜は凛花の抱き枕になることを選択した。
side 凛花
お兄ちゃんは鈍感だ。
まあ全ての事に対してというわけではないんだけどね~。色恋の話になると途端に鈍感になるのがうちのお兄ちゃんなのだ。
それにしても。
「あそこまでやってまだ気づかないか~」
思わずため息を漏らしてしまう。
はっきり言って、私がお兄ちゃんに言ったことは遠回りとはいえ誰でも気づくような、告白だったではないか。
どうやら未だにお兄ちゃんは、私がお兄ちゃんを兄として慕っていると勘違いしているようだ。
思春期の男女が一緒にお風呂に入っているところを見ただけでも、他人からすればそれは丸分かりなのに、本当にお兄ちゃんは鈍感だ。
それで困っているのは私だけじゃない。
例えば聖さん。あの人もお兄ちゃんに好意を寄せている人物の一人だ。
かと言ってライバル視をしているかと言われれば、そうではない。聖さんだって私をライバル視してはいないだろう。
しかしそれは今だからこそ言える話であり、以前は違ったけど。
私は別にお兄ちゃんに、私がお兄ちゃんのことを好きであることを知ってほしいわけじゃない。いや知ってほしいけどね。
今はそれ以上に、お兄ちゃんには自分という人間を知ってほしい。
あ、この場合の自分はお兄ちゃんのことを指すからね。多分お兄ちゃんは、私がお兄ちゃんのことが好きだということ以外は、私のことをよく理解しているだろうし。それも他でもない私よりも。
お兄ちゃんは自分のことを全く理解していない。
どれだけ周りに期待されている存在なのか。
どれだけ周りに愛されている存在なのか。
どれだけ自分が優れているのか。
どれだけ自分が――自分を憎んでいるのか。
お兄ちゃんが鈍感になったのには理由がある。
だがその件は既に解決しているし、今更問題視することもない。お兄ちゃんが気づかず自分を憎んでいるから解決とは言えないかな?
まあそういった過去など色々総合して、今のお兄ちゃんが、歪んだお兄ちゃんが完成したわけなんだけど、私と聖さんの目標はその歪んだお兄ちゃんを、まともなお兄ちゃんに戻すことなんだ。
だから私は、お兄ちゃんをAstralOnlineに誘った。
だから聖さんは、AstralOnlineを始めた。
AstralOnlineとは、私と聖さんにとって最後の賭けでもあった。
今まで自分のことを理解してもらおうと色々と手を焼いてきたけど、全く効果がなかった。最後にすがったのが、自分の理想に近づける世界。
そう、仮想世界。
仮想世界では大抵の人が心の奥にしまっていた自分を出す。そう言った人たちと接触することで、お兄ちゃんが改めて自分という存在を見直してくれるかもしれない。
状況は上々。
多分今日の一件でも、少しだけ自分という人間について考えてくれたと思う。
少しずつでいいんだ。
少しずつ――
――自分を愛せるお兄ちゃんに戻ってくれたら、その時ちゃんと言葉にしてこの気持ちを伝えよう。
偽善。
その言葉が脳裏に浮かぶ。
確かに私と聖さんがやっていることは偽善なのかもしれない。
私たちが歪んだお兄ちゃんを元に戻したいと思う、それは唯の願望で、それを叶えたところで偽善だよね。
でも、だからこそこう思う。
偽善で何が悪い。
歪んでいる好きな人を、元に戻したいと思って何が悪い。
好きな人の傷を、癒してあげたいと思って何が悪い。
私は、私達は、全力をもってお兄ちゃんの傷を癒す。
結局私は――
――どうしようもなくお兄ちゃんを愛してしまっているんだ。