Astral06
この展開は誰もが予想していたはず……
「「「変態……?」」」
――幸先不安なんですが……
「ま、まあそれは置いといてだな。取り敢えず今日はこの辺で俺は落ちるよ」
変態以降の話を聞きたくなかった俺は、そう告げる。
「お兄ちゃんが落ちるなら私も落ちようかな」
リンもそれに便乗してくれた。多分、俺がわざと話を逸したことに気付き、補助してくれたのだろう。
基本、リンは俺の味方だ。もちろん俺も、リンの味方である。
「そうか、まああの人の話は明日にでもしよう。お疲れ様」
「おつで~す」
アキラとサクラ、2人と軽く挨拶を躱し、ログアウトするためにウィンドウを開いた。
「ここでラノベだとログアウトボタンがなかったりするんだよね~」
おい、なんか不安になるようなこと言うなよ、リン。
と、心配したもののログアウトボタンはきちんと存在していた。それに対し俺は小さく、周りに気づかれないように安堵の息を吐く。
本当にログアウトできない、なんてなったら大事だぞ。
「んじゃな」
「またね~」
俺とリンは、最後にもう一度挨拶をし、ログアウトした。
ログアウトすると当然現実世界に意識は戻るのだが、意識を一時的とは言え仮想世界に飛ばしていたわけで、現実の体と離れていたと言っても過言ではない。
そして、ログアウトと同時に意識は現実の体へと帰ってきた。
つまり、意識が体に定着し安定するのに僅かながら時間を要するというわけだ。
「うっほ~……上手く体が動かねぇ」
腕を動かしてみようとするが、思うように動かない。
ふにょん。
動いたかと思うと柔らかい感触が腕に伝わってくる。若干直感でどのような状況か分かりつつあるが、閉じていた目をあけ、状況確認をする。
やはりか。
やはりこうなっていたか。
俺の右腕はしっかりと妹、凛花にホールドされていた。
さらに初め微弱な電波を流されたせいか、それとももともとこの状態だったのか、俺の手は凛花のお股に挟まれている状況である。
腕と手に柔らかな感触。
さらにこのルックスにスタイル。
並みの男だと襲っちまうぞ、全く……
などと冷静に分析していると、凛花の目が開かれた。
「……お兄ちゃんのエッチ」
「どの口が言う……」
毎度のことだ。
いや、フルダイブ中にこの状況になったのは初めてだが、平日休日問わず朝起きるとこのような状況になっていることが多々ある。
「依存だよなぁ……」
凛花に聞こえないよう小さな声で呟く。
「なにか言った~?」
「いや別に」
そう答えると、慣れた手つきでホールドされている腕を引き抜き、起き上がる。それと同時に凛花も起き上がった。
時刻は夕方を少し上回り、しかし夜ではない時間。
ざっと8時間程度はゲームしてたことになるな。
これじゃVRMMOゲームが出る前の廃人となんら変わりないぞ……
VRMMOというジャンルが登場してから、廃人の基本ゲームIN時間が伸びたのは言わずもがなだろう。何せ、自分の体を動かしているような感覚で、しかも就寝もでき飯も取れる。
風呂も入ることが出来るし、飲み物を飲むこともできる。
現実の体に影響は出ないが、意識を飛ばしているためそのように情報が脳へ行き、そしてあたかも現実であるようになるのだ。
「取り敢えずリン……凛花は風呂掃除と洗濯物干しといてくれ。飯は俺が作るから」
「了解~!ま、お兄ちゃんの料理の腕は家族一だしね~、依存はないであります!」
凛花はそう言うと早速風呂掃除に向かった。
っていうか……
「VRMMOの依存率やべぇな……普通にプレイヤーネームで呼んじまうわ」
改めてVRMMOの凄さを実感しながら、俺は台所へと向かうのであった。
料理を作っているシーンは割愛させてもらう。
今日はシンプルにカレーライスだ。やはりゲーム内での身体的疲労は、現実の体で精神的疲労になる。
その為あまり豪勢な夕食を作る気がせず、このメニューになったわけだ。
「やっぱりお兄ちゃんの料理は最高~!」
そう言ってくれると作った本人である俺は嬉しく思う。
「何せ愛情てんこ盛りだかんな」
「お兄ちゃんの愛情!美味しくいただいてますっ!」
俺のどうでもいい一言にも反応してくれるあたり、妹が凛花で良かったと改めて思う。学校で友人などに聞くが、普通妹はウザい存在らしい。
んで、俺の場合、妹はアイドル&女優顔負けの外見で、さらに多少……だと願うがブラコン気味なわけで。妹キャラ好きの野郎共にはいつも愚痴を言われている。
ついでに言っておくが、俺はアニメやラノベの類をあまり見たことがない。漫画なんかはたまに読むかな。
学校にはそう言った類が好きなオタクと言われる野郎がいるが、オタクって実際どういう意味なんだ……?と時々思ってしまう。
俺の解釈から行くと、例えばあるアイドルグループが好きで、そのグループのライブに行って、CDを買って、ファングッズなんか買っている奴もオタクの部類に入ると思うんだ。
だから「オタクキモい」とか言っている奴を見ると、どうしても「お前も○○オタクじゃね?つ~ことはお前もキモいのか」と思ってしまう。
俺の場合……はっきり言ってそこまでハマっている事が無い為、オタクとは言えないだろう。
でも実際、俺はオタクってスゲェなって思う。
だって好きな事に対して全力で向き合ってんだぜ?何もない俺よりかずっとスゲェしカッコいいだろ。
閑話休題。
つまり俺が言いたいことはオタクだからといって、キモいなどの感情は抱かない。逆にすごいと思うわけで、普通に喋ったり遊んだりする。
だがそれを見たチャラけた野郎や、女子などに「なんであんなキモい奴と絡んでんの?」と質問されることが多いわけだ。
そこで話が戻るが、俺にオタクが「羨ましいだ」の「リア充死ね」なんて言ってくることがある。ほぼ毎日だが。
その時に「一織君と何口きいてんのよキモオタが!」やら「一織様に話しかけんな!汚れるだろ!」などと横やりを入れてくる奴がいる。
つまりだな、そうやって偏見とかで人を差別する輩が俺は嫌いだ。
その都度俺は横やりを入れてくる奴に言って聞かせているんだが、全く学習する気配がない。
そして何故この話になったか。
その学習しないやつから電話がかかってきたんだよ……
「もしもし……?」
『あ、もしもし~一織君?」
「ああ、そうだ。って君は六華さんか」
『そうそう~、一織君さ、今日アストラルオンラインってゲームしてなかった?」
やはりか……
「……やってたな」
『やっぱり!?ならさ、私とフレンド登録してくれない?やっぱほら、リアルの友人いたほうが楽しいじゃん?』
「あ~……」
と、口ごもってしまう。
六華ははっきり言って、俺が嫌いな輩だ。
自分だってこうやって堂々とゲームをプレイしている癖に、ゲームの話をしているオタク達をキモいやら色々な言葉を用いて罵倒する。
そんな奴とゲーム内でまで友達にはなりたくないというのが、俺の意見である。
俺が考えるように押し黙っていると、六華が再度話し始める。
『もしかして既に枠いっぱいだったりする?」
「あ、ああ」
断る理由を思いつかなかった俺は、思わぬ救済の手に乗っかる。
『そっか~、まあ一織君ならそのへんのプレイヤーに声かけられるよね~。なら、もし枠空いたら連絡して。その時登録お願いするから』
「わかった。んじゃな~」
『は~い』
それで電話は終了した。
と言うかなんだこいつ。勝手に話を進めすぎだろ……まあ取り敢えずフレンド登録は避けれたし良しとしよう。
「何だか嫌な顔してたね~?」
「まあ、な。それよりほら、カレーは冷めないうちに食ったほうが美味いんだ、食おうぜ」
「ま、私もそういう輩は大嫌いだから、気持ちはわかるよ~」
俺何も言ってないよな……
流石、俺の妹様だわ。
夕食を食べ終え、凛花が沸かしてくれた風呂に2人で入りながら他愛もない会話をする。
「お兄ちゃんってやっぱり運動神経いいじゃん。なんで部活しないの~?」
シャンプーで髪を洗いながら凛花が訊いてくる。
確かに俺は一般よりは運動神経いいほうだよな。
俺が部活に入らない理由は、家族と過ごす時間をより長くしたいという個人的理由なのだが、それを本人に伝えるのは何だかむずがゆい。
「まあ、お前と同じ理由じゃないのか?」
頬をぽりぽりかきながらそう告げた。
「……そっか……だからお兄ちゃんはシスコンなんて言われるんだよ~!」
はにかむ様に笑い、そして茶化すように笑う凛花を見て、器用なやつだと思う。実際この器用さこそが、凛花が今まで大きな問題に巻き込まれなかった理由だろう。
こんな女神を人間にしたみたいな人間は、普通嫉妬や周りの期待や色々な事で問題に巻き込まれやすい。
「ってか何で16歳と15歳の男女が同じ風呂に入ってるんだろうな……お前には羞恥心というものがないのかっ!」
「大丈夫だ、問題ない!っていうかお兄ちゃんになら見られてもオッケーですからっ!」
ますます意味不明だな……
とまあ俺もタオルすら巻かずフリ○ン状態なので何とも言えないのだが。
「お兄ちゃんさ、なんかこう、大人の女的な美人さんで体も細いのに、あれはケダモノだよね」
「どこ見てんだこら。そういうお前は中学3年だと言うのにその身長、発育の良さはおかしいよな」
俺達兄妹は何の会話をしているのだろうか。
髪を洗い終え、既に体も洗い終えていた梨花は俺にもたれかかるようにして風呂に入ってくる。
「でさ、お兄ちゃん」
妙に真剣な口調に、ドキッとしてしまった。
目の前には綺麗なうなじが覗き、その先には綺麗な桜色の突起物がぷかぷかと浮いている。これでドキッとしない奴は最早人間じゃない。
「お兄ちゃん的に、近親相姦ってどう思う?」
ああ、今朝の母さんのせいか。
「お互いが納得してたらいいんじゃないか?もちろん、いろんな面で両親に迷惑をかけないなら、だけど」
「そっか。私もね、同じなんだ………それなら、私にもチャンスはあるよね」
ぽちゃん。
丁度その時、天井の水滴が一粒風呂の中に落ちる。
「ん?最後なんて言った?」
「そうやってはぐらかさない~!」
「………ま、今のことお前が一番有利なんじゃねぇ~の」
ダメだ。恥ずかしすぎて声が小さくなってしまう。
俺は――
――少なからず凛花のことを想っている。
妹としてではなく――異性として。
そこに嘘偽りはない。
「……ありがと、お兄ちゃん。ごめんね、答えづらい質問しちゃって」
「なんだ……その、あれだ。お兄ちゃんサービスだよ」
凛花が振り向き、そして唇を奪われた。
「先手必勝~!……あ~でも、ライバル多いな~……」
「ライバル?」
誰だそれ。
「え……?……あ、そっか……そういうことか……」
「ん?」
「やっぱりそうだよね~……じゃないと、今までの反応がおかしいし」
なんだなんだ、俺が知らないうちに凛花が一人で納得しているぞ?
「よくわからないんだが……」
そう尋ねると、凛花はいきなり俺に抱きついてきた。
やはりと言うか、その感触にドキッとしてしまう。
「な、なんだぁ!?」
あ、上ずった……恥ずかしい……
「か~わいっ!」
………全然嬉しくないし答えにもなってませんよ~……