表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

青空と飛行機雲

作者: 秋山京介

初めての短編小説なのでいろいろとミスがあると思いますが、最後まで読んでいただけると嬉しいですm(_ _)m

私の名前は美鈴サクラ。


生まれてこのかた恋愛なんてしたことがない。

周りが失恋で泣いていたら励ますだけの生活だった。


でも私の生活の中で、何かが狂い始めたのは―――――。

そう、今年の4月ごろだ。


私たちは高校一年生から高校二年生になり、文系と理系クラスに別れた。

私は文系に入り、クラスの半分くらいは知り合いだけど、もう半分は全くの他人。


私は人付き合いが良い方らしいから、すぐに新しい友人が出来た。

その新しい友人の中で一番仲が良いのは、藤真 和希(ふじま かずき)だ。


和希はそうとう人懐っこく、男だろうと女だろうと先生だろうとバカ騒ぎをしている。

成績は下の上、顔は上の下、運動神経は上の上という男バージョンのスーパーアイドルとして君臨している。


因みに和希の両親はポーランドにある会社の重役らしく、日本にはいない。

だから彼は一人暮らしということになる。

私と和希はお互いに異性という意識はあまり無く、ファッション関係の話もすれば中学生時代のテストの点数の悪さに爆笑したり、ちょっと大人な話もしたりした。


授業中、中学時代からの友達にテストの点数を聞いた和希が、後ろから肩を突っついてきた。


「お前って社会で20点切ったことあんの?」


『暗記物は苦手だったからね〜。でも和希だって数学14点だったって言ったじゃない!』


私はわざとクラスに響き渡るような大声で叫ぶ


「ちょっ、んな大声で人の点数を一点単位で言うなよ!」


周りは一気に笑いの声が上がった。


クラスメートの男女がこちらを指差しながら笑っている。


現代文担当の武田先生すらも肩を震わせて笑っている。


こんな雰囲気は嫌いじゃない。むしろ好き。

こんな日がいつまでも続いたら、それは素晴らしいことと心底思う。



1日の授業が全て終了し、今は放課後の掃除中。私と和希は列が同じなので一緒に掃除をしている。


「サクラ〜面倒だよ〜」


『面倒でもやらなきゃダメでしょ』


「でも他の奴ら帰っちゃったよー」


『だからって私一人にやらせる気?』


私と和希以外のメンバーはHRが終わると同時に風のように帰っていった。

要するにサボり。


本当は和希もサボりたがってたけど、残ってくれた。

いや、残らせた。


「はぁー、可哀想な俺…」


『自分で言わないの。ホラ、もう終わるから』


和希が持って来てくれたチリトリにホウキでゴミを移し、和希にチリトリを渡す。


和希はゴンゴンとゴミ箱の端にチリトリをぶつけて無理やりゴミを落としていく。


そんな光景を見ながら使ったホウキ2本を掃除ロッカーに入れて、自分の机の横に掛けてあるカバンを取る。


すると教室の前の扉付近にクラスメートの女の子が3人、私を手招きしていた。


『どうしたの?』


手に取ったカバンを机の上に置いて、見るからに作り笑顔の二人と深刻な面もちの一人に近づく。


『あのねサクラちゃん、ちょっとな話があるんだけど…』


深刻な面もちの女の子が答えた。


私は困っている人がいると助けたくなる性分。


『分かった』


一言そう言うと、何が起きているかイマイチ飲み込めていない和希のほうへ歩き出す。


『和希、帰って良いわよ〜』


「ん、そんじゃなー」


相変わらず軽いノリの笑顔で返してくる言葉で、私はチクリと針で刺されるように胸が痛んだ。


なんだろう、この痛みは…。


和希が自分の肩にカバンをかけ、教室から去ったのを確認すると3人が教室に入ってきた。


『話なんだけど…』


今度は作り笑いをしていた二人のうちの一人が言った。そしてもう一人も口を開く。


『実は加奈ね、和希君のことが好きなの。サクラちゃん和希君と仲良いから、仲を取り持って欲しいの』


この言葉を聞くと、胸の奥にある何かがまたチクリという痛みに襲われた。


時間がたつとともに痛みはひいたけど、頭の中は痛みの正体と原因を探すのに精一杯だった。


とりあえず原因究明を優先したかったため、私は無責任にもOKの返事を口にする。


OKの返事を聞けた3人はキャーキャー言いながら去っていった。


そして私も机の上に無造作に置かれているカバンを持って帰宅する。



一人で夜道を歩き、今日の出来事を思い出す。


見慣れた教室に新しい友人。

授業中にも騒いでいたし、休み時間の時にも騒ぎ、友と一喜一憂したり和希とも話をした。


いつもと変わらない日常だと思ってた。あの一言を聞かされるまでは…。


『仲を取り持って…か。OKの返事は出しちゃったから何か行動しないとなぁ』


誰もいない道で誰に言うわけでもなく、自分の右手を見ながら私は言う。


今の私の気持ちは誰にも分からない。

だって私自身も良く分からないから。


今日の出来事は夢なのか現実なのか、こんな思いをしているのも偽物じゃないのか。


そんな考えが頭にこびりついて離れない。


『あぁもう!止め止め、こんなこと考えるなんて私らしくないよ』


私は頭をぶんぶんと左右に激しく揺らす。

その際自分の髪が鼻や頬に当たり、ちょっとくすぐったかった。


とりあえず思考が停止した私は自分のケータイをカバンから取り出して一通のメールを送る。

宛先は藤真 和希―――――。


《やほぉ。ちょっと話あるんだけど大丈夫かな?》


送信ボタンを押して、送信終了の表示を確認してから自分のポケットにしまう。


するとすぐにケータイのバイブが鳴ったので、慌ててメールの内容を見た。


《おぉ大丈夫だぞ。だが、ダイエット関係なら勘弁な》


その文章を見た私はクスッと笑った。


《誰がダイエットなんか相談するか!もししたとしても女友達にするよ!》


《それもそうか。で話って?》


そのメール内容を見ると、私の手はしばらく動かなくなった。


彼女をどう紹介するのか悩んだから。

でも私の足りない頭では結局ありきたりな返事しか出来なかった。


《加奈のこと、どう思ってる?》


メールを送ったあと、もうちょっと気の利く言葉は無いのかとまた自分を責める。


これじゃ加奈が和希のことを好きだって言っているようなものじゃないか。


《加奈ってクラスメートの?大人しい子だなぁとは思うけど。なんで?》


良かった。和希は超が付くほどの天然だった。


《あんまり話してるシーン見ないなって思っただけだよ》


《そういやぁアイツとは話してないなぁ。良し、明日話してみるよ》


《よろしくね。じゃ話は終わったから、じゃね〜》


《バーイ》


メールが終了しケータイをカバンの中へしまって、もう目の前にある我が家へと入る。



そして次の日。


私はいつもの時間に起き、朝ご飯を食べて歯を磨いて、髪を洗ってから学校へ向かった。


私がクラスに入ると和希と加奈は、まるで昔から友達であったかのように仲良く話をしていた。


でも加奈の目は泣いたような感じで、多少赤くなっている。


私はその時、和希と話せた嬉し涙なんだろうなぁと思った。


すると私の姿を見つけた加奈を除く昨日の二人が、少し暗い顔をしながらも“ありがとう”の意味であろう、アイコンタクトを送って来た。


なんで暗い顔なんだろうなぁと思いつつもそれに笑顔で返し、自分の席にカバンをかけて座る。


机の上にひじを置き、その手で頭を支えながら外を見る。


外では雀なのかは分からないけど、小鳥が数羽仲良く飛んでいる。


道路では十数秒間隔で車が一台、また一台と騒音をたてて通り過ぎていく。


校庭の隅では、優しい風を受けている草花が気持ち良さそうにそよそよとその身を揺らす。


そんな平和な日常を眺めていると、授業開始のベルが鳴った。


すると加奈との話を強制的に終わらせた和希が自分の席、つまり私の後ろの席に座った。


「オハヨー、サクラ」


『おはよ』


私は自分の口から出た言葉の素っ気なさに驚いた。

普段では絶対に言わない、不機嫌な声だったから。


「なんか怒ってる?・・・ちょっと真面目な話があるんだけど」


『別に。後にして。』


止めようと意識しても、キツい言葉をストレートに言っている自分の口。


多分理由は嫉妬だと思う。でもその嫉妬の理由が分からない。


和希と仲良くなった加奈に対してなのか、加奈と話していた和希に対してなのか、はたまた昨日加奈と一緒にいた二人の積極的さに対してなのか、それすらも分からない。


でも和希が他の女の子と話す姿は珍しくないから、和希関係では無いと思う。

頭の中でいろいろと考えていると和希の声が。


「じゃあどうしたんだ?」


まるで家族を心底心配するような顔で言われた。


すると私は和希の心配を踏みにじるような、酷い言葉を発してしまった。


『うるさいなー!和希には関係ないんだからほっといて!』


教室は一気に静まり返った。

温厚として有名らしい私が授業中急に立ち上がり、大声を出したのだから当然だと思う。


私は自分が取った行動である和希に対する気まずさと、周りから集中してくる視線が急に恥ずかしくなり、自分のカバンに手を伸ばす。


『先生、私具合悪いんで早退します』


厳しい口調でそう言うと、先生の返事も待たずに逃げるようにして私は自分の家に帰った。



それ以来、私は学校を休んだ。


クラスの皆に白い目で見られるのが怖かったし、また暴走してしまうかもしれない。

そして何より、和希に会わせる顔がない。


和希とどんな声で喋っていたか、どんな話をしていたか、最初に声をかけたのはどちらか、マトモに話すことが出来た最後の日はいつか。そんなことばかり考えていた。


それからも数日休んでいると友人からこんな内容のメールが何通も届いた。


《どうしたの?大丈夫?》


本当は誰かに相談したかった。


なぜこんな気持ちになるのか、その原因は何故か。


でもその相談に乗ってくれそうな友人は居ないと独断に決めつけていたため、こう返した。


《ごめんね心配かけて。私は大丈夫だから》



学校を休み始めてから二週間ほど経ったある日、私は気分を紛らわすために部屋の模様替えをしたからヒドく疲れていた。


なので夜はご飯を食べてお風呂に入った後、深い深い眠りについた。


翌朝母にたたき起こされた私は外にあるポストから、新聞や手紙が来ていないかをチェックするよう言われたので向かう。


ポストの中から無造作に手紙やらチラシやら新聞を取り出し、キッチンにいる母へ届ける。


『はい、お母さん』


私は手いっぱいに持っているものをテーブルの上に置き、その場を去ろうとした。


『どうも。あら? これは誰宛かしら?』


私は誰宛か分からないようなスッキリしないことは嫌い。

なので足を止めて、再びキッチンに入る。


母から手渡されたのは一通の封筒。


ちょっと厚めで横向に開くことができる封筒は、見たこともない切手が貼り付けてあった。そして私の名前は英語の筆記体で記入されている。


『なにこれ? イタズラ?』


私は筆記体が読めないので、クルクルと裏表を確認しながら尋ねる。すると母が


『Sa…k…u…ra。さくら…。あら、これサクラ宛じゃない』


頭をフル回転させてなんとか筆記体を読めた母に言われる。


『え? でもこんな筆記体で書いた手紙を出すような友達は…』


『バカねぇ、これはエアメールよ』


筆記体を読めて調子に乗った母は私をこづいた。


エアメールねぇ…。


私には外国人の友達は居ないし、もちろん外国にいる親戚すらも居ない。

なので送り主を尋ねる。


『えっと…。K…a…zu…k…i。和希って人からみたい』


母の和訳で和希の名前を聞くやいなや、私は封筒を奪って2階にある自分の部屋へと駆け込んだ。


高鳴る自分の鼓動を抑えながら、封を切ろうとするとある疑問が頭をよぎった。

なぜエアメールなんだろう? と。


考えても仕方ないので多少青い封を切り、手紙を取り出した。


中にあった手紙は全部で3枚。

とりあえず私は準々に読むことにする。


《Dear.サクラ。突然のエアメールが来たから驚いただろ? お前のことだからイタズラとかだと思ったはずだ》


私の取った行動を完璧に当てた和希に対して、私はドキッとする。


最初の一枚目は私が取るであろう行動の予言から始まり、休んでいた間はクラスが静まり返っていたこと、ミニテストが帰って来たこと、日常生活に関することが書き(つづ)られていた。


『意外と律儀なんだから…』


私はニヤニヤと一人笑い、2枚目の手紙に目を通す。


《で、サクラのことだから何故エアメールなんかをよこして来たか疑問に思ってるはずだ》


これも的確に当てられ、そんなに私の行動は分かりやすいのかと悩んだ。

悩みつつも先を読む。


《・・・実は今、ポーランドにいるんだ》


私は自分の目を疑った。

両目をこすってから、また手紙の文字を見る。

間違いなくこれは和希の字であり、字を通してでも真剣な態度であることが分かった。


《何故ポーランドに要るかなんだが…。うちの親がコッチで働いているのは知ってるよな?》


クラス換えをした時、新しい友人に対して私たちは自己紹介をした。


その際和希は、

「俺の親はポーランドにいる!」

と大声で言っていたのは覚えている。

いや、忘れられなかった。


《それで、仕事帰りに大事故を起こしたらしくてな、入院する羽目になったんだと。それで、俺は今見舞いも兼ねてポーランドにいるってわけだ》


和希の説明のおかげで私は理解できた。

大変なんだなぁと軽い気持ちで更に続きを読む。


《でも思ったより症状が酷くて、一生ものの後遺症が残っちまったんだ。だから俺は両親のために、ポーランドに永住することを決めた》


その言葉を見た時、私の心の奥にある【感情を司る機能の壁】が音をたてて崩れ去った。


親が回復すれば戻って来るだろうと考えていた和希が、ポーランドに永住する。


そう考えると居ても経ってもいられなくなる。


私はこのとき、胸がチクリとした原因が分かった。


【私は和希が好き】


恋愛なんてしたこと無いから、ゆっくりと好きになっていった事に気付かなかったんだと思う。


和希にもう会えなくなるという涙をこらえながら、また続きを読み始める。


《本当は学校で面と向かって言いたかったんだけど、こんな手紙で書くのを許してくれ》


また何かつらいことが書いてあるのではないかと心配しながら続きを見る


《俺は・・・サクラが好きだ》


私の涙腺は限界を突破した。


先ほどのもう会えなくなるという悲しみの涙と、告白された喜びの涙が重なったから…。


こらえきれなくなった涙は頬を伝って、重力に従って床や手紙へと落ちる。


涙で少し歪んでしまった文字をなんとか解読しながら読む。


《サクラが怒った理由、きっと俺にあったんだよな。あれ以来ずっと考えたけど見つからなかった。本当に…ごめんな。短い間だったけど、サクラと出会えて本当に嬉しかった。それじゃ》


《PS:俺の一番好きな顔。それはサクラの笑顔! その笑顔、絶対に絶やすなよ》


『そんなことない…。悪いのは全部アタシだから…』


ベタンと力無く床に座り、私は泣け叫んだ。


すると外から、近くを飛ぶ飛行機の音。


私は涙を拭わず、おもむろにベランダへ飛び出した。


『ごめん、PSに書いてあったこと、今日だけは破るね…』


そういうと深呼吸をして大量の空気を体内に含んだ私は、ポーランドの大空を見上げているであろう和希を想像する。


そして、鳴き声混じりの大声で叫ぶ。


『かず……き…っ。か…、和希ぃぃぃぃいい!!』




雲一つない春の青空。


たとえ二度と声が出せなくなろうとも、声が騒音にかき消されようとも、大切な何かを失おうとも…―――――。


私は想いを、叫び続ける。


そして心の中で静かに思う。


『和希、明日からは笑顔になるからね』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 話の流れを持っていくのが上手かったです。ただ、母親なのですが、不登校中の主人公──サクラ──に対して学校を休む事を何とも思っていないのだろうか?と疑問を思いました。それまでの日常的な部分が巧…
[一言]  前半の何気ない日常会話が楽しかったので、後半のシーンがより一層切なく感じました。  サクラちゃんの素直になれないところが、なかなか可愛いと思います。  ひとつ気になったのですが……  台…
[一言] CoCoRoさん、お久しぶりです。菜緒です! ホントダメなやつなんで、まだコメディーの方読めてません……時間のたくさんあるときに! と意気込んでいるので、今回は見逃してください(?) 作品…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ