「お互い干渉しない」という条件で偽装結婚した冷徹上司ですが、私の無防備な部屋着姿を見てからタガが外れたらしく、毎晩の『夫婦の義務』が激しすぎて腰が持ちません
「『夫婦間の過度な身体的接触は求めない』――契約書には確かにそう書かれていたはずなのに、今、私の両手は彼のネクタイでベッドのヘッドボードに縛り付けられている」
「ひ、氷室部長……っ、話が、違っ……!」
「黙って。君が悪いんだよ。そんな無防備な格好で、俺の理性を試すような真似をするから」
荒い息を吐きながら私を見下ろす漆黒の瞳には、社内で「氷の魔王」と恐れられる冷徹な上司の面影は微塵もない。そこにあるのは、飢えた獣のような、ドロドロとした熱い欲望だけだった。
事の発端は、わずか数時間前に遡る。
私、佐倉結衣は、営業部エースにして鬼のトップである氷室蓮部長と、偽装結婚をしている。
理由は互いの利害の一致だ。私は実家からの執拗な見合い攻撃から逃れるため。氷室部長は、社長令嬢からの強引な縁談を断るための「盾」として。
『生活空間は完全に分ける』『互いに干渉しない』『身体の繋がりは持たない』
分厚い契約書にサインをして始まった同居生活は、驚くほどドライで快適だった。家の中でも彼は冷徹で、必要最低限の業務連絡しかしない。完全に「上司と部下」の延長だった。
……そう、今日の夜までは。
「ふふふん〜、今日は部長も出張だし、天国〜!」
金曜日の夜。氷室部長は関西への二泊三日の出張で不在だ。
完全に気を抜いていた私は、風呂上がりにノーブラのまま、ペラペラの薄いシルクのキャミソールと極小のショートパンツという、絶対に人には見せられない姿でリビングをうろついていた。
おまけにソファで胡座をかきながら、ちょっと高めのカップアイスを幸せ気分で頬張っていた、まさにその時だった。
――ガチャリ。
玄関のドアが開く音がして、静まり返ったリビングに重い革靴の足音が響いた。
「……え?」
スプーンを咥えたまま振り返った私の視線の先には、出張中のはずの氷室部長が立っていた。スーツのジャケットを片手に持ち、少し疲れたようにネクタイを緩めている。
「あ、れ……? 部長、出張は……?」
「先方の都合で明日に延期になった。……それより、佐倉」
氷室部長の動きが、ピタリと止まった。
彼の冷たい三白眼が、私の全身を舐め回すように動く。濡れて滴る髪、ノーブラのせいで胸の突起がはっきりと浮き出ている極薄のキャミソール、そして胡座をかいたことで露わになっている太もも。
「あっ……! ち、ちがっ、これは……!」
「……お前、俺がいないと家でそんな格好をしてるのか」
声のトーンが、いつもより一段階低かった。
ぞくりと、背筋に冷たいものが走る。アイスのカップをテーブルに叩きつけるように置き、慌てて胸元を隠して立ち上がった。
「すみません! すぐに着替えてきます!」
逃げようと足を踏み出した瞬間、ドサリと床にジャケットが落ちる音がした。
「きゃっ!?」
次の瞬間、私の腕は強く引き寄せられ、そのまま背中からソファに押し倒されていた。
「ぶ、ちょ……?」
「逃がすわけないだろう」
私の上に馬乗りになった氷室部長が、ネクタイを乱暴に引き抜きながら、見たこともないほど甘く、そして暗く濁った瞳で私を見下ろしていた。
「あ、あの! 契約書! 身体の接触はなしって……!」
「あぁ、あれか。あんな紙切れ、今すぐ破り捨ててやる」
「えっ!?」
「佐倉、君は本当に鈍いな。俺がただの利害の一致で、わざわざ自分の戸籍を汚すと思うか?」
氷室部長の大きな手が、私のキャミソールの細い肩紐を指でなぞる。それだけのことで、肌が粟立った。
「偽装結婚なんて、君を俺のモノにするための口実に決まってるだろう」
「……え?」
「君が入社してきた日からずっと、俺がどれだけ我慢してきたか。職場で君が他の男と笑うたびに、どれほど気が狂いそうになったか……君には一生わからないだろうな」
彼の口から紡がれる信じられない言葉に、私は息を呑んだ。
あの、冷血漢で仕事の鬼の氷室部長が? 私を?
「だから外堀を埋めて、誰も君に手を出せないように俺の妻にした。……本当はもう少し時間をかけて絆すつもりだったが、君が悪いんだ。こんな姿を見せられて、これ以上理性を保てるほど、俺は聖人君子じゃない」
「ひゃっ……!」
冷たい指先がキャミソールの裾から滑り込み、私の素肌を直接撫で上げる。ビクンと身体が跳ねると、彼は満足そうに口角を上げた。
「待っ、だめ、心の準備が……!」
「必要ない。君の身体ごと、俺が今すぐわからせてやる」
――そして、冒頭のシーンへと至る。
縛られた両手。逃げ場のないベッドの上。
「泣いて許しを請うても、朝まで逃がさないから覚悟しろ、結衣」
初めて名前で呼ばれた声の甘さに、私の頭はあっという間にショートした。
その後の記憶は、ひたすらに熱く、甘く、そして溶かされるような快感の連続だった。普段の冷静さなど微塵もない、ただの「オス」になった彼に、私は何度も何度も貪られ、身も心もドロドロに溶かされていった。
◇◇◇
翌朝。
小鳥のさえずりで目を覚ました私は、全身を襲う激しい筋肉痛と腰の痛みに顔をしかめた。
「……痛いっ……」
「おはよう、結衣。よく眠れたか?」
声のした方を向くと、そこにはシャツのボタンを開けっ放しにした、信じられないくらい色気ダダ漏れの氷室部長……いや、蓮さんが、トレイにコーヒーと朝食を乗せて立っていた。
その顔は、長年の憑き物が落ちたように清々しく、そして甘い。
「……ひどいです、いくらなんでも、あんな……」
抗議しようとした私の目の前に、彼は一枚の紙をヒラヒラと見せつけた。
それは、私たちが交わした「偽装結婚」の契約書だった。
ビリッ、ビリビリビリッ!
「あ……」
「これで、俺たちを縛るくだらないルールはなくなった。結衣、これからは本物の夫婦として、俺の激重な愛を一生受け止めてもらうからな」
呆然とする私の唇に、チュッと軽いキスが落ちる。
「さて、朝食を食べたら、昨日の『続き』をしようか」
「む、無理です! 腰が砕けます!」
「大丈夫だ。君の身体が俺以外を受け付けなくなるまで、優しく教えてやる」
……どうやら私の平穏な生活は、昨日をもって完全に終了したらしい。
でも、私を抱きしめる彼の腕はたまらなく温かくて、私自身もこの状況を「悪くない」と思ってしまっているのだから、救いようがない。
鬼上司との偽装結婚は終わりを告げ、今日から、とてつもなく甘くて過激な、本物の新婚生活が始まるのだった。
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