第1話:ありふれた生活
生命の頂点として魔族と人族が存在している星。
彼らがお互いを尊重しながら交流を続けていた時代。
豊かな大地の恵みを分け合いながら平和な世界を築いていた。
魔族は空気中の"魔素"を加工する技術に優れており、特殊な道具の開発や魔法技術を得意としていた。
人族は魔族に比べて身体能力は劣っていたが、思考力に優れており効率化や簡略化を得意としていた。
魔族が開発した技術を人族が発展させる、人も魔も未来の発展のために種族の壁を越えて協力し合っていた。
しかし、永劫に続くと思われた平和な発展は突如終わりを迎える。
人族の統一国家"ユニーブ・ルータル"の国王が魔族の殲滅と領土の侵攻を宣言した。
魔族の統一者である魔王が説明を要求するもこれを固辞、一方的に遮断した。
魔族との領土の間に強力な結界を構築、魔族の出入りを制限。
そして、人族領土内にいる無抵抗の魔族の大量虐殺を開始した。
これに激怒した魔王は人族との全面戦争を宣言、平和な世界は一変した。
魔素を活用した高い戦闘力を持つ魔族に対して、人族は数と工夫で対抗。
魔族は魔法による広範囲攻撃、人族は武器を活用した人海戦術。
数年に及ぶ戦いの結果、魔族がユニーブ・ルータルの制圧に成功。
人族は降伏を宣言、魔族の勝利で戦いは終わり、国王は処刑された。
魔王は人族の領土を没収し立ち入り禁止を厳命。
争いで人口を大きく減らされた人族は領土共に衰退、人族と魔族の交流も完全に途絶えた。
それから数百年、生き残った人族は7つの国に分かれて細々と暮らしていた。
過去の争いを知る者はもういない、当たり前な平和を享受していた。
だが、どこからともなく平和が崩れる音がする。
人族の中心国家"ラース・センテ"に魔王が降臨、人族の殲滅を宣言した。
魔族の襲撃により多くの国が甚大な被害を被り、2つの国が滅びた。
滅びを待つだけの人族に見えたが、強大な力を持った勇者が突如誕生する。
人族の最後の希望として打倒魔王を掲げて旅立っていった。
人族軍と勇者が旅立ってから2年、勇者の活躍で人類は滅亡を免れていた。
人族の領地には多くの魔物や魔族が侵入し、人々の生活を脅かしている。
戦う力を持った戦士たちは前線にいるが、後方を守る存在も必要だ。
そこで、依頼を受けて護衛や討伐を行う"冒険者"が一般的な職業となっていた。
魔族領土と隣接する国、"エッジ・ネサー"の最果ての街"エリス"。
人類の存続をかけた戦いとは程遠いこの土地でラウジディー・ウィルギスは冒険者で生計を立てていた。
酒場で酒を飲みながら、勇者と人族軍の噂に耳を傾ける。
勇者の活躍により魔族から人族の土地を一部取り戻したとか。
「はーっ、何やらお祭り騒ぎのようですな。」
おめでたい話だが素直に喜べず悪態をついて見る。
「あら、あんまり喜んでいないのね。」
酒場のウェイトレス、ミル・シーラが話しかけてきた。
「人族の土地を取り戻すのに躍起になるのも構わないけどさ、もっと地方で苦しんでいる人たちに目を向けられないものかね。」
人族の中心国家はラース・センテであり、勇者の活躍で恩恵をうけるのはかの国だけだ。
領地が増えた所で俺たちは収穫のおこぼれを預かる事はない。
5つの国の中でもエッジ・ネサーの優先順位は一番低い、素直に進展を喜ぶのも馬鹿らしい。
「確かに私たちの暮らしには何にも関係ないけどさ、それでも明るい話題があるのは嬉しいことよ。」
「そんなもんかねー。」
「まあ、この街にはあなたがいるから心配していないってのもあるけどね。」
「はは、それはどうも。俺みたいな下位冒険者に期待してくれるのなんてシーラだけだよ。」
冒険者には3つのランクがある。
一般的な冒険者ランクである下位冒険者。
単独大型魔物の討伐が可能で、貴族や王族の護衛に加わることができる中位冒険者。
国の最終防衛ラインとして認定される上位冒険者。
ちなみに、上位冒険者はラース・センテの精鋭部隊として収集され前線に派遣されている。
冒険者の6割は下位冒険者、3割が中位冒険者で残りの1割が上位冒険者だ。
昇格は実績を元に冒険者ギルドが判定しており、選定基準は不明だ。
"単独で大型魔物を討伐できること"を一つの選定基準にしているとか。
俺はこの辺りに生息する大型魔物はほとんど単独討伐が可能だ。
しかし、ギルドにお願いして昇格選定から外してもらっている。
別に冒険者としてバリバリ働きたいわけじゃない、今の生活を維持できれば満足だ。
お偉いさんの護衛に呼ばれたりなんて考えたくもない。
「下位冒険者って、ウィルはいつまでダラダラ過ごすつもり?」
「そんなもん、死ぬまでに決まっているさ。」
「はぁーっ。もう25歳でしょ?そろそろしっかりしなさいよ。」
15歳で冒険者デビューしてからはや10年、しっかりとか言われてもなー。
このまま好きに生きて、好きなように死ぬ。
行動を改める必要性を全く感じない、いつまでも自分のままで生きていくつもりだ。
酒場のドアが強めに開かれる。
ギルドの管理者であるミル・ルーダ、シーラの姉が入ってきた。
「あ、ウィルさんちょうどいいところに。急ぎの依頼があるのですが。」
「緊急じゃなければ明日でもいいか?すまないが酒を飲んでしまってて。」
「はい、明日でも大丈夫です。実は街の近くにコカトリスの巣が見つかりまして。詳細の調査と討伐をお願いしたいです。」
コカトリス、俊敏で猛毒をもつ2頭獣の魔物。
中位冒険者なら倒せて当然、下位冒険者には荷が重い魔物だ。
普段は草食だが繁殖の時期には肉食に変化して、最悪なことに人の肉を好む。
巣を見つけたら被害が大きくなる前に討伐するべき魔物だ。
「わかった、明日の昼には出かけよう。明日の朝にギルドに行くから詳細聞いてもいいか?」
「ありがとうございます、助かります!」
明日に向けて酒を切り上げ、水を大量に飲んで自宅代わりの宿に向かう。
勇者の躍進なんて関係ない、変わらない日常だ。
このコカトリス討伐が自分の運命を大きく変えるなんて、思ってもいなかった。




