表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

白虎の影

静かな日々は、長く続かなかった。


療養生活が終わりに近づくにつれて、胸の奥のざわつきは大きくなっていった。


隊舎の廊下を歩く。

訓練場の音が聞こえる。


木刀の音。銃声。

神紋の光。


私は立ち止まった。


中に入れなかった。


自分だけが違う世界にいるみたいだった。



その日、廊下で副隊長とすれ違った。


「怪我はもういいの?」


「はい」


短い会話。


せなは立ち止まらなかった。


でも、すぐに言った。


「ねえ」


振り向く。


「いつまでここにいるつもり?」


胸が止まる。


「え……?」


「神紋もないのに」


言葉が出ない。


「隊長が優しいからって、甘えていい理由にはならないでしょう」


何も言い返せなかった。


「あなた、戦えないのよ」


静かな声だった。


「神選組は、遊び場じゃない」


心臓が痛い。


全部、分かっていることだった。



その夜、眠れなかった。


隊舎の屋根の上で風が鳴っている。


ここにいていいのか分からない。


隊長の言葉を思い出す。


“ここにいていい”


でも、それに甘えているだけじゃないのか。


私は戦えない。


神紋もない。


守られてばかり。


――それなのに。



気づいたら、外に出ていた。


夜の坂を下る。


足が止まらない。


行き先は分かっていた。


鴨川。


最初に見つけられた場所。


すべてが始まった場所。


夜の川は静かだった。


水の音だけが響く。


私は川辺に座り込んだ。


「……やっぱり、ここなんだ」


小さく呟く。


ここから始まって、ここに戻ってきた。


私は変われていない。


その時、背後で足音がした。


「やっぱり来たのね」


振り向く。


副隊長だった。


「あなた、逃げると思った」


胸が凍る。


「違います」


「同じよ」


静かな声。


「ここにいても苦しい。戻っても苦しい」


目を逸らせなかった。


「だったら」


せなが続ける。


「答えを出しなさい」


夜の鴨川に風が吹いた。


静かな水面が揺れる。


私の居場所が、揺らいでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ