影を裂く牙
副隊長が戻ってきたのは、雪が残る朝だった。
遠征帰りの隊士たちが詰所に入ってくる。
その中心に、一人の女性がいた。
黒髪。鋭い目。まっすぐな姿勢。
白川せな。
白虎隊副隊長。
「隊長、ただいま戻りました」
凛とした声が廊下に響く。
白瀧隊長が穏やかに笑う。
「おかえり。無事でよかった」
その一言だけで、二人の長い時間が分かる。
私は少し離れた場所から見ていた。
せなの視線がこちらに向く。
一瞬だけ、止まった。
「……その子が例の?」
静かな声だった。
「白瀬かのん。新しい隊員だよ」
隊長が紹介する。
せなはゆっくり近づいてくる。
私を上から下まで見る。
「神紋は?」
喉が詰まる。
「……ありません」
沈黙。
「へえ」
それだけだった。
でも、その一言で分かった。
歓迎されていない。
⸻
その日の午後。
訓練場で声が響いた。
「かのん、来なさい」
振り向くと、せなが立っていた。
「今日は実戦訓練よ」
「え…?」
戸惑う私に、せなは淡々と言う。
「神選組にいる以上、見学だけってわけにはいかないでしょう」
言葉が出ない。
隊長がいない。
「でも私は——」
「来なさい」
拒否できない声だった。
⸻
向かったのは、鴨川。
四条河原町の河川敷。
人払いされた夕方の川辺。
「ここで待ってなさい」
せなが言う。
胸が嫌な音を立てた。
「副隊長、隊長は——」
「私が判断する」
その声は冷たかった。
空気が変わる。
水面が揺れる。
黒が滲む。
神禍。
足が動かない。
呼吸ができない。
「ほら」
せなが言う。
「これが現実よ」
恐怖で動けない私の前で、神禍が形を成す。
その瞬間。
乾いた銃声が響いた。
パン。
神禍が裂ける。
振り向くと、白瀧隊長が立っていた。
静かな目。
「せな」
穏やかな声だった。
でも空気が凍った。
「無断行動は困るな」
せなは舌打ちした。
私はその場で崩れ落ちた。
心臓が壊れそうだった。
隊長のコートが肩にかかる。
「大丈夫。もう終わったよ」
その声で、涙が溢れた。




