白き誓い
朝の光は、やわらかかった。
障子越しに差し込む光が、部屋の空気を静かに温めている。
鳥の声が遠くで聞こえた。
「……朝?」
小さな声が布団の中から聞こえる。
「うん、朝だよ」
白瀧は穏やかに答えた。
布団の中で、かのんが少しだけ身じろぎする。
目は開いている。でも、焦点は合っていない。
光と闇の輪郭しか見えない世界。
それでも彼女は、穏やかに笑った。
「いい天気ですか?」
白瀧は窓の外を見る。
青い空。流れる雲。
春の始まりの空気。
「うん。とても」
「よかった」
その言葉が、少しだけ胸を締めつける。
白瀧はゆっくり言った。
「今日は任務がある」
かのんは小さく頷いた。
「はい」
もう慣れている。
玄関まで見送るのが、日課になっていた。
⸻
白瀧が支度を整える音。
革の音。銃の音。靴の音。
かのんは台所に立っていた。
湯気が上がる味噌汁。
焼き魚の香り。
「朝ごはん、できてます」
「ありがとう」
二人で食卓に座る。
静かな朝。
でも、寂しくはない。
「今日も遅くなりますか?」
「たぶんね」
「気をつけてください」
「うん」
短い会話。
でも、それで十分だった。
⸻
玄関。
靴を履く音。
かのんが立っている。
目は見えない。
それでも、白瀧の方向を向いている。
「隊長」
白瀧は少し笑う。
「もう隊長じゃないよ」
引退して、ずいぶん経つ。
それでも彼女はそう呼ぶ。
「いってらっしゃい」
小さな声。
白瀧は彼女の手を握った。
「いってきます」
少しだけ手を離せなかった。
⸻
扉が閉まる。
足音が遠ざかる。
静かな家。
かのんはゆっくり息を吐いた。
「……今日も無事に帰ってきてくださいね」
小さく呟く。
それが、彼女の祈りだった。
⸻
夕方。
扉が開く音。
「ただいま」
その声だけで、顔がほころぶ。
「おかえりなさい」
かのんは立ち上がる。
白瀧は彼女を抱きしめた。
「今日は静かだったよ」
「よかった」
胸に顔を埋める。
「君の声が、僕の光だ」
かのんは少し笑った。
「私も、あなたの声が光です」
静かな夜が訪れる。
戦いは終わらない。
でも、帰る場所はある。
それだけで、十分だった。




