落ちた白虎
見つけたのは、夕方だった。
出町柳の河川敷。
鴨川と高野川が合流する場所。
境界が重なる場所。
そこに、かのんは立っていた。
白瀧は足を止めた。
「……見つけた」
小さく息が漏れる。
かのんが振り向く。
目が合った瞬間、胸の奥の緊張がほどけた。
「隊長……」
その声で、やっと呼吸が戻る。
「無事でよかった」
それが最初の言葉だった。
⸻
近づこうとした、その時。
空気が変わった。
風が止まる。
水面が揺れる。
黒が滲み出す。
川の上に、影が広がる。
一体じゃない。
数が多すぎる。
「下がって」
白瀧の声が低くなる。
拳銃を抜く。
パン。パン。
銃声が夕暮れを裂く。
神禍が崩れる。
でも、止まらない。
「どうして……」
かのんの声が震える。
その背後から声がした。
「ここまで来たのね」
振り向く。
白川せなが立っていた。
静かな笑み。
「副隊長……?」
かのんの声が震える。
「全部、あなたのためよ」
せなが言う。
「隊長はあなたを庇う」
空気が凍る。
「だから放ったの」
言葉が落ちる。
その瞬間、巨大な影が現れた。
空を覆うほどの神禍。
「隊長!!」
かのんの叫び。
白瀧は振り返らない。
前に出る。
銃声が響く。
影が振り下ろされる。
避けられない。
その瞬間。
かのんを突き飛ばす。
衝撃。
赤が広がる。
「……隊長?」
地面に崩れる音。
白瀧の身体が倒れる。
「どうして……」
震える声。
白瀧は薄く笑った。
「決まってる」
息が浅い。
「君を守りたかった」
胸が裂けそうになる。
「いや……いや……」
その時。
かのんの胸が光った。
初めて現れる神紋。
白い光。
涙が落ちる。
「お願い……死なないで……」
光が溢れる。
白瀧の傷が塞がっていく。
同時に、世界が暗くなる。
「……え?」
光が消える。
静寂。
「見えない……」
かのんの声が震える。
白瀧は息を呑んだ。
「……かのん?」
その瞬間、理解した。
命は助かった。
代わりに、光を失った。
白瀧は震える手で、彼女の手を握った。
「……ここにいる」
その声だけが、世界に残った。




