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白虎の息吹

京都の朝は、静かに始まる。


清水五条の坂の上。

観光客が動き出す前の時間だけ、この街は少しだけ本来の顔を見せる。


遠くで寺の鐘が鳴っていた。

低く長い音が、冷たい空気の中をゆっくりと流れていく。


その坂の途中に、神選組の詰所がある。

観光地のすぐ裏側。誰も気づかない場所。


神に選ばれた者たちが、神禍を祓う組織。


――神選組。


そして隊員の証がある。


神紋。


神に選ばれた者の身体に現れる印。

神の加護であり、同時に重い代償でもある。


神紋を持つ者だけが、神禍と戦える。


だから本来、神紋を持たない人間はここにいない。


本来なら。


「かのん、起きてる?」


障子の向こうから、柔らかな声がした。


「はい、起きてます」


障子が開き、白瀧隊長が顔を覗かせる。

白い髪が朝の光に透けて見えた。


「おはよう。寒くなかった?」


「大丈夫です。ここ、あったかいので」


隊長は小さく頷いた。


「それなら安心だ」


隊長は部屋を見回し、静かに言う。


「夜、怖い夢は見なかった?」


私は少し迷ってから答える。


「……大丈夫でした」


嘘だと分かっている顔だったけれど、隊長は何も言わない。


「朝ごはん、できてるよ。ゆっくりでいいから来て」


「はい」


立ち上がると、隊長の手が軽く頭に触れた。


「焦らなくていい」


その言葉が、いつも心に残る。



廊下を歩きながら、私は隊長の背中を見る。


この人の背中には、神紋がある。


隊員の神紋は位置が違う。

多くは腕。力を扱いやすい場所。


でも、強い人は違う。


背中。首。胸。


腕だけでは収まらない力を持つ人たち。


白瀧隊長は――背中。


白虎を背負っている。


「隊長」


「うん?」


「毎朝、起こしに来なくても大丈夫です」


「知ってるよ」


「じゃあ、どうして来るんですか」


少し考えてから答える。


「顔を見ないと、朝が始まった気がしないから」


「……ずるいです」


隊長は小さく笑った。



食堂に入ると、隊士たちが朝食を囲んでいた。


袖の隙間から見える白い紋。

白虎の爪痕。


全員にある。


私には、ない。


「今日の訓練、かのんは見学?」


「はい。まだ実戦は難しいので」


沈黙が落ちる。


「すみません、役に立てなくて」


隊長が静かに言う。


「謝らなくていい」


「でも私、神紋がなくて…」


「知ってる」


穏やかな声だった。


「それでも君はここにいていい」


「どうしてですか」


隊長は少しだけ考えて言った。


「君は神禍から生き延びた」


それだけだった。


「それだけで、ここにいる理由になる」



訓練場。冬の空。


神紋を持つ隊士たちが剣を振るう。

私は、見ているだけ。


「私、ここにいていいんでしょうか」


「君がここにいたいなら、ここにいればいい」


「でも戦えません」


「戦えなくてもいい」


優しい声。


「ここにいることを選んだなら、それでいい」



その日の午後。


「神禍反応確認!四条河原町・鴨川河川敷!」


空気が変わる。


隊長が静かに立ち上がる。


「……行こうか」


そして私を見る。


「無理はしなくていい。だけど来るなら」


微笑む。


「僕のそばにいよう」


「はい」


京都の静かな朝が終わる。

私たちは、鴨川へ向かった。

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