第5話:売れるってこんなに嬉しい
仕入れから帰ってきた翌日。
朝早くから父と母は店先の準備に追われていた。
といっても、行商の我が家には立派な店があるわけじゃない。
家の前に机と布を広げて、そこに薬草を並べるだけだ。
「うーん……思ったより量があるわねぇ」
「倍仕入れたんだから、当然だろう……」
父が額の汗をぬぐいながら、並べ終えた薬草を見つめる。
見つめすぎて不安になったのか、ちらりとこちらを見る。
「カイ、本当に……売れるんだよな?」
「うん、大丈夫。値段設定も適正だよ」
「適正って……」
父が困ったように笑う。
でも、昨日よりはずっと顔色が明るい。
緊張と期待が半々で混ざっている感じだ。
そして、開店(と言っていいのか迷うが)から少し経ったころ。
「すみませーん、この薬草って新しく仕入れたやつ?」
近所の冒険者のお兄さんがひょいと顔を出した。
いつもふらっと寄っては干し肉を買っていく人だ。
「そうだよ! 今日は種類も量も多めにあるんだ」
父が嬉しそうに胸を張る。
「へぇ、香りがいいな。じゃあ二束もらおうかな」
「ま、毎度ありっ!」
父の声がワンテンポ高くなる。
横で見ていた私は、胸の中がじんわり温かくなった。
(……売れた。やっぱり売れるんだ)
薬草とはいえ、量が倍になったぶん不安は大きかった。
でも、きちんと需要を見れば、ちゃんと応えてくれる人がいる。
お兄さんが去ると、母はほっと肩を下ろして笑った。
「カイ、本当にすごいわ……」
「まだ始まったばかりだよ。でも、今日の分は売り切れると思う」
「売り切れる……!」
父の顔がぱぁっと明るくなる。
その後も、ちょこちょことお客さんが来てくれた。
薬草を買う主婦、体力づくりだと言いながら明らかに運動不足そうなおじさん、そして冒険者のお姉さんたち。
「これ、前より状態よくない? 干し方変えた?」
「ううん。ちゃんと選別して仕入れたからだよ」
「すごいねぇ。じゃあ三束ちょうだい!」
買ってもらうたびに、父の顔が綻んでいく。
まるで冬が終わって春が来たみたいに表情が柔らかくなっていく。
「……カイ」
「うん?」
「商売って、こんなに……楽しかったんだな」
父が小さく呟いた。
その声には驚きと喜びが入り混じっていて、少しだけ震えていた。
「うん。楽しいよ。ちゃんと価値が届くと、みんなが嬉しくなるから」
父はゆっくりとうなずいた。
「お前のおかげだ……ありがとうな」
「これからもっと楽しくなるよ。だって、まだ始まったばかりだし」
夕方には、本当に全部売り切れた。
売り上げを数える父の手が震えているのを見て、母が嬉しそうに肩を叩いていた。
「ね? カイが言った通りでしょ」
「ああ……ああ、本当に……!」
(よかった……これでファンドとしての信頼も少しは得られたよね)
子どもの私は大人二人の間でこっそり安堵する。
でも、この日の成功はまだ序章にすぎない。
この先、もっと多くの人を巻き込んでいく必要がある。
けれど――その第一歩は、大成功だった。




