第33話:世界初の“不労所得”という革命
魔動車と飛空艇の運用が始まり、
世界の移動がほんの少しだけ速く、便利になった頃。
私は新しい資料を前に、静かに息を整えた。
(次は……人々の“お金の流れ”そのものを変える番だ)
これまでのファンドはすべて「事業から出資者へ利益を返す仕組み」だったが、まだ“個人の小さな投資”は扱っていなかった。
(でも、村人たちは今……貯蓄がある)
農業ドーム、物流改善、加工工場の恩恵で、食費は下がり、収入は増え、村人たちは初めて“余剰金”を持つようになった。
そこに私は、そっと新しい種を落とした。
―――
「みんな。今日は……新しい投資の話があります」
広場に集まった村人たちは、どこかそわそわしていた。
「次の投資先は――魔動車の製造工場 です」
「お、おお……!」
「今あちこちで話題になってる乗り物だろ?」
「王族が乗ってるって噂の……」
私はうなずいた。
「この工場に“株”という形で投資してもらいます。株を持っていると、季節ごとに分配金が支払われます」
「……季節ごと?」
「というと……年に四回!?」
「はい。つまり、春・夏・秋・冬――年に四度、お金が増える仕組みです」
ざわっ、と広場の空気が揺れた。
―――
「でもカイ、それって……働かなくてもお金が増えるってことかい?」
「そうです。これが――不労所得 といいます」
その言葉に、どよめきが一斉にあがる。
「働かずに……お金が……」
「そ、そんな夢みたいな……」
「いや、でもカイの言うことだ。きっと……」
私は続けた。
「魔動車は今、王族や上流貴族の間で非常に高額で取引されています。工場の儲けの一部、協賛総額の5% を出資者に返します」
村人たちは、分かりやすい数字で計算し始めた。
「銀貨一枚投資したら……銅貨一枚が戻る?」
「一年で四回……? 銅貨四枚……!」
「銅貨四枚って……半月分の食費じゃないか!」
「働かずに……稼げるなんて……」
その時、村のパン屋のおばさんが震える声で言った。
「……カイちゃん。そんな仕組みが本当に……私たちにも許されるのかい……?」
私はまっすぐに答えた。
「みんなが“支えた技術”の恩恵は、みんなが受け取っていいんです」
―――
物価が下がり、生活に余裕が生まれ、村人たちはこぞって株を購入した。
「うちも銀貨二枚いくよ!」
「私は一枚だけだけど……絶対買う!」
「こりゃあ……じいさんの老後が安泰だわい!」
生活支援投資会社は慌ただしくなったが、仲間たちの表情は嬉しさに満ちていた。
そして私は……もうひとつの仕掛けを用意していた。
―――
「株を買ってくれた人には、株主優待 があります」
「また新しい言葉が……」
「今回は何だい?」
「魔動車の乗車券、一回分です!」
「!!」
広場が大きく揺れた。
「魔動車に……乗れるのか!?」
「夢の乗り物じゃないか!」
「貴族様しか乗れないって噂の……!」
子どもたちが目を輝かせ、大人たちはそわそわと落ち着かない。
(こういう“小さな夢”が、生活を豊かにする)
優待の存在は、想像以上の効果を生んでくれた。
―――
株は売れに売れた。
むしろ、足りないほどだった。
すると――他の産業も黙ってはいなかった。
「うちの牧場でも、株を発行してみたい!」
「農家組合でもできるか? 収穫物を優待にできるぞ!」
調理加工工場、酪農家、織物工房……次々と 株式ファンド を立ち上げ始めた。
●牧場株式ファンドの人気優待
・牛乳毎月一瓶
・バター一塊
・干し草の優先販売枠
●農家株式ファンドの優待
・季節の野菜詰め合わせ
・薬草の定期便
・新作作物の試供品
村に生まれた“株主”たちは、口々に笑っていた。
「優待で届いた野菜、美味しかったよ!」
「株ってすごいなあ……本当に届くんだ!」
「お金が増えるだけじゃなくて、生活も豊かになるねぇ!」
―――
私は、書類棚いっぱいに積まれた“株式配当計算書”を見ながら思った。
(投資って……不思議だな)
誰かのために作った小さな仕組みが、いつの間にか世界を巻き込み始めている。
父が肩を叩いて笑う。
「カイ、お前……これ本当に世界変えちまうぞ」
「えへへ……でも、これでようやく“未来への土台”ができたよ」
おじいさんは穏やかに目を細めた。
「坊。金の流れが変われば……世の価値まで変わる。その変化を恐れない心が、大事なんじゃよ」
魔動車は工場で動き続け、
飛空艇は空を舞い、
村には“新しい経済”の風が吹いていた。




