第28話:技術ではなく、仕組みを売るという選択
加工ファンドが動き出してからというもの、失業していた人たちは驚くほど早く新しい仕事を手にしていた。
「粉末加工、今日の分終わりましたー!」
「干し草、いつもより質がいいぞ!」
「保存食も安定して作れるようになりました!」
村の工房は毎日明かりが灯り、笑い声が溢れている。
畜産業にも良い影響が出始めた。
「エサの質が上がって、家畜の育ちが早い!」
「干し草が安定してて助かる!」
それに合わせ、食品全体の値段が少しずつ下がった。
(物価が下がるって、こんなにみんなを楽にするんだ)
かつて“生活するだけで大変”だった家庭が、今は笑いながら工房に食材を運び入れている。
だが――ここに目をつけるのが商人である。
―――
ある日のこと。
「カイ様ー!! また商談の使者が来ています!」
「こちらもです! あ、こっちも……!」
立て続けに商会へ姿を見せたのは、異国の服装をまとった商人たちだった。
「ドーム技術を提供してくれ!」
「加工工場の製造工程を教えてほしい!」
「資材の仕入れ方法、契約先……すべて知りたい!」
まるで押し寄せる波のように、各国の商人が競うように要求してきた。
(……予想はしてたけど)
“技術の買い付け”が中心だ。
農業ドームも加工技術も、いずれ誰かが模倣すること自体は避けられない。
しかし今の段階では、技術そのものが国を動かす力を持ってしまっている。
―――
そして国の上層部も揺れていた。
「技術を輸出すれば莫大な利益だ……」
「いや、関税を上げて保護すべきだ」
「むしろカイたちを国専属にして囲い込むべきだ」
視線の行き先はすべて――私たち。
(囲い込み……か)
技術を握る者に起こりがちな“独占の誘惑”。
でも、それは成長を止める最も危険な道だ。
このままでは、国も商人も、“技術を持つ者”を巡って争いを始めてしまう。
(それだけは、避けなきゃいけない)
「カイ様、やはり国の動きが気になります」
「各国が技術を狙っているのは明白です」
「どう動くべきか、方向だけでも示してください」
交渉担当たちが不安げに集まってきた。
私は少しだけ考えて――静かに、しかしはっきりと言った。
「“技術の売買” はしません」
「……え?」
「代わりに――ファンド協賛という形で支援します」
「技術を渡せば、すぐに壊されるかもしれない。使い方を誤れば、被害も生まれる」
私は紙に三つの丸を描き、説明した。
① 農業ドームファンド
→ 各国の出資によってドームを建設し、収益を分配。
技術は“私たちが管理する形”で提供。
② 加工サービスファンド
→ 人材教育・機械導入・物流を一括で支援する仕組み。
技術は提供するのではなく“運営ごと貸す”。
③ 気候安定供給ファンド
→ 複数国の出資で農業帯を分散化し、災害リスクを軽減する仕組み。
「この三つを“協賛ファンド”として各国に提供すれば、技術を売るのではなく、仕組みを共有できます」
交渉担当の目が一気に輝き始めた。
「……なるほど!」
「技術は渡さず、利益と安全だけを広げる……!」
「これは……単なる商会ではなく……」
「そう。私たちは、投資会社になります」
―――
技術を売らない。
管理も渡さない。
でも、仕組みを広げて利益は“分け合う”。
それは国も民も敵に回さない、最も平和的で、最も持続性のある道だった。
「この形なら、技術を巡って争いは起きません」
「ファンドに協賛してもらい、互いに利益を出せます」
「そして……世界中が“生活支援商会の仕組み”で繋がります」
交渉担当は息を飲んで呟いた。
「……カイ様……これはもう商会ではない……国家を超えた構造です」
私は小さく笑った。
「必要としてくれる人がいるなら、手を貸すだけです。その代わり――正しく、誠実に協力してくれる人に限ります」
―――
加工品が安くなり、
畜産が豊かになり、
食品が行き渡り始めたことで――
世界は、私たちの仕組みに注目し始めた。
そして今度は、ただの技術ではなく、“仕組みそのもの” を求めてくるだろう。
(仕組みを動かすには、心が必要だ。だから――この道なら、誰も置いていかれない)
私は胸に手を当て、深く息を吸った。
「よし……次は、世界規模のファンドだね」
父はぽかんと口を開き、交渉担当は震えた声で笑い、おじいさんは「坊はどこまで行くんじゃ」と呟いた。
(行けるところまで行くだけだよ)
生活支援商会――いや、生活支援投資会社は、ここに新しい扉を開いた。




