第26話:気候すら越える仕組みへ
冬が去り、暖かい風が村を包み始めた頃。
国との契約が成立したという知らせは、想像以上の速さで他国へ広まっていた。
そして――最初に動いたのは、温暖な気候を持つ南方の国だった。
彼らは、私たちの商会と既に“薬草定期契約”を結んでいるはずの国だ。
しかし、今回の国家契約を聞くと……態度を一変させた。
―――
「えっ……関税が?」
「なんだその税率……!」
「とても商売にならんぞ……!」
南方の国が突如として“薬草の輸出に法外な関税”をかけ始めた。
商人たちは顔を青くし、薬草農家たちは泣きそうになった。
「カイ様、どうか助けてください!」
「このままでは売れません……!」
「関税を払ったら赤字どころか……食べていけなくなります……!」
彼らは遠路はるばる、村に助けを求めてきたのだ。
(……これは、国が“輸出の独占権”を握ろうとしてる流れだな)
国が私たちと契約したことで、南方国は焦ったのだろう。
自国の資源を高値で売れると思い、関税をつり上げた。
しかし――その結果。
「薬草を売れなくなった農家が大量に路頭に迷う」
「関税のせいで他国も買わない」
「商人は商売を失い、運び手は仕事を無くす」
南方国の内部は混乱し、“助けてくれ”と叫びながらこちらへ押し寄せてきた。
同時に、自国の薬草農家も動揺していた。
「冬越しの蓄えを考えると……この時期に薄利多売しておきたい……」
「国に大量に納めるというのなら、売ってしまうか……?」
このままでは――商会の薬草供給が“競争”に巻き込まれて崩壊しかねない。
私は堪らず声を張り上げた。
「――待ってください!!」
広場にいた農家たちが一斉に振り向いた。
「薄利多売に走ると……冬に必ず困ります!」
「市場を壊してしまったら、誰も得をしません!」
自国の農家も、南方の農家も、全員が不安で震えていた。
(みんな……本当に行き場がないんだ)
だからこそ――新しい仕組みが必要だった。
「私は、気候に左右されない栽培を提案します」
「気候に……左右されない?」
「そんなことができるのか……?」
私は地面に簡単な図を描いた。
「透明な膜で覆って、温度、湿度、日当たりを調整する……“農業ドーム” を作ります!」
農家たちはぽかんと口を開けた。
「ど、ドーム……?」
「本当にそんなものが……?」
「魔法ではなく……?」
「はい。これは“技術”です。天候が悪くても、寒波が来ても、雨が降っても……薬草が育ちます!」
説明を続けると――農家たちは徐々に目を見開き始めた。
「……つまり、一年中作物が取れる?」
「温暖地の薬草にも負けなくなる?」
「冬に蓄える必要すら……!」
「その通りです!」
―――
“農業ドームファンド” の説明が終わった瞬間――
「出資する!」
「うちもだ!」
「頼む、作らせてくれ……!」
それは怒涛のように押し寄せた。
自国の農家、南方国から逃げてきた農家、さらには商人、運び手、冒険者――
みんなが口を揃えた。
「お願いします」
「この仕組みに賭けさせてください」
資金は、雪解け水のように一気に集まった。
(……これが、人の“希望”なんだ)
―――
「カイ様のそばで育てたい!」
「管理を教えてください!」
「ここなら……信頼できます!」
農家たちは村の周辺に土地を借り、続々とドームを建て始めた。
中は温かく、柔らかい光に満ち、どの季節でも薬草が育つ環境が整い始める。
南方からの農家も押し寄せ、口々に言った。
「関税で国に見捨てられたけど……ここならやり直せる!」
「一緒に働かせてください……!」
村は急速に賑わい、まるで“薬草の都”のように活気づいていった。
―――
薬草を輸出して儲けようとしていた南方国は――
「輸出相手が消えた」
「農家が大量に流出した」
「関税を下げてももう遅い!」
と、大混乱に陥った。
国としては“優位性”を失い、逆に“薬草不足”の危機にさらされているという。
(……やっぱり、独占は続かないんだ)
支配ではなく、信頼。
それが商会を動かす原理で、一番強い力だった。
冬でも、夏でも、雨でも、干ばつでも――薬草が育つドームが並ぶ土地。
それはまさに、気候に縛られない商会の心臓部だった。
私は完成したばかりの最初のドームの前で、そっと呟いた。
「これで……もう誰も困らないね」
父が嬉しそうに涙をぬぐい、おじいさんは「坊やは大したもんじゃ」と笑った。
(気候の壁も越えた。これで、本当の安定供給が始まる)
薬草が風に揺れ、新たな商会の未来を照らしていた。




