第22話:不作の冬に灯る光
冬は、静かにやってくるものだと思っていた。
だが今年の寒波は、まるで山の向こうから牙をむいて襲いかかってきたかのようだった。
畑は凍り、森は白く閉ざされ――薬草の採取など、とてもできる状態ではなかった。
「カイ……すまねぇ……」
村の入り口に、冒険者たちが次々と膝をついた。
剣士の青年も、魔法使いのお姉さんも、筋肉の斧使いも、全員が暗い表情だ。
「どれだけ探しても……一本も見つからねぇ」
「自分たちの分ですら足りないのに……売るなんて無理だよ……」
「商会に迷惑かけちまう……」
冬の風は冷たく、声は震えていた。
冒険者たちは、薬草が採れないことよりも――“商会に顔向けできない” と落ち込んでいた。
けれど、私は知っている。
(この人たちは……本当に誠実だ)
だからこそ、私は大きく息を吸い――
「――定期購入のお客様はこちらです!!」
と、広場に響くように叫んだ。
冒険者たちは驚いて顔を上げた。
「カ、カイ……? 定期購入……?」
「そんなの今は無理だろ……」
「薬草が無いんだ……!」
私は満面の笑みで宣言した。
「――大丈夫! 手配済みです!」
―――
寒波が来る前。
私は交渉担当に、ひとつお願いをしていた。
「温暖な気候の村と契約して、薬草を定期的に送ってもらえますか?」
交渉担当は驚きつつも、「試してみます」と言って出ていった。
そして――成功していた。
「カイ様、こちらが契約書になります!」
「冬でも薬草が枯れない土地から、毎月定期で仕入れられます!」
交渉担当が胸を張って報告すると、冒険者たちの口がぽかんと開いた。
「……は?」
「冬に薬草が届く……?」
「そんなこと……できるのか?」
「できます。そのための “薬草定期購入ファンド” です!」
私がそう言うと、広場の空気が震えた。
―――
生活支援ファンドは、ポーションを“安心”として届ける仕組みだった。
だが今回のファンドは違う。
“不作の冬にこそ力を発揮する、保険のような仕組み”
私は説明した。
「冬は採れない。なら、採れる場所と“つながって”おけばいい。それだけで商会も冒険者も困らないで済むんです」
剣士の青年が震える声で言った。
「カイ……俺たちが薬草出せなくても……商会は困らないのか?」
「うん。困らない。だってみんなが“定期購入”を信じてくれたから」
魔法使いのお姉さんは涙をこぼした。
「信じて……って……そんな……」
筋肉の男は鼻をすすりながら言った。
「お前……泣かせにきてるだろ……」
広場の空気が、静かに温かくなった。
「今回の冬。薬草を無理に採ろうとしたら、怪我人が続出します。だから……無理しないでください」
冒険者たちの肩が、ふっと軽くなった瞬間だった。
「この定期購入ファンドは、冒険者さんが無事でいてくれることが一番大事 という商会の意思表示です」
青年は震える声で言った。
「……ありがとう、カイ……ほんと……」
冬の寒さの中で、心のほうが先に温まっていくのがわかった。
―――
そんな中、交渉担当が息を切らして走ってきた。
「カイ様!! 大変ですっ!!」
「どうしたの?」
「こ、国家から……“薬草定期購入ファンドに投資したい” との申し出がっ!!」
広場が揺れた。
「国が……!?」
「ファンドに……投資……?」
「とんでもないことになってきた……!」
交渉担当は興奮で顔を赤らめながら続けた。
「これまでの仕組みを見て、“危機に強い商会” と評価されたようです!」
父はその場にへたり込み、泣き笑いしながら天を仰いだ。
「か、カイ……く、国だぞ……! お前……どこまで行くんだ……!」
私は胸をぎゅっと押さえた。
(大きい……これは大きい取引だ)
冬の風が冷たく吹く。
けれど、心は静かに熱を灯していた。
「……気を引き締めないとね。ここからは、本当の取引になる」
冒険者たちも商人たちも、一斉に頷いた。
そして――生活支援商会はついに、国家を巻き込む大商会へ歩み始めたのだった。




