第18話:信頼とは、気づかぬところで育つもの
冒険者たちとの直接買い付けが始まって数日。
村の入り口には、連日見慣れぬ冒険者が列を作るようになった。
「す、すみません! この薬草、買い取ってもらえると聞いて!」
「ポーションもあるぞ! 評価してくれ!」
「村のあの子が公正な値段で買うって……本当か!?」
日に日に声が増え、ついには道具屋の裏収納がパンパンになった。
「カイ……これ、どうするんだ?」
「え、ええっと……すごい量だね……」
さすがの私も、積み上がった袋の山を見て少し後ずさった。
(こんなに早く広まるなんて……正直、予想外だな……)
父は震える手で在庫表を見ながら「う、売れなかったらどうするんだ……」と青ざめている。
そんな時だった。
「……ふぅ」
控えめなため息とともに、“予言者のようなおじいさん”が歩いてきた。
「じいちゃん……?」
村の隅でよく日向ぼっこしているだけの、特に目立たないおじいさん。
けれど、なぜか話すと言葉が深い、不思議な人。
「どうやら“噂”が早く広まったようじゃのう」
「それは、そうなんですけど……ちょっと早すぎて……」
私が苦笑いすると、おじいさんはうなずきながら言った。
「そりゃあ、わしが広めておいたからのう」
「え……?」
「生活支援ファンドじゃったか? あれを、近隣の村々に“待っておけ”と伝えておいたんじゃよ」
父がぽかんと口を開けた。
「おじいさん……どうしてそんな……?」
「お前さんのとこの薬草やポーションは、ほんに質がいい。それに坊のやっとることは“村を救う”もんじゃ。なら、わしも動かんとな」
そう言うと、おじいさんはずしり、と重たい袋を差し出した。
「ほれ。近隣の村から預かった“出資金”じゃ」
「えっ……!」
開けると、中には銅貨がぎっしり。
数えきれなくらいの量だった。
「じ、じいちゃん……これ全部……?」
「腰が痛いわい……。重かったぞ……ほんに……」
その言葉を聞いた瞬間――父がぶわっと涙をこぼした。
「な、なんでそこまで……! なんでうちみたいな小さな家のために……!」
「お前さんらが頑張っとるからじゃ。わしはそれを“信じただけ”よ」
父は前が見えないほど泣きじゃくった。
その姿を見て、私の胸にも熱いものがこみ上げてきた。
(……信じてくれていたんだ)
まだ仕組みは始まったばかり。
でも、誰かが見てくれていて、誰かが応援してくれていた。
「じいちゃん……ありがとう」
「ふぉっふぉ。礼など要らんわい。ただな、カイ坊……」
「うん?」
「“信頼というのはな、育てている間には気づかんもんじゃ”。“育ちきった時だけ、どどっと降ってくる”……覚えとけい」
その言葉を聞いた瞬間、胸がじんと熱くなって、私は思わず目をそらした。
(そんな言葉……ずるいじゃん……)
ほんの少し、涙がこぼれた。
―――
次の日、父と私は荷馬車にぎっしり詰め込んだ小瓶ポーションを積み、近隣の村へ向かった。
「これが……出資してくれた人への“リターン”ですね」
「うむ。みんなこれを楽しみにしておったぞい」
おじいさんもついてきてくれていた。
腰をさすりながらも、足取りはしっかりしている。
「カイ、お前が作った仕組みが……こうして村の外にまで届くとはなぁ……」
父はまた涙ぐんでいた。
「まだ始まったばかりだよ。でも……次もちゃんと回すよ。出資してくれたみんなのために」
「うむ。それでこそ“坊”じゃ」
青空の下を走る馬車は、いつもより軽かった。風の流れが、まるで未来へ押してくれているようだった。
こうして、カイたちは――初めて“村の外”へファンドの恩恵を届けに行くのだった。




