第17話:価値が見えるということは、救われるということ
ポーションを買い付けたその日の夕方。
私は父と冒険者三人組を連れて、薬師さんの店へ向かった。
「おう来たか。今日は薬草じゃなくて……ポーションか?」
「はい。評価をお願いします」
薬師さんは瓶を手に取り、光に透かして、香りを嗅いで、粘度を確かめ、慎重に口を結んだ。
「……ふむ。冒険者が作ったにしては、かなり出来がいいな」
「本当ですか!?」
青年がぱっと顔を輝かせたが――薬師さんは続けて、容赦のない評価を下した。
「ただし……市場の“上物”と比べると、やはり数段落ちるな」
青年とお姉さんの肩が同時に落ちた。
「そ、そんなにか……」
「やっぱりプロの薬師さんには敵わないのね……」
薬師さんは淡々と話す。
「品質に点数をつけるなら……六割くらいだな」
その数字を聞いた瞬間、冒険者三人の顔が真っ青になった。
「ろっ……六割……!」
「そ、それって……ほぼ価値ないんじゃ……」
「俺たち、ひょっとしてずっと無駄な努力を……?」
優しい薬師さんだが、評価基準は非常に厳しい。
だからこそ、信頼できる。
(さて……ここからが本題)
私は机の上に、銀貨を数枚置いた。
「では、この金額が今回の“評価額”です」
三人が覗き込んだ瞬間――
「「「は?」」」
呆れ声が三重に重なった。
「ちょ、待てよ……六割の品質で……こんなに!?」
「えっ、これ市場の半値より高いじゃない!」
「俺たち……今までいくらで売らされてたんだ……?」
そう、評価額は“市場価格より安い”が、冒険者が普段買い叩かれている額よりはるかに高い。
青年は震える声で言った。
「なぁ……カイ……俺たち、今までどれだけ損してたんだ……?」
「たぶん……想像以上に、です」
薬師さんが息をつき、ゆっくりと言葉を置いた。
「お前さんたち。市場は“弱い立場の者を安く扱う”もんだ。だがこいつは違う。ちゃんと手間も努力も価格に入れてくれる」
筋肉の男が、ぎゅっと拳を握った。
「……こんなに認められた気持ちになったの、初めてだ」
私は微笑んで言った。
「正当な手間賃を払っただけですよ。だって、冒険者さんの薬草は命がけで採ってきたものだから」
青年の目が潤んだように見えた。
―――
薬師さんは瓶を数秒見つめたあと、こう言った。
「カイ坊や。品質を揃えたいなら……俺に任せろ。このレベルなら混ぜて調整もできるし、基準値まで引き上げてやれる」
「お願いできますか?」
「当然だ。……腕の見せどころだな」
私はすかさず言った。
「腕のいい薬師さんに頼んでよかったです!」
「お、お前……そんなこと言っても何も出んぞ?」
薬師さんが照れたように笑い、冒険者たちが和んだ空気に包まれた。
でも私は続けた。
「……本当に、あなたを信じてよかった」
その瞬間、薬師さんの肩がわずかに揺れた。
「……そう言われると弱いなぁ」
薬師さんは深いため息をつき、優しく笑った。
「任せろ。村に“届かない回”を作らせはしない」
―――
青年がぼそりと呟いた。
「なぁ……今まで俺たちって……質が悪いって理由で、めちゃくちゃ安く買い叩かれてたんだな」
魔法使いのお姉さんが静かに続けた。
「でも……それをちゃんと評価してくれる人がいるって……嬉しいね」
筋肉の男は目を赤くしながら笑った。
「よし! もっといい薬草取ってくる! 次は七割……いや八割の品質目指すぞ!」
「うん。評価は厳しいけど、正しいですからね」
―――
帰り道、父がぽつりと言った。
「カイ……冒険者さんたち、ずいぶん嬉しそうだったな……」
「うん。“正しく扱われる”って、それだけで心が救われるからね」
「お前は……人の心まで商売にしてるみたいだな」
「それは違うよ。心が整えば、商売が楽になるだけ」
価値は、正直な場所にこそ集まる。
これはこの世界でも前世でも、変わらない真理だ。
(冒険者・薬師・村……三つがようやくひとつに繋がった)
私は空を見上げた。
「これで、次のファンドに進めるね」
父は苦笑して言った。
「カイ……お前、どこまでいくつもりなんだ……?」
「世界を救う……利回りで」
「やっぱりそこまで行くのか……」
父は肩を落としつつも、嬉しそうに笑っていた。




