第16話:価値は正しく支払う者のもとに集まる
冒険者たちとの薬草買い付け契約が始まって三日。
いつもの三人組――剣士の青年、魔法使いのお姉さん、筋肉の斧使いが、村の入り口に再び姿を見せた。
「坊や、今日は別のものを持ってきたぞ」
「別のもの?」
剣士が取り出したのは、小ぶりのポーション瓶だった。
赤い液体が琥珀色の光を反射して、思ったより透明度が高い。
「実はな……ダンジョンで拾った素材を使って、俺たちが作ったんだ」
「えっ、冒険者さんがポーションを?」
魔法使いのお姉さんが頷いた。
「薬草はそっちに売るようになったから、私たちも練習ついでに作り始めたの。品質はバラつくけど、売れれば助かるわ」
(……これは、思っていたより早い展開だ)
本来、ポーションは職人や薬師の仕事だが、冒険者が自作することもある。
そして今は薬草が高騰した影響で、加工品の価値が揺れている。
つまり――「冒険者の自作品」が市場に流れ始める時期だ。
(これ、利用しない手はないよね)
私はそっと頷いた。
「もしよければ、そのポーション……私たちに売ってくれませんか?」
「売っていいのか?」
「はい。でも――」
私は瓶を受け取り、光に透かして品質を確認した。
「品質は……村で使うには十分だと思います」
「お、おお……!」
「ただし、完璧ではないので“薬師さんの評価を通してから”になります」
青年は頷き、瓶を差し出した。
「じゃあ頼むよ。値段は……いくらくらいになる?」
ここが今日の“見せ場”だ。
私はゆっくりと言った。
「薬草代と手間賃を加えて……“市場価格よりは安く”、でも“普段使いよりは高く” します」
三人が顔を見合わせた。
「それって……俺たち得じゃないか?」
「うん。でも、冒険者さんの手間を正しく評価したいからね」
私は銀貨を数枚、彼らの手のひらに置いた。
「これが今日の買い取り価格です」
青年は見た瞬間、目を丸くした。
「こ、こんなに!? 本当に!?」
その声が大きかったせいか、近くにいた別の冒険者たちが振り向いた。
「おい、今なんか銀貨の音しなかったか?」
「子どもが買い取りやってるって噂……本当なのか?」
私はあえて、はっきり聞こえるように言った。
「はい。冒険者さんが作ったポーションでも、“価値に見合った金額” を払います」
周囲がざわつき始めた。
「まじか……」
「この村、買い取りあるのか?」
「薬草だけじゃなくてポーションも?」
青年は戸惑いながらも、嬉しそうに笑った。
「坊や……いや、カイ。お前はすごいよ。俺たちの作った物を、こんなに正しく扱ってくれるなんてな」
「価値を見逃さない人は、長く信用されますよ」
筋肉の斧使いが、どしんと地面に座り込んで豪快に笑った。
「はっはっは! こんな真面目な取引するガキ、初めて見た!」
「村で必要としてる分は必ず買います。足りなければ冒険者さんに頼るし、多ければ薬師さんに評価してもらいます」
私は振り返り、他の冒険者たちにも聞こえるように言った。
「もしポーションを作れる方がいれば、持ってきてください。品質は薬師さんの基準を通しますが――“価値があるものには必ず価値を払います”」
沈黙。
その直後、冒険者の一人がぽつりと言った。
「……この村、正直すぎて逆に信用できるな」
「子どもが仕切ってるのに、変にごまかさないのがいい」
「むしろ子どものほうが信用できるって噂……マジだったのか」
ちらほらと視線が集まり、少し恥ずかしいけれど悪い気はしない。
(よし……計画通り、興味を持ってもらえたみたい)
青年が改めて深く頭を下げた。
「カイ、ありがとう。俺たち……お前に売るのが、ちょっと誇らしいよ」
「こちらこそ、力を貸してくれてありがとう」
(これで、“冒険者の側の信頼” も一段階上がった)
薬草だけではなく、ポーションの供給源も確保できる。
しかも、冒険者の協力を得られれば――
“供給が途切れない村” の完成に一歩近づく。




