第14話:必要なのは全員が届く仕組み
生活支援ファンドの話が村に広まりはじめた頃だった。
「――そんな大げさな仕組みにする必要があるのかい?」
広場で説明していた私に、厳しい表情のおじさんが声を上げた。
普段は口数が少ないが、村の中では影響力がある人物だ。
「薬草もポーションも、一度高騰したらどうなるかわからん。ファンドなんて作ったら、逆に物が集まらなくなることだってあるんだぞ?」
周りの人たちも、不安そうにざわついた。
「確かに……最近の値段の動き、怖いしね……」
「ファンドのせいで余計に値段が跳ね上がるんじゃ……?」
心配する気持ちはわかる。
だからこそ、私は深く息を吸って答えた。
「大丈夫です。ちゃんと考えてあります」
おじさんの眉が上がる。
「今は薬草の値段が下がりはじめていて、代わりにポーションの需要が伸びています。でも、このままでは“手に入らない日”が必ず出ます」
「手に入らない日……?」
「はい。供給が減る時期がくるからです。だから私は――“届かない回を無くす仕組み” をつくります」
周囲の空気が、ぴたりと静かになった。
―――
「まず、薬草を持ってきた冒険者から直接買います」
「冒険者から……? お店を通さずにか?」
「はい。道具屋さんや薬師さんとの契約は守りますが、足りない分を冒険者から補うんです」
鍛冶屋のおじさんが頭をかいた。
「でもよ、冒険者が持ってくる薬草って質がバラバラだろ?」
「その通りです。だから――“最低ラインの品質” を決めます」
父が驚いたように目を丸くした。
「もしかして……俺が選別で弾いてた薬草の話か?」
「うん。あれは状態が良い薬草の“見本”になるからね」
父が売った中でも、特に状態の良かった薬草。
それを基準として示すことで、冒険者も納得しやすい。
「質が悪いものは買いません。ただし最低ラインを満たしていれば“手間賃” を含めて買います」
「手間賃……?」
「はい。冒険者にとってもメリットがないと続かないからね」
村の人たちが、少しだけ安心した顔になった。
―――
「でも、それでも質にばらつきは出るんじゃないのか?」
反対していたおじさんが、さらに問いを重ねてきた。
「その通りです。だから――薬師さんに依頼します」
「え、私に?」
薬師さんが目を丸くした。
「はい。薬師さんは目利きができます。冒険者が持ってきた薬草を、基準に照らし合わせて評価してもらうんです」
「ほほう……評価と値付けの役割か」
「はい。これで品質の偏りを減らせます。薬師さんも収入が安定しますし、私たちも安心して仕入れられます」
薬師さんは腕を組み、満足そうにうなずいた。
「……悪くない。むしろ健全だな。安すぎても高すぎても続かんからな」
―――
「つまりカイ、お前はこう言いたいのか?」
さっきまで反対していたおじさんが、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「“多少質が落ちても、その分量を増やせばいい” ……と」
「はい。それが“届かない回を無くす仕組み”です」
村の人たちが息を飲んだ。
「ポーションは、怪我をした時に必要です。必要な時に手に入らないことが、一番危ない」
「確かに……」
「だから私は、質より“到達率”を優先します。絶対に途切れない仕組みを作るために、冒険者の力も借りるんです」
反対していたおじさんはしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。
「……カイ、お前の頭の中はどうなってるんだ?」
「たぶん普通じゃないです」
村に笑いが広がった。
「だが……こんな仕組み、本当にまかり通るのか?」
それが今日一番の核心だった。
私は迷わず、はっきり答えた。
「はい。通ります。“みんなが必要としていて、みんなが得をする仕組み” は必ず通ります」
おじさんは目を細めた。
「……確かに理屈は通ってる。冒険者は売り先が増えて助かる、薬師は評価で収入が増える、村はポーションが途切れない……悪いとこがないな」
「はい。だから、まかり通ります」
しばしの沈黙ののち。
「……わかった。反対は取り下げるよ。カイ、お前は本当にやる気だろう。なら見届けさせてくれ」
その声に、村の人たちの表情が一気に明るくなった。
「カイが言うなら安心だな」
「なんだか頼もしいわねぇ」
「次の募集、いつだ?」
広場に暖かい風が吹いた気がした。
(よし……これで、次のステップに進める)
こうして、私の新しい挑戦――“ポーションが届かない回をなくす仕組み” が村の総意として動き始めた。




