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異世界投資ファンド〜剣も魔法も使えないので、利回りで世界を救います〜  作者:


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第10話:値段とは心と心を結ぶ糸

薬師さんの店の奥で、私と父は丸い机を囲んでいた。

机の上には薬草の束と帳簿、そして乾いた木の香り。

薬師さんは腕を組んで、こちらをじっと見ている。


「さて、固定の卸値だが……まずはお前さんたちの希望を聞こう」


「は、はいっ」


父が背筋を伸ばしたが、緊張で挙動がぎこちない。

代わりに、私は紙にまとめた内容を差し出した。


「この値段で三ヶ月。量はこのくらいでお願いします」


「ふむ……量は妥当だ。だが、値段は……ちと低いな」


「といっても、こちらも利益を確保しないと継続できませんからね」


「わかってる。しかし……」


薬師さんが言いかけたその時。


「すみません店主! やっぱり駄目でした!」


若い弟子らしき青年が店の奥から慌てて出てきた。

手には布袋。中身はほとんど空だ。


「どうしたんだ?」


「例の仕入れ先……もう誰かに買い占められてて、残ってませんでした!」


店の空気が一瞬で重くなる。


薬師さんは眉をひそめ、机に肘をついた。


「……仕入れ失敗か」


「す、すみません……!」


「いや、お前のせいじゃない。状況が悪いんだ」


父はごくりと喉を鳴らし、こちらを見てきた。

薬草の原価が高騰していた理由が、これで明確になった。


(やっぱり、買い占めが起きてる……)


このままでは薬師さんの商売も苦しくなるし、私たちの仕入れにも影響が出る。


そこで私は机に手を置いた。


「薬師さん。この状況だと、値段を上げれば確かにその時は楽になります。でも……長くは続きませんよ」


「どういう意味だ?」


「簡単に言うと――“値段ばかり上がっていく時期は、いずれ必ず終わる”ということです」


店内が静まる。


私は続けた。


「今は、薬草を欲しがる人が急に増えて、値段がぐんぐん上がってる。みんなが奪い合うからです。でも……その状態って、ずっと続かないんです」


「続かない……?」


「はい。理由は二つあります」


私は指を二本立てた。


「一つめ。高くなりすぎると、みんな買わなくなる」


冒険者の女性も、弟子の青年も、ゆっくり頷く。


「二つめ。値段が上がりきると、今度は逆に余るようになる時期が来ます。『買い占めていた人たちが手放す』から」


「手放す……?」


「高くて売れなくなったものを、安くして売るんです。そうすると、値段はがくんと下がる」


薬師さんは大きな目をさらに見開いた。


「つまり、今は“値段が上がりすぎる前の時期”で、そのあとには“下がる時期”も来るということか」


「そうです。“値段が上がる時期”と“下がる時期”は、必ずセットで来ます」


本当は“インフレとデフレ”だけれど、この世界にはまだ言葉がない。

だから、私は噛み砕いて伝えるしかない。


「だからこそ、“値段を固定してくれる相手”って、とても大切なんです。高くても安くても、買い続けてくれる相手。そうすれば薬師さんは安定します」


薬師さんは目を伏せ、しばらく黙っていた。

そして深いため息をついたあと、静かに言った。


「……なるほどな。確かに、値段を追いかけて右往左往していたら、商売にならん」


「私たちは、薬師さんを頼りにして商売しています。だから――お互いが安心して続けられる関係が必要なんです」


薬師さんの目が優しく細められた。


「三歳児に諭されるとは思わなかったが……お前さんの言うことは正しい。商売は、信頼があってこそ続くものだ」


「はい。だからこそ、固定の卸値をお願いしたいんです」


すると薬師さんは机に手を置き、父のほうを見た。


「父さん。お前さん、こんなすごい子を育てたんだな」


「いや、育てたというか……勝手に育ってるというか……」


父が苦笑する。


薬師さんはふっと息を吐き、頷いた。


「わかった。三ヶ月の固定契約――受けよう」


「本当ですか!?」


「ああ。ただし、量は相談しながらだ。こちらも仕入れに失敗することもある。だが……できる限り努力する」


「こちらも協力します!」


私は勢いよく答えた。


こうして――。


“値段は変わるが心は変わらない”そんな新しい商取引が始まった。

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