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沈黙の紙片 ~裏切り者のいる教室〜  作者: マリブン
Season1

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27/33

影の同盟

「止まれよ、会長。」


暗闇の中から、6つの影が歩みよる。

矢口、川崎、早川、Cocona、Reico。

そして最後に立っていたのは、弟・瞬。

街灯の淡い光に照らされ、全員の視線が義一に突き刺さる。


義一は一瞬、息を止めた。


「なんでここに?」


「兄弟なんだ。行きそうなところくらい検討つくよ。」


瞬が肩をいからせて前に出る。


「てか、さ。その泥靴なに?」


義一は視線を落とす。

乾ききらない泥が、白いソールを汚していた。


Coconaがわざとらしく鼻をすする。


「うっわ、ガチで土臭。新品のスニーカー台無しじゃん。」


Reicoは爪をいじりながら、笑みを消した。


「病み上がりなのに、なにしてたの?」


義一は唇を噛む。

答えないこと自体が答えになっていた。


瞬が一歩前に出る。

兄の目をまっすぐ見て、兄のポケットに手をやった。


「兄貴。これナイフか?もしかしてあいつを?」


沈黙。

義一の肩がわずかに震えた。


「これは僕を刺したナイフ。あの人の仕込みだ。証拠でもあり、囮でもある。だから...」


「だから一人で決着つけるつもりだったんだろ?」


瞬の声が鋭く切り込む。


義一は思わず弟を睨む。

だが、その瞳に浮かんでいるのは責めでも軽蔑でもなく、ただ必死な訴えだった。


「兄貴…俺を守るためだって言うのは分かってる。電話をあの病棟で聞いたんだ。でも、一人で突っ込んだら絶対に潰される。あいつは、そんな浅い相手じゃない。」


矢口が腕を組み、苛立たしげに割り込む。


「おーい、家庭の喧嘩やってんじゃねーよ。大事なのはそこじゃねーだろ。会長もあいつの声に操作させてたんだろ?」


義一の眉がわずかに動いた。


「ああ。電話で、何度も。夜中に呼び出されて、命令を聞かされた。あの声を忘れるもんか。中川有一郎。あいつなのは瞬も俺も初めから知ってる。」


川崎が舌打ちし、スマホを閉じる。


「その話には少しズレがあってね。ちょっとその事で俺達は会長と3年2組とその他に話したいことがあってここまで来たってわけ。」


早川は煙草をふかした。


「君!タバコはだめだ!」


「うっざ。」


早川はタバコを足で消した。


「俺達のやることは1つ。俺ら全員でありがとうに潜って、確かめる。」


Coconaは腕を組み、わざと明るい声を出す。


「えー、ガチ潜入?マジ探偵ごっこ継続。映え狙える〜。」


Reicoがすかさず肘で小突く。


「こはこら、これは遊びじゃないぞ。」


義一は彼らの会話を黙って聞いていた。

内心では渦が巻いている。


「兄貴。」


瞬の声で思考が引き戻される。


「俺がいるだろ。もう一人で抱え込まないてま欲しい。もう何もかも話す時が来たんだ。だから一緒に行こう。」


義一の喉が詰まる。

瞬の眼差しは幼い日の記憶を呼び起こす。

空腹に泣く弟に、盗んだチョコを握らせた夜。

「甘い!」と笑ったあの顔。

守り続けるはずだった弟が、今は自分を引き戻そうとしている。


「僕は…。」


言葉が途切れる。


矢口が苛立たしげに吐き捨てる。


「いい加減にしろよ、会長。一人で終わらせようとしたって、結局は影の筋書きに乗っかるだけじゃね?俺らはそこまでバカじゃねー。声も聞いたし、証拠も見てきた。ここで会長まで潰されたら、ほんとに終わりだぞ。」


川崎も続ける。


「だりぃけどさ。やるなら全員でやんだよ。俺ら、そういうチームだからさ。会長もこの輪に入ってくれよ。」


早川が冷たい声を落とす。


「信じなくていい。けど足並みは揃えてほしい。バラバラじゃ勝てねーからさ。」


Coconaが両手を広げて笑った。


「ほらほら〜。1人ヒーローごっこは終わり!ウチら総出の方が絶対エモいって。」


Reicoも肩をすくめて付け加える。


「どうせ行き着く先は同じじゃん。なら最初から一緒に動いた方が早くね?」


義一は俯き、両手を震わせた。


(俺は間違ってたのか?弟を守るつもりで、一人で背負おうとして、逆に全部を壊すところだったのかもしれない?)


沈黙の中で、瞬がもう一度だけ言った。


「兄貴、今度は俺が隣にいる。だから、一緒に行こう。」


義一はゆっくりと息を吐き、顔を上げた。


「わかった。」


その一言に、全員の肩がわずかに緩んだ。


矢口がにやりと笑う。

「よっしゃ。決まりだな。」


Coconaが両手を合わせて囁く。


「青春廃人コース再突入〜。でもエモすぎて泣けるんだけどw」


Reicoが呆れた声で突っ込む。


「空気ぶち壊すなっての。」


川崎はポケットに手を突っ込み、鼻を鳴らした。


「しゃーねぇなー。総力戦だ。」


早川は火をつけていない煙草を咥え直し、ぼそりと呟く。


「ありがとう、だな。あそこに全部の答えがある。」


「タバコはやめろって言ったよね?癖になってない?」


義和は早川からタバコを口から取り遠くへ投げる7


「早川いい加減にしろ。」と瞬。


「あーあ、タバコもったないな!」


―――


七人は歩き出した。

街灯の下に連なる影は、どこか不揃いで、それでも確かにひとつの線を描いていた。


商店街の端、暖簾に「ありがとう」と染め抜かれた白い布が、夜風に揺れている。

油と出汁の匂いが路地まで漂い、冷え切った空気の中でひときわ温かく感じられた。


義一は立ち止まり、暖簾を見上げる。

胸の奥で、かすかなざらつきがまだ残っている。

だが隣には弟がいて、その後ろにはSLAYがいた。


「行こう。」


その声に、全員が頷いた。

戸を押すと、店内のざわめきと湯気が一気に流れ込んできた。


「いらっしゃいませー!」


元気な声が響く。

しかし、その声の主は違うバイトの声、中川有一郎の姿は見えない。

出前に出ていて不在か休み。

その奥の小上がりには、すでに3年2組達と沙織が座っているのが見える。


ここから、真実をぶつけ合う時間が始まろうとしている。


―――


ありがとうの中には既に3年2組の4人が座って、オーダーをしている。

周りを見渡した沙織が奈良達に気づく。


「あ、会長。帰ったんじゃ?」


「いや、弟が見つかって、さ。ここで飯を食おうって言われたんだよ。」


その時、南條が気をきかせる。


「いらっしゃい。今日は大人数なんだな。2階の宴会席つかっていいぞ。おい、湯浅。案内してやれ。」


「は、はい。どうぞ、こちらへ。」


「見ない顔ですね。新人さん?」


鈴木寛人が気をきかせる。


「そうなんです。よろしくお願いします。あっ、こちらです。」


「ありがとう。」


「メニューは決まりましたら、そのボタンを押してくださいね。」


広々とした宴会席。

30人は座れる座席。


Coconaが不満そうな顔をしてる。


「えー。靴脱ぐの?マジだるい。」


Reicoが被せる。


「足臭い人いないよねー。」


義一が皆をまとめるように声を出す。


「じゃあ、広いみたいだしテーブルを動かして会議室のようにコの字にしないか?」


瞬がフォローする。


「そうだね。その方がみんなの顔が見えるし、話しやすいしお互いの顔みて話せるし。」


そしてそれぞれテーブルを配置し、着席する。


「まずは、飲み物とか注文しようか?」


鈴木が気をきかす。

かぶせるように藤田玲奈が声を出した。


「お腹すいてる人は頼んでね。割り勘だけどw」


吉田直樹が先輩風をふかす。


「あとから先生達来るから、奢ってくれんだろw食べたもん勝ちだぞ〜。」


矢口が嬉しそうに言う。


「やったねー。それなら俺生姜焼き定食〜。」


川崎は続いてノリノリに話す。


「俺、オムライスがいいなぁ〜。」


早川は落ち着いた感じで注文する。


「俺はバニラとチョコミントのアイスにするわ。」


Coconaはつかさず突っ込む。


「可愛いオーダーで草〜。」


Reicoもそれにのる。


「いいな〜。私もアイスがいい〜。」


そしてそれぞれがオーダーを済まし飲み物が運ばれる。


本題を切り出したのは三浦沙織。


「会長。あれから何か困ったこととかある?とても心配で。具合は良くなったの??マスコミの事も心配してるよ。」


義一は気を使わせないように話す。


「大丈夫。ありがとう。みんなにこれだけは伝えたい。僕は嘘をついていた。そして僕の嘘で原口先生が亡くなってしまった。そしてみんなにも混乱を招くような形になった。本当にごめん。本当に後悔してるんだ。」


村上啓太が言いずらそうに口を挟む。


「会長。その事は一生をかけて忘れないことが大事なことは会長がよく知ってると思うから俺達は何も言わない。だけど、もう1つの疑問があるのは分かるよね?それは、ななみのこと。答えて貰えないかな?」


義一は少しの沈黙を持って話し出す。


「もうみんなを困らせたくないから、正直にみんなの前では話したいと思う。これはここだけの話にして欲しいんだ。実は...」


瞬が遮る。


「兄貴、それは...」


義一がさらに割って入る。


「いいんだ瞬!言わせてくれ!じ...実は僕を刺したのは...。中川有一郎...なんだ。」


「ええ!!」


全員が驚く。


「きいてねーよ!瞬!」


矢口が気まずそうに話す。


「今兄貴が話そうとしてる。聞いてくれ!」


瞬が遮る。


「ありがとう。僕と瞬は幼い頃から中川と共に暮らしていた時期があるんだ。母親に虐待されてた。食う飯もなかった。そして万引きを覚えて弟に食わせてたんだ。」


一同がしづまりかえる。


「母は男を変える度、そいつらと一緒に俺達を殴った。何度も何度も。その時に中川が現れたんだ。俺達を救ってくれた。俺達はあいつがいなければ生きて来れなかったかもしれない。そしてこんな進学校に通えなかった。悔しいけど、あいつは俺達の命の恩人なんだ。」


辛そうな兄の代わりに瞬が話す。


「そんな俺達は光と影に分類された。俺は影として兄に恩義を感じて支えてきた。兄は光の道を歩いた。それもあいつの提案だったんだ。それでも俺達はその時までは幸せだったんだ。」


義一が続ける。


「ある日、中川からそれぞれの過去のことを持ち出して脅しにかけてきた。そして僕たちは振り回された。」


瞬がいい辛そうに話す。


「そうなんです。それで、過去の張り紙はほとんどが俺がやりました。本当にごめんなさい。」


Coconaが割り込む。


「ちょっとー!ぬけがけやめてよー!」


Reicoも続く。


「そーだよ!私たちも協力したじゃん!1人でかぶんなし。」


他の3年2組達はそうじゃなかった。

怒りが込み上げてくる。

今までの数々の混乱させられてきた貼り紙を貼った本人達がここにいる。


「ふざけんな!!」


藤田玲奈が叫んだ。


「お前たちの遊び半分で俺達を苦しめて、さぞ楽しかったか?」


鈴木が冷静を保つ。


「あなた達がきっかけで、ななみは死んだかもしれないって思わないの?よくそんな軽いノリで話せるね?」


沙織が信じられない態度で睨む。


「で?なんでそれを俺たちに話した?俺達に協力かなにか求めようとしてるのか?冗談じゃねーよ!」


啓太がテーブルを叩く。


「みんな!落ち着いて欲しい。瞬!お前その話は本当なのか?本当ならお前は、ななみを殺したのと同じだぞ。」


義一は瞬と仲間達を一括する。


「兄貴...。」


義一は続ける。


「僕達兄弟はとんでもないことを仕出かしてしまった。本当に申し訳ない。ごめん...。」


瞬も続く。


「俺達も仕方なったんだ。兄貴を社会的に抹殺するとか、殺すとか散々脅されたんです。仲間達はみかねて手伝ってくれただけです。全ては俺の責任なんです。本当にごめんなさい。」


宴会席の空気はまだ荒れていた。

沙織の怒号が響き、玲奈も睨みつけたまま拳を震わせている。

義一も瞬も言葉を返せず、CoconaとReicoはふてぶてしく肩を揺らして笑っていた。


その時、鈴木寛人が立ち上がった。


「みんな、ちょっと落ち着けよ。」


低い声に、自然と視線が集まる。


「確かに俺達は、張り紙で何度も傷つけられた。教室に入るのが怖い日もあったし、ナナミの件だって頭から離れない。でもな、それを乗り越えてきたのは俺達だ。」


玲奈が食い下がるように叫ぶ。


「でも!こいつらは遊び半分で!」


鈴木は首を振った。


「遊び半分? そうかもな、ふざけたノリでやってたんだろうよ。でも俺らはもう知ってるはずだ。相手の気持ちになって考えなきゃ、同じことを繰り返すって。」


沈黙。


沙織が息を呑む。


「私達、正しいと思って責めてた。でもそれが相手を追い詰めてたのかもしれない。」


鈴木はその言葉に頷き、さらに続ける。


「だから俺達は、もう一段上に行かなきゃないんだよ。会長も瞬も、その仲間も。これから一緒にやってくなら、想像力を持てよ。俺達は痛みを知ってる。だからこそ、誰かを傷つけない道を選べるはずだ。」


その言葉に、義一が顔を上げる。


「鈴木君、ありがとう。俺は間違ってた。けど、やり直したい。みんなと一緒に。」


瞬が力強くかぶせる。


「兄貴も、俺も。今度は逃げない。俺達は光でも影でもなく、ただ生きてる人間なんだ!」


矢口が舌打ちしながらもニヤリと笑う。


「チッ。クサいこと言いやがって。けど、悪くねえな。そういうノリ、嫌いじゃねえ。」


Coconaがスマホを掲げてふざける。


「青春名言集〜!録画しとけばよかったわw」


Reicoが苦笑いで突っ込む。


「マジで空気壊すなっての。でも、確かに、ちょっと響いたかも。」


川崎も腕を組み直す。


「だりぃけどさ。確かに想像力ってやつ、大事かもな。」


早川は煙草を指で転がしながら、ぼそっと呟く。


「信じるとか疑うとかより、相手の立場を想像する。それが一番きついけど、結局一番必要なんだよな。」


宴会席の空気が、確かに変わり始めていた。

張り紙で傷ついた経験が、逆にみんなを一つにする力に変わっていく。


拍手が扉から鳴る。

高岩と駒沢だ。


「それでこそ、俺の生徒だ。」


「私達も参戦していいかな?」


駒沢が言ったあと2人は中央に座る。


「教師というものは、君達が思うよりも生徒を見てるもんなんだ。瞬君、君達はかなり色々、調べてんじゃないかとおもうんだが?どうかな?」


「え?見てたんですか?...はい。俺達はとっくに3年2組の人達が調べあげたことを全て探り、知った上で、さらに調べを進めたんです。」


2階の宴会席は、畳の匂いと生徒達の熱気でむせ返るようだった。


「まずは順に話を聞かせて欲しい。先生が仕切るからな。駒沢先生は記録を頼みます。」


高岩の声に、生徒達がざわつきを収めた。


駒沢は髪を耳にかけ、ノートを開く。


「はい。順序立てて整理しましょう。感情論はあとにしようね。」


その一言に、SLAYの面々も渋々うなずく。

矢口が腕を組み、川崎が足を投げ出し、早川は煙草を咥えて火をつけずに転がした。

CoconaとReicoは視線を交わし、肩をすくめて「マジ緊張感」と囁き合う。


「中川くん!それ次やったら停学にするからね!もうすぐ学年は終わるの!我慢しなさい!」と駒沢。


「はい...。」 早川が落ち込む。


高岩が瞬に視線を向ける。


「では、最初に見たことを話してもらえるかな。瞬君。」


瞬は喉を鳴らし、拳を握った。


「俺達はある地下に集まって、張り紙と噂の件を整理してました。そのとき俺は、ありがとうの中川のことを仲間に話しました。さきほど兄が話した通り、中川らとは共に暮らした事実。そして俺と兄に対して、別々におどしをかけてきた事実。俺達は既に犯人は知ってたんです。知ってたのに放置してた。」


ざわめき。

矢口が鼻で笑う。


「最初は冗談だと思った。けど潜るしかねーって結論になったんよ。」


「まあそんなこと。」


川崎が舌打ちする。


「動かねぇと何も変わんねぇから。」


瞬は息をつき、続けた。


「俺が怖かったのは、ありがとうで中川が俺をまったく知らないフリをしたことです。小さい頃から何度も顔を合わせてるのに、まるで初対面みたいに振る舞われた。あれが演技なら、完璧すぎる。」


駒沢がすぐにメモを走らせる。


「キーワード:声、記憶のそご、演技性。」


高岩が頷き、促す。


「次、なにかアクションを起こしたの?」


瞬は苦い顔で続ける。


「徹底的に中川を、寝る間も惜しんでマークしました。中川が店を出てから俺達は尾行したんです。スナックや駄菓子屋、コンビニなどで。でも中川は、疑うところなんて何も無く、それどころかどこでも人気者扱いをされていました。ひとつ疑問があるとすれば、中川の目撃証言が食い違うんです。行きそうな場所を当った時『昨日もいた』と言う人と、『昨日はいなかった』と言う人が同時にいたというのかミソです。」


川崎が吐き捨てるように言う。


「証拠も何も無かった俺達はある日、策をうったんだ。」


「それで俺達は...」


瞬は言いにくそうに顔を伏せた。


「中川の部屋に忍び込んだんです。そしてあるアルバムを見つけだしたんです。」


駒沢の眉がぴくりと動く。


「違法性は理解していたのね?」


瞬は頷く。


「はい、でも、そのアルバムに写っていたのは、笑顔の中川有一郎と、冷たい目の中川有一郎。2人の中川だったんです。」


ざわめきが大きくなり、3年2組の生徒達が騒然となる。


「ふざけてる!」


玲奈が叫ぶ。


「そんな話、信じられるわけない!」


沙織も声を上げた。


高岩が片手を挙げる。


「落ちつきなさい。正論は正義じゃない。今は否定じゃなく、事実を重ねなさい。」


駒沢は冷静に言葉を添える。


「証拠が曖昧でも、矛盾を説明できる仮説は大切です。」


瞬は続けた。


「そして、ついにつきとめたキーマンがいました。中川と常に一緒にいる人物。鍵になったのは女性です。駄菓子屋のお婆ちゃんが名前を覚えていました。望月三二一、通称ミニー。」


「でたー。ディズニー!」


Coconaが吹き出した。

Reicoが肘で突く。


「場違いなこと言わないの。」


瞬は続けた。


「俺達は約束こぎつけてファミレスで会ってきました。その時に驚くべきことをミニーは言ったんです。『有一郎は三つ子だ』って。名前は有一郎、有二郎、有三郎。」


沈黙が落ちた。

駒沢の手が止まる。


「三つ子…。」


高岩は深く息を吐き、生徒達を見渡した。


「真偽はこれから確かめる。だが複数の存在を前提にすれば、矛盾は説明できる。ここからどう動くかだ。」


矢口が唇を噛み、拳を握る。


「探すしかねー。もう後戻りはねー。」


川崎が肩をすくめる。


「だりぃけど、腹は括る。」


早川は呟く。


「足並みが揃わなきゃ負けるとおもう。覚えといて欲しい。」


Coconaは大げさにため息をついた。


「青春廃人ルート再確定〜。でも今回はマジでエモい。」


Reicoも微笑む。


「そうね。軽さじゃなく覚悟で行く。」


高岩は静かに締めくくった。


「総力戦だ。3年2組も、SLAYも、沙織も。全員で行くぞ。」


頷きが連鎖し、重い空気がひとつに収束した。

その中心で、駒沢はノートを閉じ、真剣な目で生徒達を見つめていた。


宴会席のざわめきがひと段落した頃、厨房から南條が顔をのぞかせた。

鍋を振るう手を止め、油の匂いをまとった声で言う。


「お前ら、真剣な顔して何の話だ。有一郎のことか?」


瞬が息を呑む。

高岩が席を立ち、深々と頭を下げた。


「すみません、南條さん。少し、彼について伺いたいことがあるんです。」


「ふん。」


南條はタオルで額を拭い、ゆっくり言葉を継いだ。


「あいつは昔から天然だ。お調子者で、ドジばっかり。けどな、悪いやつじゃねぇ。ただ、女関係にはうるさい。俺も何度も注意してんだが、懲りねぇんだ。」


場がざわつく。

Coconaが小声で「やっぱり女絡み…?」と呟き、Reicoが肘で突く。


沙織が真剣な顔で問いかけた。


「南條さん、その女関係って、具体的には?」


「詳しくは知らん。ただ、夜に姿を消すことがある。出前にかこつけてな。」


南條の目が鋭く光る。


「俺は店の看板背負ってる身だ。余計な疑いをかけられたら困る。だから何度も釘を刺したんだが。

どうにも天然で押し通すんだよ。」


瞬の背筋が冷たくなった。

あの時の、作り物めいた笑顔が頭をよぎる。


高岩がうなずき、声を低くする。


「つまり、天然は盾だ。本人の仮面かもしれないし、あるいは…。」


駒沢がノートに走り書きをしながら続けた。


「もう一人がいるなら、盾にするには最適の仮面ですね。」


矢口が拳を握りしめる。


「南條親父がここまで言うなら、やっぱ黒だろ。」


川崎が鼻を鳴らす。


「繋がったな。女ともう一人。」


早川は呟く。


「仮面の下を剥がすには、女が鍵ってことだ。」


南條は鍋を再び握り直し、肩をすくめた。


「ま、俺にできるのはここまでだ。飯は冷める前に食えよ。」


厨房へ戻る背中を見送りながら、宴会席の空気がさらに重くなる。

高岩が口を開いた。


「今の話を踏まえて整理する。出前の隙、女の影、そして天然の仮面。全部を重ね合わせれば、確かに一本の線になる。」


駒沢がノートを閉じ、真剣な眼差しを向ける。


「次にすべきは、女、望月三二一さんとの接触ですね。」


瞬は深くうなずいた。


「あの人を追えば、真実に近づける。」


宴会席のざわめきはもうなかった。

全員の視線が同じ一点を見据えていた。

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N2715KW
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