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迷いの音が鳴るとき

作者: ごはん

空が深く静まる夕暮れ時、レイは小さな丘の上に立っていた。遠く街の灯りがにじみはじめ、耳をすませば、木々が風に揺れる音や鳥の帰る羽ばたきが聞こえる。そのすべての音に、自分の心のざわめきが溶け込んでいくようだった。


最近のレイは、何を選んでも正解が見えず、足元が定まらない日々を過ごしていた。「こっちでいいのか」「あの人はどう思っただろうか」そんな思いが、胸の奥で繰り返し響いていた。


それはまるで、音階がずれたピアノのように、自分の中で不協和音となって鳴り続ける。でもあるとき、音楽が好きな友人ミナにぽつりと「最近、自分の中の音がぐちゃぐちゃなんだ」と漏らしたことがあった。


ミナは、少し考えてから言った。


「それって、自分の“位置”を測ってる音かもね」


「位置?」


「うん。迷うときって、心が“今ここ”にいる自分と、どこかに向かおうとする自分との距離を測ってるんだと思う。音がずれるのは、その間に揺れてるってこと。だから、その音も大事なんだよ」


その言葉は、レイの中に、そっと落ちた。

迷いの音は、間違いの証じゃない。自分がどこにいて、どこへ行きたいのかを確かめようとする、心の“エコーロケーション”のようなもの。迷いがあるからこそ、自分の位置がわかる――それは、知らなかった風景を照らす光のようでもあった。


レイは、丘を下りながらふと笑った。

迷いの音もまた、自分だけの大切な音。

そう思えたとき、あの不協和音は少しだけ、優しく響いているように感じられた。

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