1.クラフトと橋軍
初めて描いた小説です。ちょっとづつ上達していこうと思ひます。
旧仮名は間違ってゐることが多いと思ふけど、そんなに責めないでね。
私の名前はクラフトと云ふ。母親が故郷にある有名な建築からとったらしい。
その地方の特産品である黒いオークの木で造られた中期貴族風の屋敷は、一応国の文化財に登録されてゐるらしい。
幼い頃から見てきた私にとっては何も特別なことはない。むしろ雨曇ってゐる地元の空と合わさってある種不気味な雰囲気を帯びてゐた記憶がある。
私が王立橋軍を目指したのは強くなりたかったからだ。
かうやって書くとまるで何か壮大な過去があるやうに聞こへると想ふかもしれないが、別にそんなこともない。
ただ単純に家で家族に威張り散らかしてゐる父親や、黒い噂の絶へない司祭やいつも眠たさうな顔をして碌な仕事をしない教師たちが尊敬されてゐるのはただひたすらに力によるものだと想ったからだ。
莫迦にしたやうな云い方をするのは、私が彼らを見下してゐるからだらう。
王立橋軍は陸橋に位置する王都レアルプエルテを守ために市民からの志願で構成される軍である。地方州軍は行政が所有し指揮するのに対し、橋軍は国王の名に於いて、国王が責任を負ふ、国王の軍隊である。昔からの方針で橋軍には国土全体から若く才のある志願者を試験し入団させる。そのため地方軍よりも規模は小さいもののその質に於いて比べるものはない。また橋軍はトプルフェルが都市国家であった時代に成立した歴史のある軍隊であるので、ここに属することは大変な名誉であるとされてゐる。
橋軍に入るのに必要なものはシンプルだった。健康な肉体、それに知性と品性だ。家柄は関係ない。卑しい身分でさへなければ。
目指してからははシンプルだった。よく食べて、家業を手伝ひ鍛へる。幾つかの言語と算術、芸術を学んだ。品性については何をすれば良いのか分からなかったので取り敢へず一人称を変へた。
続けるうちに地元の保守的な大人たちに対しての反発心は忘れた。
日々は風のやうに過ぎて行った。
日々は過ぎて、18の時に行われた試験の日。
幾つかの試験のうちに一対一の自由組み手、ベアナックルで行われる、シンプルな殴り合ひ。相手は私よりも少し背の高い南方出身の男だった。
試験官が合図をして始まる。
顎を守るやうに両腕をあげてステップ。
向こうから右のフックが飛んできた。
あ、まずい。然う思った時には地面に腰をついてゐた。
痛い。一人の男が本気で振るった拳はこんなにも痛いのか。
「立てるか?」
教官の男が私に話しかけてくる。
大丈夫まだ立てる。
試合が再開する。さっきの何倍も殺意を込めて、相手を睨みつける。心臓が血液を身体中に回す。
落ち着いたステップ。
軽いジャブから先ほどと同じやうに相手の右の拳が飛んでくる。
今度はやり返す。
左手で拳を受ける。腕が折れるやうな鈍い痛みが心地良い。
そのまま空いた右腕を全力で相手の鼻に向かって振るふ。
自分の拳に圧力が掛かる感覚。相手の鼻のやはらかい感覚。
純粋な力。物理的な衝撃が心の底まで響ひて気持ち良かった。
頑張って書きました。読んでいただきありがたうございます。