あなたが死ぬところを見てみたい
「あなたの余命があと半年だって聞いたんだけど本当? もし本当だったら、残りの半年を一緒に過ごして、あなたが死ぬところを見させてくれない?」
ある日の放課後。一度も話したことがない小竹未穂という女子が話しかけてきた。
「残りの短い時間を懸命に生きる姿って美しいでしょ? そういうのをぜひ間近で見てみたいの」
僕の気持ちなんて無視した身勝手な理由に僕は呆れしか感じなかった。だけど、可哀想とか薄っぺらい同情をしてくる人よりかは、自分の気持ちに正直な彼女に僕は少しだけ心惹かれた。別に拒否する理由もないので、僕は彼女が残りの半年を一緒に過ごすことを承諾した。
それから僕と小竹さんは一緒に行動するようになった。彼女が一度もできないまま死ぬんだろうなと思っていた僕にとって、経緯はどうあれ女の子と一緒にどこかに行ったり、おしゃべりをするというのは新鮮で、楽しかった。
小竹さんは無欲で無気力な自分とは真逆の性格だった。掴めない性格ではあったけれど、自分にはどこまでも正直だったし、実は優しい一面もあって、そこのギャップにたまにドキッとしたりした。
僕たちは遊園地に行ったり、散りかけの桜を見に行ったり、恋人のような時間を過ごした。そして、短くも濃い時間を過ごすうちに、気が付けば僕は小竹さんのことが好きになっていた。彼女と出会う前は、毎日がつまらなく感じていたし、死ぬことに未練はなかった。だけど、小竹さんのことを好きになればなるほど、僕はもっと彼女と一緒にいたいと思ったし、死にたくないという気持ちが少しずつ大きくなっていくのがわかった。
僕がその気持ちを打ち明けるたび、小竹さんは優しく僕を抱きしめ、慰めてくれた。この残り短い時間で死を受け入れ、生きる喜びを見つけることが今の僕にできることなんだと、小竹さんは教えてくれた。
僕は心を改め、残りの短い時間を懸命に生きようとした。せめて小竹さんの中に、僕が生きた証を少しでも残したかったから。
「ひょっとしたら君の病気が治るかもしれない」
死期が近づいてきたある日。主治医から僕は突然告げられる。なんでもつい最近になって僕の病気の治療法が見つかったらしく、僕をその治験対象にすることができるかもしれないということだった。
死を受け入れようとしていた僕はその可能性を初めは理解できなかった。でも、すぐに意味を理解し、僕は診察終わりにすぐさま小竹さんに連絡した。
病院は隣町だったけれど、小竹さんはすぐに僕に会いに来てくれた。僕は小竹さんと駅のホームで待ち合わせた。ホームのベンチに腰掛け、僕は小竹さんに治験のことを説明した。成功するかはわからないし、ひょっとしたら手術が失敗して死ぬかもしれない。僕のたどたどしい話を小竹さんは真剣に聞いてくれているようだった。
「手術はもちろん怖いよ。でも、受けてみようと思うんだ。小竹さんともっと一緒にいたいから」
僕たちが乗る電車がやってくるアナウンスが流れる。僕たちは立ち上がり、乗車口まで歩いて行く。
「一つだけいいかしら?」
小竹さんが僕に囁くように尋ねてくる。何? 僕の問いかけに小竹さんが僕の目を見つめながら言った。
「あなたが死ぬところを見るために一緒にいたんだから、約束は守ってよ」
小竹さんの言葉を理解するのと、身体を誰かに強く押される衝撃を感じるのは同時だった。僕はバランスを崩し、線路側に倒れこんでいく。電車が駅に入ってくる音とともに、周りの全てがスローモーションになって行く。僕は小竹さんを見た。小竹さんの両手は僕の方に大きく突き出されていて、その顔には今まで一度も見たことのない笑顔が浮かんでいた。
僕はその表情を見ながら、小竹さんの笑う姿は可愛いなと思った。そして耳をつんざくような電車の警笛を聴きながら、元々何の意味もなかった人生だったんだから、最後にこうして好きな子を喜ばせることができたのは良かったのかもしれないとも、思うのだった。