21
♪
私は両腕で体を抱いて静止する。
ビゼーのカルメンが流れ出す。
運動会などでは定番の、誰もは一度は聞くメロディで有名だが、その楽しげな曲調は長いカルメンの一部でしかない。
伍長ドン・ホセは、カルメン護送する途中、その誘惑に負けて彼女を逃がしてしまう。
スローパート。
軽い振り付けをこなしてから、そのままストローク。
大技を前にして、胸を潰してしまいそうなほどの緊張感が襲う。だが、それを何とか封じ込めて。
左片足の長い助走から、フリーレッグのトウを氷に突き刺して──三回転ルッツ。さらに、三回転トウループ!
決まった!
その瞬間に、重圧から開放されて、私の気持ちと滑りは軽やかになる。
今のは三回転ルッツ‐三回転トウの得点は、おそらく智花の失敗した三回転アクセル‐二回転トウの倍以上。
もう怖いものは無い。
ステップからの三回転フリップは難なく成功。
カルメンに魅せられたドン・ホセは、婚約者を振り切って、カルメンに会いに行く。
けれど、カルメンはドン・ホセに興味など抱いていなかった。
レイバックスピン、スパイラルシークエンス、デスドロップ、そして二回転アクセルと続けてこなし、曲は終盤に入る。
ドン・ホセはカルメンに復縁を迫る。しなければ殺すと。
駆け抜けるように、けれど細かいステップを刻みながらのストレートラインステップシークエンス。
今シーズン力を入れた技の一つだ。
その疾走感は会場を、そして私自身を沸き立たせてる。
勢いのまま、お馴染みのメロディに乗せてチェンジフットコンビネーションスピン。
抵抗を受けやすく、どうしても回転が遅くなりがちなキャメルやシットスピンで、私は他の選手のスタンドスピン並の速度を出せる。
それを会場とジャッジにアピールして、最後にスタンドスピンに移行。A字スピンから、足を上げてI字スピン。そして最後はスクラッチスピンで超高速で回転して──
復縁を断るカルメンを短剣で刺し殺すドン・ホセ。そうしてこの物語は終わりを告げる──。




