表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

一話 宣言


 「皆を証人としここに宣言する。ルティアナ•ラン•クライシオネ嬢との婚約を解消し、新たにフローレンシア•ミレア•タリスマルク嬢と婚約を結ぶ」

ガルーア帝国の第一皇子ジオスタイン•マルク•エルニクルは王宮で開かれた宴に集った人々の前で言った。

他国に長期赴任し国益のため尽力した伯爵の無事の帰国を祝うため宴。

ジオスタインの役目は出席者の前で伯爵へ言祝ぎを告げること。なのに、婚約破棄をし新たな婚約を結ぶと宣言した。新たな婚約者はこの宴の主役タリスマルク伯爵の娘となれば、貴族たちの驚くこは当然だろう。

その宣言を聞いて、一人の少女がふらつき倒れかけ、側にいた兄がそれを支えた。

「殿下、それはいったいどういうことでしょうか」

タリスマルク伯爵は困惑しながらも問う、

「伯爵を驚かせてしまったな。私と貴方の娘、フローレンシアは将来を誓ったのだ。彼女を心から愛している。どうか彼女との結婚を許してほしい」

ジオスタインはそう言った。自信にみちた堂々とした態度だ。

「しかし、いきなり婚約などと申されても」

益々顔色が悪くなる娘を見つめながら言葉を繋ぐ。

貴族同士の婚姻は家と家との契約で、当人同士の思いなど二の次だ。貴族家に生まれた者の宿命であり役割だと理解している。だが、それでも。心のありようは理屈抜きであることも同時に知っていた。

「彼女とは学院で知り合い、愛を育んだ。心配するな。皇后陛下も後押ししてくださっている。フローレンシアのことをとても気に入っていらっしゃるのだからな」

皇后の後押しとなると彼女の生家、ルディオ公爵家が付いているのだろう。背後には次の公爵である伯父が控えている(現ルディオ公爵は皇子の祖父)。

ジオスタインは皇帝の唯一の男子であり、母親の実家は帝国四公爵家の一つで過去は娘が皇帝の妃となり、皇女も降嫁していた。ジオスタイン自身は容姿•体格に恵まれ文武とも優秀だ。次期皇帝の筆頭候補であるとされており、その立場は揺るがない。そう誰もが思っていた。

「フローレンシアはどこに?来ているのだろう?」

ジオスタインがきいた。

皇子が伯爵の周囲を見回しても愛しい少女の姿はない。いるのは伯爵に支えられている夫人。それとジオスタインと同年代の兄妹。

「フローレンシアはこの子です」

伯爵夫人は兄に支えられた少女にをその腕に抱きしめ叫んだ。

「なんだと?」

「私たちのフローレンシアはこの子だけです」

今度は伯爵がはっきりと告げた。

兄に支えられて立つ少女がフローレンシアだと言うのだ。

「そのような少女は知らない。偽りを申すな」

苛立ちを隠しもせず声を荒げる。

「偽りなど申しません。なぜ偽らなくてはならないのですか」

伯爵の声から感情が失われていく。

「フローレンシアと共に学園ですごした。他にも過ごした他の者も知っている」

ジオスタインの同年代の者は肯定していた。

ほかに皇子の側近候補の少年らも事実だと証言した。

「娘は学院に通っていません。私と共にアルドリア王国で暮らていました。又、赴任中は帰国してもいません」

冷静を取り戻し皇子の言葉に返す。

「…一人帝国に送り帰されたと聞いた。タリスマルク家の別邸で数人の使用人と暮らしているぞ」

異国での暮らしで寂しさを感じて家族に訴えると帝国に帰るようにと言われた。涙をうかべて寂しげに言った姿を思い浮かぶ。

「娘を一人で帰国などさせておりませんし、娘と使用人で暮らすなどさせません。まだ成人前の子供。もしもの場合は帝都内の親族邸に預けます」

自身の預かり知らない所で何が起こっているのか見当がつかない。

噛み合わない話に周囲はざわめきだす。

皇子も伯爵も全く噛み合わいため、話せば話すほどに混乱していた。


「殿下、伯爵。言い合っていても埒が開かない。この場は私が預かってもいいかな」

二人に声をかけたのはアーバイン公爵だった。

公爵はこの広間にいる人間の中で、皇子に次いで高い身分である。公職では帝国軍もあずかっている。成人前の皇子より発言権はあるのだ。皇子とて折れざるをえない。

「わかった」

「わかりました」 

双方それを了承する。

「聞いての通りだ。今夜はこれで宴は終了だ。気をつけて帰られよ。ただ噂話はほどほどに。憶測など不快なだけだ」

参加者たちに釘を刺してその場を解散させた。 

皆が広間を去っていくのを横目に見ながら皇子らへ向き直る。

「殿下は自室にお戻りください。側近も連れて。陛下の御命令です」 

高圧的な口調だった。

「父上はご存知なのか!」

驚きて問い返す。今夜の事は父である皇帝には知られていないと思っていた。

「王宮内の出来事です。沙汰があるまで待機を」

皇帝は知っているのだとは言わない。

控えていた近衛騎士に連れられて戻っていく。

「伯爵。帰還の祝いの宴がこのようになり災難だっな」

柔らかな声で語りかける。

「思いがけないことでどう対処してよいのか。外交を預かる者として恥ずかしい限りです」

そう伯爵はこたえる。

「夫人も御息女もお疲れの様子。王宮に部屋を用意させている」

その後伯爵に耳打ちすると顔が一瞬だが顔がこわばる。

だがすぐに笑顔を作った。

「ありがとうございます」

伯爵一家は侍従に案内されその場を去っていった。



伯爵への耳打ち、それは。

『伯爵とご家族の命が狙われている。王宮内で保護を行う』


登場人物の名前を変更(ミスで同じ名前だった為)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ