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どんな魔法が好き?


「で、満足ですか? こうしてまんまと私を呼び出したわけですが」

「満足だが?」


 それからしばらくして、二度も助けてやったんだから俺の言うことを聞けという先生に半ば強引に呼び出されて私は研究室にいた。強引というか、ほぼ脅しだった。


 ちなみにあの事故の後は、やはりというかなんというか、予想通りの顛末となった。

 植物が暴走した原因は私の魔力コントロールが未熟だったせいで、あれだけの大事になったのは担当教師の監督不届で、教室が煤まみれになり天井に穴が開いたのは、先生の加減を知らない魔法のせいで。

 ()()と言われてしまう結末になったのは、それなりの力が裏で働いた証拠だった。


 先生は元凶である三人組を訴えようとしたけれど、そこは金や権力でねじ伏せられた学院側が全力で止めた形となった。

 お前が望むなら暴れてやる、と頭の痛い提案を先生にされたが、私も私でそんなことは望んでいなかった。


 終わったことを蒸し返して茨の道を進むより、ただ平穏に学院生活を送りたい。


 消極的な私の主張に、先生は納得がいかずしばらく虫の居所を悪そうにしていた。

 それからようやく機嫌が元に戻り、私を兼ねてより招き入れようとしていた研究室に呼びつけたわけなのだが。


「先生は、学院で何をしているんですか?」

「教師だが???」


 良質な香りがたつ紅茶は繊細な模様の描かれたティーカップに注がれ、ケーキスタンドにはいくら食べても減ることのなさそうなほどスコーンやらケーキやらが乗せられていた。

 研究室、という名称はその名にそぐわず、完全に先生の自室と化している有様となっていた。


 なるほどなぁ……と、私は学院の「お前はここで問題を起こさず大人しくしていろ」という意図を読み取った。この人、一体今まで何をしでかしてきたんだろう。


 先生はそんな私の思惑を知ってか知らずか、先ほどの質問に不満を唱えた。


「あのね、質問するならもっと実のある質問をしなさい」

「……例えば、何でしょう?」

「どうして私に求婚したんですか、とか」

「知る必要がないです」

「知りたがれよ!」


 私はわーわーと騒ぐ先生を無視して芳しい紅茶を一口飲んだ。うん、とても美味しい。


「まぁいいよ、お前が俺に興味を持ってないのはわかってるから」

「興味……は、ないですね」

「はっきり言うんじゃねぇ。本当に興味なさそうにスコーン食うな。ったく、だから俺が質問するからな」

「えぇ……」

「嫌がるな。素直に答えろ。俺に興味を持て」


 先生は私がスコーンを飲み込むのを待って、そして続けた。


「お前、どんな魔法が好き?」

「魔法……?」


 魔法ですか、とつぶやいて私は考える。

 火魔法や水魔法や風魔法の初歩的なもの、生活に必要な光魔法や、先生が使うような力強い魔法。

 どれもこれも『魔法』という括りでは一般で、魔法が使えない者からすると魅力的だけど、私が思い浮かべた魔法はそういうものではなかった。


「……お花が、蝶のようにひらひら舞ったり」


 ふわふわと優しい色合いで思い出す。

 昔好きだった、私の中に残る魔法の記憶。


「水が、イルカの形で宙を泳ぎ回ったり」


 小さな子供が何も知らずに、ただただ夢中で織り成した、無邪気な魔法のかたち。

 学院では絶対に教えてくれない、子供がつみ木で遊ぶような魔法が、私の中にずっと残っていた。


「よし、見せてやる」


 てっきり笑われるかと思いきや、先生はそう言って手のひらの中に魔法で水を作り出した。先生が魔力を加えると、形を持たない水がぐにゃぐにゃと動き出す。


「ぐ、うぉぉぉぉぉ」

「んぐぅぅぅぅぅぅ」

「どうだオラァァァァァ」


 力みばかりで震える先生とは対照的に、水は思い描いた形に少しも近づこうとしない。ぐにゃぐにゃと不明瞭に、それこそ手から滑り落ちるように動き回り、やがてぱしゃんっと床に落ちた。


「う、はぁ、くそ、魔力のコントロールが細けぇっ」

「先生の魔法はいつも豪快すぎるんです……」


 とはいえ、考えてみれば確かにそうかもしれない。先日の事故、もとい魔力コントロールの授業では、植物の種を適正に育成させることが課題だった。


 送り込む魔力が少なすぎれば成長はしないし、逆に多すぎると、あの事故ほどはいかなくとも適正からは外れて合格点をもらえない。

 魔力のコントロールは、とにかく繊細なのだ。


 もしかしたら、私の記憶にあるものは夢だったのかもしれませんね……。

 そう思わせるほどに、天才であるはずの先生の失敗は大きなものだった。学べば学ぶほど遠のく私の魔法の記憶は、確かに夢ではなかったのに、絵本の中の話のように錯覚してしまう。


 沈んでしまった私に、先生は「よし、わかった」と膝を叩いた。


「一日……いや、三日。三日後にまたここに来い」

「……なぜですか?」

「リベンジだ」

「えっと、遠慮します」

「普通に断ってんじゃねぇわ。いいから来い、三日後な。来なかったら学院放送で呼び出す」


 「嫁呼びするからなッ」という脅しを再び受けて、私は白い目を向けた。




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