笑顔のまほう使い
ある小さな村に、人を笑顔にするのが大好きなゆあちゃんという女の子がいました。
ゆあちゃんは、困っている人を見るとすぐに駆け寄り、泣いている人がいれば真っ先に慰めました。そして、誰に対しても笑顔で接していました。
村の人たちは、そんなゆあちゃんのことを「笑顔のまほう使い」と呼んでいました。
しかし、ゆあちゃんには大きな悩みがありました。
それは、学校の勉強がとても苦手なことです。数字や漢字がどうしても頭に入ってこないのです。
「遊んでばかりいないで、少しは勉強しなさい!」
と、しょっちゅうママに怒られます。
「勉強しないと、将来こまるわよ」
これもママの決まり台詞です。ママに言われれば言われるほど、勉強をしたくはなくなります。
ある日、ゆあちゃんはママに反発をし、親友のまなちゃんやくるみちゃんと遊びに出かけました。
2人は、ゆあちゃんよりも勉強ができました。
「あれ、ゆあちゃん。勉強してないのー?」
「ゆあちゃんはいいなー。私は、『勉強しないと遊んじゃだめ』ってママに言われているのに…」
そう言って、2人は勉強をしないゆあちゃんを、だんだんと仲間はずれにし始めました。それでもゆあちゃんは、精一杯の笑顔で接しようとしましたが、とうとうひとりぼっちになってしまいました。
そんなある夜、ゆあちゃんはなくなったおばあちゃんの夢を見ました。
「ゆあちゃん、どうしたの?今日は笑顔のお顔じゃないね」
おばあちゃんが優しく微笑みました。
「あたしね、どうしても勉強が嫌いでやりたくないの」
泣きじゃくるゆあちゃんの頭を優しくなでながら、おばあちゃんが言いました。
「ゆあちゃん、勉強はどうして必要なのか、考えたことがあるかな?」
ゆあちゃんは少し考えてから、自信たっぷりに答えました。
「将来困るからってみんなに言われるの。でもあたしは、勉強が出来なくても、みんなを笑顔に出来ればいいと思う」
「そうね。ゆあちゃんは、笑顔のまほう使いだもんね。そこでせっかくだから、少し考え方を変えてみたらどう?」
「どういうこと?」
ゆあちゃんが不満げに言いました。
「たとえば学校で、『この問題分からないよー』って困っているこが近くにいたらどうする?」
ゆあちゃんは、はっとしました。
「一緒に考えてあげたり、解き方を教えて上げたりできるね」
「そう。勉強嫌いなゆあちゃんだからこそ、困っているこの気持ちが分かるはずよ。だから勉強は、自分のことだけじゃなく、他の人を助ける力にもなるのよ」
そう言って、おばあちゃんはゆあちゃんを強く抱きしめました。
「おばあちゃん、ありがとう。あたし、頑張ってみるよ。みんなを笑顔にするためにね!」
目覚めたゆあちゃんは、おばあちゃんの言葉を胸に、少しずつ勉強に取り組むようになりました。
すると、不思議なことに、友達との会話も増え、新しいことを学ぶ楽しさを知りました。
学校では、勉強を頑張るゆあちゃんの姿を見て、まなちゃんやくるみちゃんも応援するようになったのです。
「ゆあちゃん、最近勉強を頑張っているね。私、負けそうだなー」
負けず嫌いのまなちゃんが、ノートをめくりながらつぶやきます。
「私もだよ。ただ勉強は義務だと思ってやって来ただけだったからね」
くるみちゃんも言いました。
「そんなことないよ。勉強は、2人のほうが優秀なんだからね。でも、『笑顔」だけは、私が一番だよ!」
ゆあちゃんが笑顔でいうと、2人からも笑みが零れました。
「やっぱり友達っていいよね。これからも宜しくね!」
ゆあちゃんがさらに笑顔を見せると、2人も負けずと笑いました。
ゆあちゃんは、勉強も友情も、どちらも大切にすることができるようになりました。そして、村の人たちを笑顔にする「笑顔のまほう使い」として、これからもみんなの心を温め続けるのです。