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3-3. 大地と雷のラウェンナ(1)

これはのちに3賢者と呼ばれる3人の“エルフ”の記憶。

彼女たちの400年の軌跡。


エルフ歴 2024年2月のある日


後のエルフの王となるカサドールはモルタ達の前に一人の女性を連れて来た。


「こいつは国民第一号となるシルウィアだ。お前たちと違って戦闘では全くもって役に立たない、だが大切な国民として守ってやれ。」

「シルウィアと申します。ノーナ様、デキマ様、モルタ様、不束者ではございますが、よろしくお願い申し上げます。」


長い栗色の髪を揺らしながら、シルウィアは可憐に微笑む。


「帰るべき家に誰かが待っていてくれるというのもいいものだろう?」


カサドールはことのほか満足げな様子だったが、そこに「確認よろしいでしょうか」とノーナのいつもの冷静な声が水を差す。


「カサドール様、現在我々の“日々の糧”も不足している状況ですが、この者に優先的にエネルギー源を回したほうがいいのでしょうか。」

「ふむ、いつもの食糧問題か。ウナギも狩りつくしてしまったし、次の手を早急に打たねばならんな。なお、糧は4人平等に分配だ。」


こちらの世界に転移してしまって以降、彼女たちには食糧問題が常に付きまとっていた。

その都度代替品でごまかしているものの、もう一人食い扶持が増えることは深刻な問題だ。


ノーナとカサドールの会話にシルウィアも浮かない顔でたたずむ。

白熱する二人の議論にいたたまれなくなったのか、シルウィアはモルタに視線を移し、申し訳なさそうに微笑んだ。

その美貌に、その奥ゆかしい所作に、モルタは嫉妬心を抱いていた。


「やはりそれなりの文明をもつ種族を征服するのが簡便だな。国民も出来たことだし、さっさと建国してハーフリングの国を侵略するか?」

「この世界の人類がいかに脆弱とはいえ、4人で一国を相手にするというのは軽率と言わざるをえません。」


モルタには、正論しか答えないノーナに主がだんだん不機嫌になっているのが見て取れた。

険悪な空気にデキマも慌てているものの、良案が浮かばないようだ。

モルタは大きく息をつく。

その吐息と一緒に不合理な嫉妬心も吐き出した。


「そ~んなピンチに有能探索係<シーカー>モルタちゃんからビッグニュースです!あの山に住み着いているというドラゴン、なんと超強力な雷のブレスを吐きます!」

「ほほぅ、渡りに船というやつだな。」

「強敵ではあるけど、旨味もたっぷり、というわけです。ついでに、もしもうまくいったらもっともっと国民、もとい兵隊を確保することを提案します!それでハーフリングの国はちゃっちゃか潰しちゃおう。」


モルタはくるっと身軽なターンをして見せ、顔を曇らすシルウィアの腰に腕を回して笑顔を作る。


「お兄ちゃんを敬う国民は多いに越したことはないよ。なにより、シルウィアちゃんみたいにとってもかわいい“エルフ”はもっとたくさん居てほしいしね。」

「いい案だ、モルタ。早速ドラゴン退治としゃれこもう。そしてそのあとは国民を増やさないとな。・・・どれだけ国民が増えようが、お前ほど有能で可愛い妹は他にいないがな!」


カサドールは上機嫌にモルタの頭を撫でる。

モルタは主人のその言葉に心が満たされていくのが分かった。


「ドラゴンかぁ~強そうで怖いね。」


少し不満げなノーナの顔を見て、デキマが見え透いた弱音を吐く。

カサドールはそれを見て自慢の大剣を取り出し、振り回して見せた。


「なに、この超優秀な探索係<シーカー>と同じくらい有能で可愛い姉も2人いて、俺もいるのだから、心配いらんさ。」

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