3-2. エルフの国(3)
翌日の朝。9時半。
私の目の前にある画面には、のどかな村の風景が映し出されています。
密偵役の3人は夜の休憩時間9時間以外はほぼ不休で進み続け、ホームから400km程離れたエルフの国の南側国境に今朝たどり着いた。
国境とされる峠は少し慎重に進んだけれど、結局国境警備兵的な存在は認められず、程なくして山間に村と思しき民家が点在している場所に到着する。
エルフの村と言えば、作品によって異なるとはいえ、大木の一部を住処としていたり、かわいくファンシーな魔法文明に彩られていたり、そういうのあってもいいじゃない?でも、まぁここは普通ののどかな村だよね。
木造の小屋が点在して、庭にちょっとした花や野菜が植えられていて。
つまり人間の村と大差ないわけ。
別にがっかりなんてしてませんけど!
『村のはずれに、誰が使ってもいい共有の小屋があるので、そこを使うといいと思います。こっちですよ。』
密偵役の3人を案内してくれているのは、村人第一号エルフの少年です。
音はいよちゃんのスキルでは共有できないので、よんよん君が少年のセリフを伝達<コール>で教えてくれています。なので、少年のCVはよんよん君です。
『旅の方なんてはじめてです。この村は国境に近いので、危険というイメージがあるらしくて。』
栗色の髪に青色の眼・・・そして長い耳。少年のその姿はまさしくエルフだ。
密偵役の3人はつけ耳をしてエルフに扮してもらっている。
この世界のエルフの特徴は過去の言い伝えを鑑みるに、髪の色や肌の色、目の色はバリエーションがあるらしいことがわかっている。ここから耳が長ければエルフと認識されるのではないか、と判断したつけ耳です。
これでエルフ達にエルフと誤認してもらえるかはちょっと不安だったが、少年の反応を見ると問題なさそう。
『いよ、確認なのだけれど、村のほぼ中央を突っ切って歩いているという認識でいいだろうか。』
『見ればわかるだろうが、ななん!・・・いや、そうだな。正直バレてんのかバレてないんだかわからん。スキルを使わなくても、たいていはしぐやさ細かな表情で感情は読めるもんだが・・・どうも感情が読みづらい。』
いよちゃんとななんちゃんは少年を警戒してるみたい。
人間でいう10歳くらいの無邪気な少年に見えるけどなぁ。
『気配も独特だ、エルフとはこういうものか?』
伝達<コール>でそう言うろくろちゃんは、私が見ているいよちゃんの視界において、エルフの少年に普段は見せない愛想を振りまきながら朗らかに会話している。器用だなぁ。
煮炊きしているらしき煙突の煙、大泣きしている赤ちゃんをあやしている女性、散歩しているおばあちゃん。
すれ違う人は始めこそ驚くものの、少年の「旅人さんなんだって!」という言葉に微笑み、「ゆっくりしてらっしゃい。」と3人を受け入れてくれる。
本当に普通ののどかな村だ。
エルフが凶悪な種族なんて、やっぱり敵として脚色されてない?
『君はしっかり者だね。いくつなんだい?』
『僕?298歳だよ。』
どっちもよんよん君の声なのでわかりにくいが、おそらくろくろ君とエルフ少年の会話だろう。
「ふむ・・・エルフの国がニンゲンの国と戦争していたころに生まれた個体のようですね。」
ななんちゃんは隣にいるはっち君に話しかけているようで、皆に聞こえるように発言している。
おそらく、この場にいるみんなと情報確認をしてるんだと思う。
地味に助かる。
「まだ少年なのに300年近く生きてるのか~大先輩だねぇ。」
10歳くらいに見えるのに300歳近いということは、エルフは600歳とかで成人なんだろうか。
「ヒト族って、時間経過で成長するんだよな?かったるいな。」
「経験で成長する我々から見ると非合理的に見えますが、そういう生物ですから。」
濃ちゃんとななんちゃんの会話を解説すると、『メガラニカ』においてモンスターという種族は、レベリングによって成長するという設定がある。どれくらいのLvで成人かというのは種族によって違うけど、例えばデスウィーパーなんかは設定としてLv.10で成虫らしい。
・・・あれ?もしかしなくても、フットマンの子たちってつい最近まで全員子供だったってことじゃん。児童労働ダメ、絶対!
それはそうと、フットマン達をレベリングしなければ永遠に子供だったってことで、日本ショタ学会に永遠の少年の報告をしなきゃいけないね!
「大人になるまでにもう数百年は生きないといけないとか大変だよねぇ・・・私はそんなに長い時間生きられないなぁ。」
なんとはなしに私が横にいる薄ちゃんに話しかけると、薄ちゃんが目に見えてフリーズする。
「なっ、なんでっすか!?!?俺っち、みょんみょん様が毎日面白おかしく過ごせるように、バッチリネタ仕込んでくるっすよ!?みょんみょん様が望むならもっともっと・・・いっぱい面白い話出来るっすよ!!」
「え、あ、うん、薄ちゃんのおかげで毎日楽しいよ!」
薄ちゃんがあまりに必死だから、私も気圧される。
周りを見ると、他のみんなも動揺しているのがわかる。
「な、な、なにか、御苦労があるのでしょうか!?面倒なこと、煩わしいこと、は、全部眷属に、僕たちに任せてっ、みょんみょん様は、お、お好きなことだけっ、されれば・・・よ、よいかと!」
書記の仕事をなげうって、はっち君は私の脚元にひれ伏して、目に涙を浮かべて懇願してくる。
え、何事?私なにか変なこと言った?
「潜入調査の監督がご負担でしたら、必要なことのみ後でご報告申し上げます。みょんみょん様はその分時間を有意義にお使いください。」
「そうですよ!みょんみょん様がエルフの国を見てみたいっておっしゃったからここに映してみんなで見ているんじゃないですか。早速疲れちゃったんですか?それならちょっと休んでから散歩に行きませんか?」
いよちゃんの視界が映し出される画面のチェックを片時も怠らなかったななんちゃんも、私の前に恭しく跪く。
濃ちゃんもちょっと茶化したような口ぶりだが、かなり慌てているように見える。
「大丈夫よ、大丈夫だから、皆落ち着いて?私エルフの国を見られてワクワクしてるわ!・・・ほ、ほら!小屋に着いたわ!小屋!」
私がいよちゃんの視界が映し出されている画面を指さしても、みんな画面を一瞥するだけで、すぐに私の顔色をうかがうように私を見る。
「ほら、ほら重要な情報あるかもしれないから見よ!みんな画面に集中!あ、これ命令ね!!」
そこまで言うと、みんな各々の持ち場に戻ってくれた。
みんな苦虫を噛み潰したような顔をしてるけど。
画面には案内された小屋に入るろくろちゃんとよんよん君が映し出されている。
いよちゃんは入るのをためらっているようだが、ろくろちゃんに少し睨まれて仕方なく入った感じだ。
これだから探索役<シーカー>は疑い深いというかなんというか。
『エルフの幼体が言うには、私たちの為になにか食事を取りに行くらしいが・・・追跡していいか?』
いよちゃんの伝達<コール>にななんちゃんは私の顔色を少し伺う。
う~ん、私にはどうしたほうがいいかは判断できないかな!
『罠かもしれません。まだ無理はせず、相手の出方を伺いましょう。少年の対応は怪しさがぬぐえませんが、決定打もありません。まず、少年がいない間に周囲の安全を確認してください。』
『わかった。』
『了解。』
みんながガチガチに警戒してくれてるから、私は何にも考えずのんきにエルフの国観光を画像で楽しもう、私はそんな風に考えて紅茶を飲むのでした、まる。




