3-2. エルフの国(1)
これはのちに3賢者と呼ばれる3人の“エルフ”の記憶。
彼女たちの400年の軌跡。
エルフ歴2023年6月
高緯度にあるエルフの集落は、白夜のため真夜中でも薄明のように明るい。
しかし今宵はことさら明るかった。
「出立の儀としてはなかなかじゃないか?」
彼女たちの主は丘の上から眼下の光景を満足げに見ていた。
主の名前はカサドール。
後の“エルフの王”だ。
長いプラチナブロンドの髪と緑の瞳、そして長い耳は純血のエルフの証だ。
口元には不敵の笑みを浮かべているが、目にはどこかシニシズムを湛えている。
「歓声があったほうがよかった?ほら、お兄ちゃんはそういうの好きでしょ?」
末の妹のモルタが悪戯っぽく笑う。
「眠らせたお前がそれを言うか?いや、知性を欠いた者どもの喚き声は耳障りだ。お手柄だぞ、モルタ。・・・さぁ、汚い花火も見飽きたし、そろそろ行こうか。」
「仰せのままに。」
長女のノーナは片膝をついて畏まる。
「またやってるぞ、ノーナ。俺達は兄弟なんだ。お前のまじめさは美徳だが、大仰すぎるのは好かん。」
「承服いたしかねます。」
ノーナは顔もあげずに即答する。
その様子にさすがのカサドールもあきれて、他の2人の様子を見る。
「はぁ、主の願いぐらい多少融通をきかせてほしいものだが。まぁいい。・・・なんだ、デキマも不満か?」
「ううん、そうじゃなくて。・・・カサドールちゃんのすごさがわからない人たちってかわいそうだな~と思って炎を見てたの。お祈りだけしておいたよ。神様の御許で心安らかにいられますように。」
2番目の姉であるデキマは無邪気に祈るフリをする。
「俺のというか・・・奴らのお前達への態度が気に食わなかったのだがな?」
「ん~まぁ、同じだよ。」
困ったように微笑むデキマにカサドールは踵を返すと、南に足を向ける。
「お前らを馬鹿にするやつは全部消す。低能な馬鹿どもを全て消せば、もう少し暮らしやすくなるだろう。そのために、エルフだろうが、人間だろうが、ハーフリングだろうが、ドワーフだろうが・・・敵は全て屠る。」
神話の時代より続くエルフの村を焔で焦がして、4人はその日旅出った。




