2-11. 深き森の神の蟲(2)
「それで、我々としてはカラス君の行動が全くわからないのですが。説明していただけますか?」
「俺は・・・黒いアラクネが遭遇時に初手で魅了<チャーム>をしてきたこと、どういう理屈かはわからないがその魅了<チャーム>に犯されかけていることに気づいて・・・自死しようとして失敗した。気が付いたら牢のようなところに閉じ込められていた。濃墨の話では“みょんみょん様の命令で俺を魔法で回復させ、ホームの俺の部屋に幽閉した”とのことだったが、かろうじて行えた鑑定では濃墨が敵の魅了<チャーム>にかかっていることがわかった。会話した印象では、魅了<チャーム>の影響で敵の都合がいいように思いこまされていたようだった。他に『眷属のことをいろいろ聞かれたから答えた』とか『みょんみょん様は少し外出するが他の眷属を連れて行くからついてくるなと言われた』とも言っていた。あの状態の濃墨を放置するのは危険と判断したので、隙を見て致命傷を与えた。」
カラス君はそこまで一息で言った後、大きくため息をつく。
「眷属の危険でみょんみょん様を呼び寄せてしまうことは失念していた・・・あの場が安全かどうかも判断できなかったのに。」
重い空気が流れる。
「では、濃墨君から我々の情報を手にした女王蟲は、敵わないと判断して逃げた、という可能性がありますね。それにしても不可解な点は多くありますが。」
「あ、ななんちゃん、女王蟲が逃げるのに濃ちゃんという人質連れて行かなかったことを怪訝に思ってるんでしょ~。私でもわかる~。」
私は冷静にふるまうためにななんちゃんを茶化す。
そうしてから改めてカラス君の方に向き直る。
「で、カラス君はなんで私が怒っているかわかる?」
上司のセリフとして最低だという自覚はあるが、思わず言ってしまう。
なんせ私は今猛烈に怒っています。
「濃墨を・・・害したからです。」
それっきりカラス君はうつむいて押し黙ってしまった。
ダメですね、だめだめです。
40点!1000点満点中ね。
「まぁそれもないとは言えないよね、今後はやめてほしいし。でも、濃ちゃん魅了<チャーム>にかかってたし、完全に敵に利していたわけだから酌量の余地はあるとして。」
カラス君の横で濃ちゃんが青ざめているのも気になるけど、先に言いたいこと言わせてね。
「だって私・・・めちゃくちゃカラス君のこと心配したんだから。」
思わず涙をこぼしてしまう。
うつむいていたカラス君も驚いて顔をあげる。
だって仕方ないでしょう?
安易に指揮をとりたいなんて言っちゃって。
濃ちゃんの装備さえも見落としている私が。
何が起こっているかもよくわからないのに。
カラス君が大怪我して倒れたことは確定してる。
「『自死しようとして失敗した』じゃないのよ。『みんな無事に帰る』って言ったじゃない。もうちょっと、私の大事なカラス君を、自分で自分を大事にしてよ。」
言いたいことは言った。
でも、私が泣き出しちゃったもんだから、誰も何も言えずにいる。
濃ちゃんが元気なら優しい言葉で慰めてくれて、薄ちゃんが元気なら面白いこと言って場を和ませてくれるのにね。
2人とも私の浅慮のせいで元気じゃないんだよね、残念だね。
「ごめんなさい。で、黒いアラクネが逃げたとして、ななんちゃんはどうするつもりなの?」
私はななんちゃんが広げた地図に向き直り、強引に話を戻す。
「・・・はい。いよにアラクネの捜索を行わせていますが、アルジャー大森林にとどまらずそれ以上逃げられると捜索が難しくなります。たとえば大森林の東、エルフの里に逃げ込まれることがこちらとしては最悪な状況です。阻止したいところですが、オスが使えないとなると・・・」
「女の子たちだけで対応しなきゃいけないんだから仕方ないわ。」
よんよん君が作ってくれたハンカチで涙をぬぐう。
グロ画像見て動揺するし、感極まって泣いちゃうし、情けない主だな。
ちょうどそこに、いよちゃんから伝達<コール>が届いた。
『みょんみょん様、ななん。女王蟲を見つけ、拘束した。』




