2-10. 救出劇(5)
「濃ちゃん!」
主の声が遠くで聞こえる。
・・・これは一番目の眷属である濃墨の夢。
「ふふ、ありがとう。」
おどける弟に主は微笑む。
あでやかで可憐なその笑顔に、濃墨は思わず見とれた。
主はよく笑う蜘蛛だったし、笑顔は何度も見たはずだった。
しかし、このように愛らしいものだったかと、濃墨は内心動揺していた。
見知らぬこの世界に来た日のことだ。
「これあげるから使って。」
主はアイテムボックスからレイザーエッジという短剣を取り出した。
濃墨の装備はすべて専用に作られたもので、性能は少し劣るとはいえ自慢の品だった。
防具もナックルも釘バットもすべて大切な品だ。
それでも、直々に下賜された品というのは特別だ。
「あ、ありがとうございます!」
絶対、この笑顔を守る。
そう誓った。
急にあたりが暗くなる。
濃墨が慌ててあたりを見回すと、目の前に仲間のカラスが立っていた。
手にはレイザーエッジを握りしめている。
さっきまで濃墨の手にあったレイザーエッジだ。
カラスのその暗い瞳を見て、濃墨は直感的に、レイザーエッジが盗まれたことに気づいた。
「返せ!」
闇に溶けるように消えるカラスに濃墨は叫ぶ。
「それは俺のだっ!」




